これまでに放送された「素朴なギモン」とその答えを、忘れないように復習しておきましょう。
「注目の判決。紙に書かれた文字は......あっ勝訴です!」という裁判所前でのひと幕。いかにも歴史的な瞬間という感じですよね。でも、あの紙を持ってくる人は、一体何者なんでしょうか?

答え:足の速い若手弁護士

詳しく教えてくれたのは、東京大学法科大学院の客員教授も務める水口洋介弁護士。
テレビや新聞などでおなじみの、裁判の判決を人々に掲げて見せる紙。弁護士の間では、あれは「はた」または「びろーん」と呼ばれているそうです(以下、びろーん)。

公害問題や人権問題など、世間の注目度が高い裁判で出されることが多く、その役割は、足が速い若手弁護士に任されることが多いとか。理由は、びろーんの歴史にありました。

1963(昭和38)年の最高裁判所での判決。報道陣が裁判所の窓から、びろーんを出し、外で待つ人々に判決結果を伝えている。

1963年当時、びろーんは報道陣によって裁判所の窓から出されていました。
しかし、'68年、秩序維持のため、裁判所の敷地内でびろーんを出すことは禁止に。しかし、それでは判決を待つ人々にいち早く結果を伝えることができないと、報道陣に代わって弁護士自身が、裁判所の中から走ってびろーんを出し続けたのです。

当時の裁判所では、びろーん以外にも、いろいろなビラや看板が乱立。中には抗議が目的のものもあり、これでは公平な裁判ができなくなると考えた裁判所は、風紀を守るため、敷地内でのびろーんを禁止したが……。

つまり、裁判所の職員や警備員の静止をかわ
すため、足の速い若手が選ばれるようになったのがきっかけなのです。

今では、裁判所内でびろーんを出すことはありませんが、外で待つ原告や報道陣に一刻も早く結果を伝えたい気持ちは同じ。そこで現在のような形をとっているのだそうです。

(NHKウイークリーステラ 2021年9月17日号より)