これまでに放送された「素朴なギモン」とその答えを、忘れないように復習しておきましょう。
ネクタイって、なんでつけるのでしょう?


答え:生きて帰るため

詳しく教えてくれたのは、服飾評論家の出石尚三さん。
男性がネクタイをつける理由を知るには、まず、その歴史を知る必要があると言います。

ネクタイのルーツは、「クラヴァット」。フランス語では、まさに「ネクタイ」を意味する言葉ですが、もともとは首元を飾る布のこと。一枚の大きな布を折りたたんで使うもので、中世ヨーロッパの王侯貴族の肖像などで首元に見られる、白い布がそれです。

そして、クラヴァットのルーツは、17世紀に遡ります。当時のフランスは、30年の長きにわたって続く戦争の真っただ中。 外国からも数多くの兵士を雇っており、中には、クロアチアから来た兵士もまじっていました。彼らの特徴は、首元に〝カラフルな布切れ〟を巻きつけていること。

この首元の布が、「クロアチア人」のなまった表現である「クラヴァット」と名付けられ、やがて、おしゃれアイテムとして広まっていったのだとか。

フランス国王ルイ13世がクロアチア人の首元の布について「あれは何だ?」と聞いたところ、 勘違いした側近が、「あれはクラヴァット(=クロアチア人を意味する言葉)です」と答えたことから、首元の布は「クラヴァット」と呼ばれるようになった。
クラヴァットがヨーロッパ中の貴族や庶民に広まるきっかけとなったのが、「太陽王」ことフランス国王ルイ14世。レースや刺しゅうがついたクラヴァットを好んで身につけていた。

では、なぜクロアチア兵は、カラフルな布を首元に巻いていたのでしょうか?

それは、当時、彼らの間では、「家族や恋人など、女性の衣装の一部を身につけていると戦争で死ぬことがない」と信じられていたため。

フランスの戦争に参加したクロアチア人の兵士たちは、“お守り”として、カラフルな布を首元に巻いていた。

つまり、ネクタイとは、もともと、戦場から生きて帰るためのお守りだったというわけです。

その後、19世紀のイギリスで流行した「ダンディズム(=シンプルなダークスーツが主流)」 において、クラヴァットはほぼ唯一の個性を発揮できるアイテムとして注目されるように。名前もシンプルに、“首に結ぶもの”という意味の「ネクタイ」と呼ばれるようになった。

(NHKウイークリーステラ 2021年10月8日号より)