創建以来の優美な姿を保つ薬師寺東塔。その大修理が2020年に完遂された。文化財保存関係者、建築史、年代学、美術史、考古学などの研究者が、貴重な知見をわかりやすく解説。

アメリカの東洋美術史家・フェノロサが「凍れる音楽」と評したといわれる、奈良の薬師寺東塔。国宝に指定されるこの塔は2009年からの大規模な解体修理が終了し、ことし*3月に無事一般公開されました。本書はその解体修理をさまざまな観点から記録したもので、文章だけでなく写真、図表などたくさんの資料が掲載されています。

災害や戦乱などで幾度も焼失した薬師寺において、唯一奇跡的に残った東塔ですが、今回、解体してみると、さすがに満身そう。最初に修理が行われたのは平安時代で、以降、室町時代、江戸時代に幾度か。

明治時代にも大規模に行われたそうです。世界最古の木造建築物・法隆寺もそうですが、日本の木造建築は絶えずメンテナンスをしているので長くもつのですね。

諸説あった東塔の建立年代も、今回の調査ではっきりしました。薬師寺は7世紀末に藤原京で創建、8世紀初めの平城遷都で現在の地に移されました。東塔は、すでに藤原京に建っていたものを解体して運んだのか、それとも平城京で建てられたのか……。

第6章「年輪が明かした薬師寺東塔の建立年代」に書かれていますが、塔の中心に立つ心柱の外側の年輪を調べたところ、西暦719年の木材だと判明。東塔は平城京で建てられたものとわかったのです。

12年ぶりに公開された東塔。この本を持って、現地でぜひ見たいと思っています。

(*NHKウイークリーステラ 2021年6月18日号より)

北海道出身。書評家・フリーライターとして活躍。近著に『私は本屋が好きでした』(太郎次郎社エディタス)。