月刊誌『ラジオ深夜便』にて、2022年4月号より連載している「渡辺俊雄の映画が教えてくれたこと」をステラnetにて特別掲載。「ラジオ深夜便」の創設に携わり、現在「ラジオ深夜便」の「真夜中の映画ばなし」に出演中の渡辺俊雄が、こよなく愛するラジオと映画を熱く語る。

先日、母校の大学で卒業50年を祝う「きんしゅく」という行事が催された。会場には見事に老人化した400人近くが集結。若き日の思い出やお世話になった先生を懐かしむ会話は、やがて各人の病歴や介護の苦労話へ。すでに他界した同級生も多かったが、友人たちと旧交を温め合った。なかには『ラジオ深夜便』の「真夜中の映画ばなし」を聞いてくれたり、この連載を読んでくれたりする仲間もいて感想を聞くことができた。

さて、今回は大学紛争が落ち着いた大学3年から――。時代は1970年になっていた。

大阪では万国博覧会が開催され、高度経済成長の真っただ中にあったが、映画界だけはその波から外れ、斜陽の道を突き進んでいた。映画作品もそんな時代を見事に映し出している。

この年の『キネマ旬報』ベストワンに輝いた山田洋次監督の『家族』は、高度経済成長から取り残された長崎県の炭鉱労働者一家が新天地を求めて北海道に移住する物語だ。一家は日本を縦断する長旅の途中で大阪万博の入り口まで行きながら、中に入ることすらできない。すでに日本社会には格差が広がりつつあったのだ。

この年の日本映画にはるべき力作、問題作が多かった。黒澤明監督が初のカラー映画『どですかでん』で復活したほか、山本さつ監督の大作『戦争と人間 第一部「運命の序曲」 』、吉田よししげ監督の『エロス+虐殺』 、 今井正監督の『橋のない川 第二部』、新藤兼人監督の『裸の十九才』など。その一方で高倉健や ふじじゅんすみ)主演のにんきょう映画も異彩を放っていた。

そんな時代を象徴する出来事が11月25日に発生した。三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊に乱入し、割腹自殺したのである。その日、僕は市ヶ谷のすぐ隣にある四谷キャンパスにいたが、「三島由紀夫が自衛隊に立てこもったらしい」という一報は昼頃さざ波のように学内に広まり、「市ヶ谷へ行こう!」と 走り出した学生もいた。僕はテレビのある場所に移動し、事態の推移を見守っていた。

三島由紀夫といえ ば当代随一の作家で 、『潮騒』『金閣寺』など映画化された作品も多く、自身も出演するなど映画との関係も深い。そんな彼が「ハラキリ」だなんて……。学生運動が収まってきたと思ったら、今度はクーデターか。後に大ヒットした森田公一とトップギャランの『青春時代』の歌詞ではないが、青春時代、僕の胸に刺さったとげとなった。

(月刊誌『ラジオ深夜便』2023年5月号より)

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