「アニ×パラ キャラバン Vol.4  車いすバスケットボール」
2月17日(金)BS1 午後5:45~6:00
〇出演:武井壮、おのののか、茂木健一郎、鳥海連志
〇司会:久下真以子
〇語り:庄司宇芽香


日本を代表する漫画家や人気アニメとのコラボにより、パラスポーツの魅力をオリジナルアニメで描く番組「アニ×パラ〜あなたのヒーローは誰ですか〜」
そのスピンオフ企画として、パラアスリートが各地を訪れ、パラスポーツ体験や意見交換を通して、共生社会について一緒に考える取り組みが「アニ×パラ キャラバン」だ。

今回、そのイベントが行われたのは、ことしの「箱根駅伝」優勝校、駒澤大学。「アニ×パラ」応援団長として、数々のパラスポーツに挑戦してきた“百獣の王” 武井壮に、今回参加したイベントの印象とパラスポーツへの思いを聞いた――。

――今回はパラリンピアンのちょうかいれん選手との車いす競争などもあり、鳥海選手が磨き上げたチェアワークやその圧倒的なスピードを目の当たりにすることができました。

駒澤大学の学生さんがたくさん参加してくれて、特に運動部のアスリートの方が多かったので、鳥海くんのパフォーマンスが、自分たちが不自由ない身体でプレーして身につけたものと何ら変わりのないすばらしいものだと、しっかり伝わったのではないかと思います。

例えば、僕たちがプロ野球選手の球を初めて目の前で見たときの感動――。そんな感動と同じように、心を動かされるものがあったと思います。また、こうしたパラアスリートの姿を番組として紹介させていただけるのは非常にうれしいことで、今回も充実したイベントになりました。

――今回のイベントで、特に印象に残った鳥海選手の言葉などはありましたか?

今回、衝撃的だったのは、イベント内で紹介された彼の子ども時代の映像。彼が下肢が欠損した小さい身体で、ほかの子どもたちと遜色なく動き回る姿や、負けず嫌いで何とか勝ってやろうとする姿を見て胸が熱くなりました。今彼が持っている能力は、彼が天才だから、超人だから手に入れられたものではなく、本当に何もできないところから、「もっとできるようになりたい」「もっと動けるようになりたい」という強い意志で身体を動かし、手に入れてきた結晶なんだと。

子どものころの鳥海くんが一生懸命に動き回っている姿に接し、あらためて今の彼を見ると、前に進もうとする心を持ち続けた膨大な時間の積み重ねが感じられて。「なんて、すごいやつなんだ」と本当にリスペクトできる存在として、さらに彼のことが好きになりましたね。

――そんな鳥海選手のすごさは、彼のポジティブな考え方も含め、イベントに参加した学生にもしっかり伝わったのではないかと思います。

パラアスリートたちの努力を見ていると、健常者の僕たちは、まだもっと努力できるな、といつも感じるんですよね。ただ、すごいポジティブなエネルギーを持って道を切り開いてきた鳥海くんは、やっぱりスーパースターだと。

例えば、イチロー選手や大谷翔平選手、陸上だったら室伏広治選手など、世界に誇る日本のスーパースターがいますが、アスリートみんなが彼らのようなモチベーションを持って毎日を過ごしているかと言われたら、そうじゃない。でもみんな楽しくスポーツに触れて、人生を楽しめる。さらに本当に頑張ればスターにもなれる。自由に簡単にスポーツと触れ合えるんです。

そして、パラスポーツの世界にも、パラリンピックに出場できない選手、所属チームでレギュラーになれない選手、さらにはその競技にもたどりついていない人たちがたくさんいる。だから、ポジティブな言葉を受け止めながらも、そのポジティブさを必要としなくても彼らがやっていけるような社会をつくっていく必要があると思います。彼らが「よし、やろう」と思ったとき、すぐにできる「容易さ」みたいなものを。

――確かに、パラスポーツの練習環境はまだ整ってないという話をよく耳にします。

県をまたいで長い距離を移動しないと車いすの選手が使用できる体育館がないなど、練習場所に困っているパラアスリートがたくさんいます。移動時間も交通費も、僕らの何倍もかかってしまう……。

ただでさえハンディキャップがあるのに、より時間も費用もかかるのが、パラアスリートの日常なんです。彼らが不自由さを感じている環境、バリアが、まだまだ山ほどあって。それで、続けたくても続けられない選手がでてきてしまう。ここが、いちばん解消されるべき問題なのかなと感じています。

彼らのポジティブさを純粋にスポーツに向けてもらうためにも、僕たちは環境を整えたりして、応援していく必要がある。こうした意識がないままでは共生社会の実現なんて難しいよね、と僕はいつも感じていて。そんな部分も含め、メディアがきちんと発信していくことが大切だと思っています。

――このように、武井さんがパラスポーツに対して発言を続けていることは、とても大きな意味を持っているように思うのですが。

それを「みんなでやっていく」必要があるのだと思っています。僕がいくら声高に叫んでも、やっぱり社会全体にそういった空気が広がっていかないことには、一般の方はなかなかたどりつけない。僕だって、芸能の仕事をしていなければ、パラアスリートと触れ合うことはなかったかもしれません。彼らの能力を目にする機会がない人生もありえたと思うんです。

僕はパラアスリートに会うと「この子たちが、目も耳も腕も足も、健常者と同じ状態でスポーツできたら、もっともっと楽しいだろうな……」と、ついつい思ってしまうんです。そう思っちゃいけないと言う人もいるけれど、僕はそう感じてしまう。だけど、そんな身体でもすばらしいパフォーマンスを手に入れ、どんどん道を広げていく姿に、何度も感動をもらっているんです。

僕たち健常者がスポーツをすることで感じる楽しさや人生の豊かさと全く変わらないものを、今後、彼らも手に入れることができるような社会にできたら、僕は初めて「彼らに腕や足があったら……」と思わずに、一緒に時間を過ごすことができるようになるのだと感じています。

僕はパラアスリートとプライベートでもお付き合いするようになって、試合観戦にも行って、障がいのある方々と過ごす時間が増えて、そこで初めて気づいたことがたくさんあります。「うわ、彼らはこんなことまでできるんだ!」と思う一方で、「えっ、こんなことが彼らのバリアになっているの?」ということもあって。

例えば、食事で待ち合わせるとき、彼らが行きにくい場所やたどりつけない場所があったりします。また、一緒に食べていても、目が不自由な選手だったら、何の料理がきたのか、その料理の色や食材について教えてあげないとわからない。フォークとナイフを渡しても、どこから切ればいいのか、わからないといったことがあります。

パラスポーツを扱う番組をこれだけやっていても、日常の小さなことで、彼らのできること、できないことは、すべてわかっているわけではないんです。彼らと過ごす時間が増えないことには、共生社会の実現というテーマはやっぱり達成しえないと思うんです。

他にも、社会の中で障がい者と一緒に仕事をする機会はそれほど多くないし、テレビの世界でも街ロケに参加する車いすの方はほとんどいない。全然開かれていないと僕は感じています。それこそ僕がやっているパラスポーツの番組のMCを、パラアスリートがやってもいいんじゃないかと思うんですよね。そういう日常レベルで、一緒に社会の構成員になる、一緒に文化をつくる、もっとそういう時間を増やしていかないと、本当の共生社会にはたどりつけないように思います。

そんな社会をみんなで作っていけたら、それが「アニ×パラ キャラバン」のような番組をきっかけに広がっていけば……。だから、すごいプレーやとてつもない能力だけではなく、彼らの日常を同時に伝えていきたいと僕は思っています。

武井壮(たけい・そう)
1973年5月6日生まれ、東京出身。陸上十種競技の元・日本チャンピオン。2015年、2018年には、世界マスターズ陸上の4×100mリレーで金メダルを獲得した。

▼おのののかさん、茂木健一郎さんのインタビューはこちらから!
おのののか「健常者、障がい者関係なく、一緒に過ごす時間を増やしたい」車いすバスケでフリースローに初挑戦⁉
茂木健一郎「鳥海選手の身体感覚は、まさに人類のフロンティア」パラアスリートにみる人間の可能性と学びとは⁉

【「アニ×パラ」ホームページ】https://www.nhk.or.jp/school/anipara/

※写真クレジット
©高橋陽一/NHK ©窪之内英策/NHK ©勝木光・講談社/NHK ©ちばてつや/NHK ©河合克敏/NHK ©渡辺航(秋田書店)/NHK ©瀬尾公治・講談社/NHK ©ひうらさとる/NHK ©八神ひろき・講談社/NHK ©吉野万理子、宮尾和孝/学研プラス/NHK ©江口寿史(キャラクター原案)/NHK ©島本和彦/NHK ©荒達哉(秋田書店)/NHK