実は、“自分と向き合う”ことは、勇気がいる。

自分自身と真剣に対じし、見つめ直す行為は、決して簡単なものではない。だからこそ、その決断ができる人はとてもステキだと思う。
「恋せぬふたり」の第3回では、“自分と向き合う”ことについて考えさせられた。

同居生活をするうえで、お互いが嫌な気持ちにならないためにと、高橋(高橋一生)は「アセクシュアル」に関するアンケートを作成し、さく(岸井ゆきの)に渡す。しかし、咲子は過去の恋愛やそのときの自分を思い返し、しゅん巡する。そんな折、会社の同僚で元恋人のカズくん(​​​濱正悟)にアンケートを見られてしまう。

「いつかわかる」
恋愛に関して周囲からそう言われ続けてきた咲子は、過去のつらい出来事や思い出を高橋に吐露する。高橋は、それをアンケートの代わりとして受け止めるのだった。モヤモヤした気持ちが解消され、談笑しながら家に帰るふたり。そんなふたりの前に突如としてカズくんが現れて――​​!? というのが第3回のあらすじ。

今回印象に残ったのは、高橋が「アロマンティック・アセクシュアル」を自認したときに、“自分と向き合う”ために使ったというアンケート。下記に、その一部を引用する。

1.自分に恋愛感情があると思いますか?
2.特定の人と「付き合いたい」と思った(思う)ことがありますか?
3.特定の人を「独占したい」と思った(思う)ことがありますか?

※そのほかのアンケート内容は、以下の番組スタッフブログを参考に
考証チームブログ 第3回 - 恋せぬふたり - NHK

LGBTQの当事者として生きてきた私は、“自分を認める”だけでも相当な覚悟が必要だった。20年間、自分を受け入れることを恐れていたのだ。周りには受け入れてもらいたいと思っていたが、自分がいちばん受け入れることを拒絶していた。いま思えば、いちばん自分を苦しめていたのは、自分自身だったのかもしれない。

咲子の回想シーンを見たとき、私は思わず涙があふれた。
「まわりと違うね」「普通じゃないよね」
そんなふうに言われることを覚悟していた過去が私にもある。
どれだけそれが苦しくつらいものか――。
劇中の高橋の覚悟、そして咲子が言葉にして自分と向き合った勇気に感動した。

もうひとつ印象に残った言葉がある。
「いつかわかる」
この言葉は便利な反面、少し無責任にも感じる。わからないことを訴えているのに、でもそれは当たり前のことだと思われ、「いつかわかる」「いつかできる」という、先送りの言葉で片づけられてしまう。咲子は、その「いつか」をどれほど待っていたのか、どれだけわかりたいと願っていたのだろうか。

私の場合、母や先生、まわりの大人に、
「いつか女の子らしくなる」「いつか治るから大丈夫」
と言われてきた。まだ自分が何者かを知らなかった私は、咲子と同様、その「いつか」に少し期待をして生きてきた。今だけの感情、そのうち治るから大丈夫と自分に言い聞かせて……。

そして、自分が「トランスジェンダー」だと知ったとき、自分が何者なのか理解し、ほかにも同じような人たちがいるんだという安心感を抱いた。と同時に、「これから先どうすればいいのか……」という不安に襲われた。

咲子に「いつか」が来なかったように、私にも周りが言う「いつか」は来なかった。
しかしいま、私は“自分と向き合う”勇気と、人を受け入れるすばらしさを学ぶことができている。私の「いつか」は、周りが思っていた「いつか」よりもすてきなものに変わっているのだ。

“自分と向き合う”ことの勇気や葛藤、そしてそのすばらしさが描かれた第3回。
咲子の「いつか」が、これからもっとすてきなものになると、私は信じている。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。