「ラジオ深夜便」アンカーのエッセーを「ステラnet」でも。今回は徳田章アンカー。

最新のエッセーは月刊誌『ラジオ深夜便』7月号で。

私がおよそ5年間担当した「NHKのど自慢」を卒業して丸10年がちました。番組を引き継ぐ時、前任の宮本りゅうアナウンサーは「人間ドラマそのもの」と言い、大先輩司会者の金子辰雄さんからは「歌番組ではない。この町にはこういう人が暮らしている、その紹介だ」と聞いていました。

当時1回の予選に250組(注1)が出場。そこではステージから客席の彼女にプロポーズしたい若者、日頃の感謝を歌の力で奥さんに伝えたいお父さん、中には歌い終わった途端私の所へ来て「間に合いませんでしたっ」と泣き出す男性、聞けば病気の妻を励まそうと参加したものの数日前に亡くなったとのこと。「歌声はきっと奥様に届きましたよ」と慰めるのが精一杯でした。予選を勝ち抜いた20組(注2)の本番当日朝一番のイベントは出場順の発表です。
(注1)現在は210組。(注2)現在は18組。

トップバッターは? しんがりは? 発表に一喜一憂。自己紹介が済むころには足の不自由な方の横には介護士の女性が付き添い、お年寄りは高校生男子が手を引いてと、20組の温かいチームワークが出来上がります。そして本番、豪快に『男の土俵』を歌った96歳の男性、老人ホームに慰問に行くと「皆年下だよ」。リストラでタクシー運転手に転職したお父さんにエールを送る女子高生、鐘は2つでも「お父さん、大好きだよ!」のひと言に思わずグッときたことも。

担当を始めたころ私は55歳、人並みに人生の喜怒哀楽を知っているつもりでしたが、なかなかどうして毎回さまざまな人生模様が垣間かいま見えます。私と同様、「泣いて笑って」出場者に10年寄り添った小田切〝熱血〞せんアナウンサーも卒業して、4月からの司会は二宮直輝・廣瀬智美アナの2人体制(注3)。10歳以上若返りました。若いからこそ思うこと、感じることがあるはず、全身全霊で〝喜寿〞を迎えた「のど自慢」を盛り上げてください。
(注3)1週おきに担当予定。

(とくだ・あきら 第1・3・5日曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年5月号に掲載されたものです。

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