永山久夫さん(89歳)は、日本の伝統的な食文化を研究し、古代から各時代の食事を復元してきました。その永山さんのライフワークは、長寿食。日本の百歳以上の長寿者を訪ね、その食事や生活スタイルから、長生きのけつを探ってきました。その長年の取材から分かった食事法や生き方のコツを教えていただきました。
(前編はこちらから


聞き手/後藤繁榮
イラスト/永山久夫

長寿の人に共通する10のライフスタイル

長年の長寿村への取材から、百歳を超えて長生きしている方々には共通するライフスタイルがあるという永山さん。
次の10項目にまとめて、お話しいただきました。

①とにかく明るく、楽天的!
明るくて、楽天的な方が多く、くよくよしません。悲観的な人よりも楽天的な人の方が長生きすることが分かっています。音楽に合わせて、座ったままでも手を動かして踊るような、そんなイメージです。

②マグロの刺身が好き
食事の中で好きなものを尋ねると、刺身、特にマグロの刺身と答える人が多い。これは『魏志倭人伝』の「生菜」から続いていますね。

③肉料理が好き
肉料理が好きな人も多く、脂っこい料理が好きな人が多いんですよ。動物性たんぱく質をとることが、フレイルの予防になります。

④みそ汁が好き
みそ汁の中でも、豆腐のみそ汁を好む人がいちばん多かったです。みそ汁はいうなれば『後漢書倭伝』の「菜茹」。数種類の野菜を煮て、発酵食品のみそで味をつければ、栄養たっぷりの一品になります。

⑤季節の果物が好き
季節の果物には、ビタミンCが豊富です。ビタミンCも老化予防に欠かせないものです。

⑥卵が好き
長寿村の人たちは、ゆで卵をおやつにしている人が多いのです。1日に1個ないし2個、毎日食べるといいですよ。

⑦人と話すのが好き
好奇心が旺盛で、人と話すのが大好きな人が多い。取材に行くと、庭から出てきて「どこから来なさったの?」と聞いてくる人が多いんです。「東京から来た」と言うと、「大変だったね」「お茶でも飲んでいきなさい」「泊まるところがなかったら泊まっていけ」と、人懐っこい。人と話をして、好奇心を満足させているんですね。

⑧梅干しを食べる
梅干しを食べると、唾液がたくさん出ます。すると、ほかの食べ物が食べやすくなったり、唾液自体にも免疫力を高める殺菌効果のある成分が含まれていますから、健康によい効果をもたらします。

⑨縁側で日光浴をする
ひなたぼっこをしている人が多い。これは、太陽に当たると体の中でビタミンDが作られるんです。ビタミンDは骨を丈夫にし、免疫力を高めるのにも役立ちます。

⑩お茶をよく飲む
お茶をよく飲むのですが、お茶菓子はあんこもの、まんじゅうが好きですね。私もあちこちの長寿村に取材に行くたびに、まんじゅうをごちそうになりますから、すっかりまんじゅうが大好きになりました。


日本は長生き社会のトップランナー

永山 理想は平均寿命と健康寿命(注3)をイコールにすること。データ(注4)を見ると女性の平均寿命が87.14歳、健康寿命は74.79歳で、約12年の差があります。もっと健康寿命を延ばしたいです。

現在、日本には100歳以上の方が8万人以上います。これからは日本に限らず、どの国でも高齢化率が高くなります。人類の歴史の中で、こんなに長生きする時代は初めてですから、日本人はそのトップを切って、元気に長生きするための食生活のお手本を示していければと思います。

——今年で89歳、これから90歳台に向けてやりたいことはありますか?

永山 90歳になっても100歳になっても、今と変わらないと思います。体の機能は低下するかもしれませんが、脳は進化すると思うんです。生きているかぎり楽しい人生にするためにも、自分の体に合った食べ物を選んで食べ、大いに笑ってセロトニンを分泌させ、幸せを感じて過ごしたいです。

(注3)WHO(世界保健機関)が提唱した新しい指標で、平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間のこと。
(注4)「令和2年版厚生労働白書」より。

永山久夫 (ながやま・ひさお)

1932(昭和7)年、福島県生まれ。古代から明治時代までの食事復元研究の第一人者。NHK大河ドラマ「独眼竜政宗」(’87年)や「春日局」(’89年)などで、主人公の食事再現を務める。2018(平成30)年度、文化庁長官表彰を受ける。長寿食や健脳食の研究者でもあり、長寿村の食生活を長年にわたり調査している。新聞や雑誌の連載、テレビやラジオでも活躍。講演では明るく愉快な語り口が人気。イラストを描いたり作詞作曲をしたりと趣味も広く、“ 長生きはおもしろい”を体現している。

※この記事は、2021年5月16日放送「ラジオ深夜便」の「長寿食を求めて」を再構成したものです。

構成・文/石田純子
(月刊誌『ラジオ深夜便』2021年9月号より)

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