永山久夫さん(89歳)は、日本の伝統的な食文化を研究し、古代から各時代の食事を復元してきました。その永山さんのライフワークは、長寿食。日本の百歳以上の長寿者を訪ね、その食事や生活スタイルから、長生きのけつを探ってきました。その長年の取材から分かった食事法や生き方のコツを教えていただきました。

聞き手/後藤繁榮
イラスト/永山久夫

古代から日本人は長生き、その秘密は食にあり

——長年の食文化史の研究で、日本人の食事が長寿に役立つことが分かってきたそうですね。

永山 日本人の最初の食に関する最初の記録として出てくるのは『じんでん』です。中国の歴史書ですが、その中に、倭人(古代日本人)がたいへん長生きで、なぜそんなに長生きできるのかと、関心を持たれていることが分かる文章があります。しかも、倭人が長生きできる理由を調べてみたら、「せいさい」であったと。

「生菜」というのは、生で食べるおかずという意味です。つまり魚や貝類など、今でいう刺身のようなもので、古代日本人も、これを食べるのが大好きだったようです。

このほかにも中国では不老長寿にとても関心があったようで、『かんじょ倭伝』という歴史書では、倭人の長生きの秘訣は「さいじょ」を食べることだとあります。

「菜茹」とは、野菜をゆでたり、煮たりしてスープを作るという意味です。つまり何種類もの野菜を入れて煮込み、汁ごと野菜を食べていたようです。
今から見ても、野菜のビタミンやミネラルがしっかりとれますから、免疫力を高めるのに役立ち、病気に対する力が強くなり、長生きできたのだと思います。


元気に長生きするには何を食べたらよいか

——古代から見ると、日本人の食事も時代とともに変化していますよね?

永山 そうですね、特に戦後、アメリカの影響で肉や卵を食べるようになって、それまで日本人の食事に足りていなかった動物性たんぱく質がとれるようになり、平均寿命が延びました。

最近は、フレイル(注1)を予防するために、年をとればとるほど肉や卵を食べた方がいいことも分かっています。年をとって体力が低下してしまうと、自力で外出ができなくなったりして、自分もつらくなります。肉や卵を食べて、筋肉を鍛える。筋肉は鍛えれば増えるし、80歳になっても90歳になっても衰えません。それと同時に頭も鍛えないとだめですよ。

これからは人生百年時代。生きているかぎり働くのもいいし、趣味に生きるのもいい。〝生涯アクション″を目指したいですね。

(注1)心と体の働きが弱くなる虚弱の状態


元気に長生きするための食事のコツ

長年の研究を経て、元気に長生きするためにはどんなものを食べたらよいか。
食事のコツを覚えやすく、「な・が・い・き・た・べ・ま・す」の頭文字を使って紹介していただきました。

(注2)「幸せホルモン」といわれる脳内神経伝達物質で、幸福感を生み出し、 心身の安定を促すのに役立つ。

 (後編はこちらから

永山久夫 (ながやま・ひさお)

1932(昭和7)年、福島県生まれ。古代から明治時代までの食事復元研究の第一人者。NHK大河ドラマ「独眼竜政宗」(’87年)や「春日局」(’89年)などで、主人公の食事再現を務める。2018(平成30)年度、文化庁長官表彰を受ける。長寿食や健脳食の研究者でもあり、長寿村の食生活を長年にわたり調査している。新聞や雑誌の連載、テレビやラジオでも活躍。講演では明るく愉快な語り口が人気。イラストを描いたり作詞作曲をしたりと趣味も広く、“ 長生きはおもしろい”を体現している。

構成・文/石田純子
(月刊誌『ラジオ深夜便』2021年9月号より)

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