幼魚水族館館長・鈴木香里武さんが語る「幼魚の魅力」の画像
すずさんは子どものころから魚が大好きで、漁港で観察・記録する岸壁幼魚採集家として活動しています。現在は魚の魅力を発信するタレント活動をしながら、大学院で稚魚・幼魚の成長過程について研究。幼魚水族館の館長も務めています。鈴木さんが幼魚の魅力を紹介します。

聞き手/関根香里

——自らを「岸壁幼魚採集家」と名乗っていますね。

鈴木 もともと、漁港でタモ網を使って上から見て魚を採る岸壁採集という採集方法があるんです。僕はそれを幼魚に特化してやっています。

——どういうきっかけで幼魚に興味を持ったのですか。

鈴木 赤ちゃんのころから両親がよく漁港に遊びに連れていったそうで、幼魚が身近にいたんですね。片手に哺乳瓶、片手にタモ網という状態で、自然に触れ合っていたそうです。それから30年間、幼魚と関わっています。

沖に出たり潜水したりせず、岸壁からタモ網ですくって観察するだけで、500種類くらいの生き物に出会ってきました。漁港の足元には豊かな多様性の世界が広がっています。今でも行くたびに新しい幼魚に出会えるんです。

——幼魚のどんなところに魅力を感じるのでしょう。

鈴木 幼魚は、1センチに満たないサイズもいるし、だいたい手のひらサイズ以下ですが、その小さな身を守るために、進化の中でさまざまな工夫を編み出しているんです。敵に見つからないよう考え抜かれた擬態をしていたり、たとえ見つかっても毒を出して撃退したり、トゲトゲで飲み込めないようになっていたりなど、十人十色ならぬ「十魚十色」なんですね。
想像の斜め上を行くような工夫が小さな体に凝縮されている。そこが、僕はたまらなく好きです。

幼魚とは?
生物学的に決められた選別基準はないが、水中を漂っていた稚魚のひれが発達し、ある程度泳げるくらいまでに成長した段階を幼魚と呼ぶ。
【ヤエギス】背びれが美しいリーゼントのようなヤエギスの幼魚。深海魚で、成魚は水深200~1,000mに生息している。

——大学院で研究もされているんですよね。

鈴木 稚魚・幼魚の成長過程を研究していますが、実は解明されていないことが多い分野なんです。魚の研究は、例えば全身トロのマグロの開発とかウナギの養殖とか、生活に密着したテーマから進みます。

幼魚期はマニアックですが、僕は謎が多い幼魚の生きた姿を見たくて岸壁採集にこだわってきた。足元の海で新たな発見が生まれる可能性もある、ロマンに満ちた分野なんです。

——7月からは幼魚専門の水族館の館長も務めています。

鈴木 魅力がたくさんある幼魚の姿を、多くの方に見てもらいたくてオープンしました。60個ほどの小さな水槽に、100種・150匹ほどの幼魚が展示されていて、日本でも珍しい水族館なんです。

…幼魚水族館(https://yo-sui.com/):静岡県駿東郡清水町伏見52番地1 サントムーン柿田川 オアシス3階

【ナンヨウツバメウオ】枯れ葉に擬態するナンヨウツバメウオの幼魚。海面に体を横にして浮かび、海中や海上から狙う敵の目をごまかす。幼魚と成魚では姿が全く違うのも特徴。
【リュウグウノツカイ】深海に住むリュウグウノツカイ。幼魚はプランクトンを求めて浅瀬に上がってくるので、タモ網でも捕獲できる。

——なぜ幼魚は水族館の主役になれなかったのですか。

鈴木 まずは、飼育が難しいこと。幼魚はプランクトンしか食べず市販の乾燥餌は使えないので、餌となるプランクトンを育てるところからやらなくてはなりません。そして、手間がかかるわりには今風に言うと「えない」。小さすぎて、撮影しても例えばサメみたいに写真映えしないんですよ(笑)。

でも、実は幼魚は美しくかっこいいんです! それを知ってもらうには、魅力が伝わる専用の水槽を作って展示する必要がある。今回の水族館はそこに気合いを入れました。

幼魚と人間の住む世界は全然違いますが、実は彼らが生き延びるための工夫には現代社会の荒海を生き抜いていくヒントがたくさんあります。ぜひ、幼魚たちの魅力に触れてみてください。

鈴木 香里武 (すずき・かりぶ)

1992(平成4)年、東京生まれ。北里大学大学院在学中。 (株)カリブ・コラボレーション代表。岸壁幼魚採集家としてメディア・イベント出演、執筆をするほか、水族館の企画など魚に関するプロデュースも行う。

※この記事は、2022年7月27日放送「ラジオ深夜便」の「漁港で出会える幼魚の魅力を発信」を再構成したものです。

幼魚写真提供/鈴木香里武 構成/小林麻子・高久朗子(トリア)
(月刊誌『ラジオ深夜便 』2022年11月号より)

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