「超多様性トークショー!なれそめ」
Eテレ  毎週(金)午後10:00~10:29
再放送 毎週(火)午前0:00~0:29(月曜深夜)
NHKプラスでは同時配信、放送から1週間見逃し配信しています。

女子校出身のトランスジェンダー正木菜々瀬が、これまでの経験などをもとに番組をレビュー。独自の視点で感想や見どころなどを綴っていきます。誰かの背中をそっと押すような、そんな番組との出会いを皆さんに届けていきます。

ネガティブだった自分や人に言いたくない過去、それらのすべてが今の私をつくり上げている――。
にもかかわらず、人はマイナスと思われる部分は自ずと隠してしまいがちだ。しかし、そのマイナスな部分と向き合い、調和していくことで、進むべき道が見えてくるように私は思う。今の自分を受け入れるという気づきが、人生を導く一筋の光明となるのだ。

「超多様性トークショー!なれそめ」4月21日(金)の放送は、来し方行く末の私について、多様な観点をあたえてくれるものとなった。

この回のゲストカップルは、500以上の楽曲を手がける作詞・作曲家の岡嶋かな多さん&超ポジティブで型破りに応援する澤田知之さん。

ふたりはどのようなきっかけで出会い、カップルになったのか? 
輝かしいキャリアをもつ岡嶋さんが抱える過去や、これまで14回の転職をしてきた澤田さんの苦悩とは? そして、ふたりの間にはどんな葛藤があったのか? 
「なれそめ」のキーワードを記した「なれそメモ」をもとに、司会の田村淳さんをはじめ、ゲストの方々が多彩なトークを繰り広げた。

ふたりの出会いは、共通の知り合いを通してつながったラフな飲み会。
ネガティブで自己肯定感が低い岡嶋さんは、「明るくてポジティブな澤田さんとなら幸せな人生を歩めるかも……」と直感的に感じたことが、ふたりの交際のきっかけとなる。

キャリアはまったく異なるけれど、何か通じるものを感じた岡嶋さんは、自分が苦しんだ過去を澤田さんに打ち明けることに。岡嶋さんは幼い頃アメリカで、近しい人から性的虐待を受けており、自分の存在意義を考えて、落ち込むことが多くなっていたという。

岡嶋さんが苦い過去を打ち明けられる人と出会えたことが、私には我がことのようにうれしかった。そして、改めて、人と人の出会いや「なれそめ」には人生を変えるエネルギーがあるのだと感じた。

かつて、私もそれまで誰にも言えなかったつらい過去を打ち明けた経験がある。
トランスジェンダーとして生きる現在の私の戸籍は「男」となっている。ただ、男性としてはまだ2年ほどしか生活をしていない。

過去の自分の容姿を見たり、性別を思い出すのは少しつらかった。当時の記憶がよみがえり、胸が痛く悲しくなるからだ。その一方で、大切な人の前で過去を隠し続けることもまた、苦しかった。

そんな折、自分のつらかった過去を話したくなるような出会いがあった。その人は私の話を聞いて、こう語りかけたくれた。

「過去は過去、今のあなたは、“今ここ”に存在している」

とてもうれしかった。そのまなざしは、私の背後にある過去も含め、私のすべてを受けとめてくれていた。安心感と同時に、自信を持たせてくれたことに心から感謝している。自分のつらい過去を話せる人との出会いは、これから歩む新しい未来につながっているように思う。

岡嶋さんの話を聞いた澤田さんは、次のような言葉をかけた。
「その過去があるから、こんなにも優しく温かい人」

澤田さんのプラスの変換力で、岡嶋さんの歩む道が明るく照らされたようだ。この瞬間、きっと生きやすい未来が開けたに違いない。

誰もがつらい経験をしていたり、思い出したくない過去を抱えていたりする。
話せば楽になるのかもしれないが、なかなか話せない。また、話しにくいからこそ思い悩む。これらを受け止めてくれるような人との出会いは、偶然なのか必然なのか、何か人生の光明のように私は感じている。ふたりの出会いは、改めて身近な存在に感謝する大切さを教えてくれた。

この回で私が特に感心したのが、
澤田さんが「男と女とは何か――」という壮大な問いを立てたことだった。
地位や肩書、収入……、澤田さんは何ひとつ岡嶋さんに勝るものはないけれど、はたして勝る必要があるのか。男性だから女性よりも収入がよくて、地位をあげることが本当に重要なのか。そもそも男性って何なのか? 澤田さんは考えるようになったという。

私が戸籍の性別を「男」に改めたのは21歳の春だった。
確かに、以前よりは自分らしくいられるようになった。だが、これまで男性として生きてきた人と自分を比べては、何か足りないものを感じていた。劣等感にさいなまれ、息苦しさを抱えながら生きていた。
体や戸籍を変えても、変えられないものがある――。それは、これまでの人生の記憶とそれを背負って生きる私の心だ。ゆえに、他人と比べてしまい、自分らしく生きることができていなかった。

そんなときに出会った言葉がある。
「他人の人生と比べた瞬間、それはあなたの人生ではなくなる」

この言葉によって、私は他人の人生と比べることをやめ、自分の人生と向き合えるようになった。
人は自分にはないものを求めようとする。だが、自分に持っていないものを探す時間より、いま自分が持っているものと向き合う時間が貴重なのだと気づいたのだ。

「何ひとつ比べる必要などない」
番組で澤田さんがそう断言したのは、多くの仕事を経験し、苦労を重ねた過去があるからこそだろう。ふたりの関係性を劣等感ではなく、ポジティブな思考で受け止めるメンタリティに敬服した。

そんな、ふたりが考える「超多様性」とは……?
「自分たちが納得してはみだす」(澤田知之さん)
「自分の嫌いなところも全てが個性」(岡嶋かな多さん)

内在するネガティブな一面も苦しかった過去も、“今ここ”を生きる私。ポジティブ思考でいえば、「個性」となっているのだ。多様であることは美しく、そして楽しい。
そして、人生は比べるものではなく、唯一無二のものであると、ふたりの「なれそめ」を通して私は実感した。

(文/正木菜々瀬)

作詞・作曲家の岡嶋かな多さん&超ポジティブ思考で型破りに応援する澤田知之さんカップルの「なれそめ」は、本放送から1週間見逃し配信しています。
https://www.nhk.jp/p/naresome/ts/KX5ZVJ12XX/episode/te/18KJ5KQP39/

次回の放送は、5月5日(金)!
「世界が変わった耳の聞こえない彼&幸せを見つけた耳の聞こえる彼女」カップル!
https://www.nhk.jp/p/naresome/ts/KX5ZVJ12XX/
(放送後、1週間見逃し配信しています)

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。