受験の際に嵩(北村匠海)と出会い、東京高等芸術学校の同級生として、親友になっていく辛島健太郎。ものじせず、誰とでも親しくなれる彼は、帰省する嵩と一緒に高知を訪れ、のぶ(今田美桜)や朝田家の人々と関わることになる。そしてメイコ(原菜乃華)には恋心を抱かれて。そんな健太郎を、高橋文哉はどのような思いを込めて演じているのか?


メイコとのシーンからは“キラキラ”を受け取ってほしい

――今週、健太郎は嵩と一緒に初めて高知を訪れましたね。

朝田パンのあんぱんがおいしかったから改めて1人で買いに行くシーンを撮ったときに、朝田家の皆さんがいらっしゃって、メイコ(原菜乃華)ちゃんが店頭であんぱんを袋に入れてくれました。その時、きっと健太郎もここが好きな場所の1つになっただろうな、という空気を感じました。健太郎は「暇やったけん、ついて来た」「柳井くんの背中ば押してやりたかった」という気持ちで高知に来ましたが、彼にも得るものはたくさんあったんだろうな、と。

――東京の芸術学校とは、また違う感じでしたか?

学校のシーンはそれこそメンズがいっぱいだったのに、急に女性がたくさんいらっしゃる場になって、健太郎的にもテンションが上がっただろうな、というのがわかります(笑)。台本でも、明らかにテンションが高いんです。いつもと同じように元気なのですが、それでも「あ、ちょっと浮ついているな、こいつ」みたいなところがありました。

――高知ではメイコ(原菜乃華)に恋心を寄せられていますが、それには気づかないんですよね。

まだ気づかないでいたほうがいいなと思って演じています。メイコちゃんと話すシーンをいろいろ撮りましたが、彼女に顔を近づける場面でも、いかにわざとらしくなく、健太郎らしく振る舞うかに気をつけました。それをメイコちゃんだけじゃなく、草吉(阿部サダヲ)さんにもやってみたり。いろいろな人に同じ態度を取ることで「健太郎って、こういうやつだから、しょうがないよね」みたいなものを出せるように、自分が思うところをちょっとずつ表現させてもらっている段階です。

――健太郎としては、メイコにどんな印象を抱いたと思いますか?

台本のせいなのですが、それは本当に「のらくろ」でしかなくて……(笑)。健太郎が「のらくろ」に似ていると言いながらメイコの絵を描いてあげるシーンが、原さんと一緒に撮影した最初のシーンだったんです。

僕は「のらくろ」を知らなかったので事前に調べたんですけど、「これに似ているってメイコちゃんに言うの?」と思いました。そんな気持ちのまま家で「のらくろ」を描く練習をしていたのもあって、思い入れが結構強かったんですよ。このシーンで健太郎のキャラクターがすごく見えてくるし、メイコちゃんと健太郎にしか出せない空気がすごく好きです。

なので、そのシーン以降にメイコちゃんに会うときは、健太郎としては頭にポンッと「のらくろ」の絵が出てきてしまって(笑)。嵩の家に「のらくろ」の漫画があるとメイコちゃんのことを思い出したり、そうやってメイコちゃんを思う時間が少しずつ増えていくのかなと思っています。

――メイコと一緒に歌うシーンもありましたが、いかがでしたか?

原さんの透き通った歌声の横で、僕がギターを弾かせていただいて、こんなエモーショナルなシーンがあるのかと思いました。その健太郎とメイコちゃんにしか作れない空気を出さなくてはいけないので、撮影の日まですごく緊張していました。

――見ている方々は、そのシーンにキラキラしたものを感じるのでしょうね。

ぜひ、そのキラキラを受け取ってほしいなと思っています。


「まっすぐで素直」のど真ん中をいく健太郎

――演じている辛島健太郎役については、どういう人物だと捉えていますか?

視聴者の皆さんが想像される「まっすぐで素直な男の子」のど真ん中にいるくらいピュアなのが、健太郎だと思っています。嵩とは全く違うテンションなのですが、なぜ嵩と健太郎が仲がよいのかわかるシーンがたくさんあるので、そういうところをしっかりお届けしたいな、という思いがあります。そして、健太郎の人生を、僕にしかできない演じ方で歩んであげたいなと思っています。

――撮影前にはどんな準備をされましたか? 例えば、絵を描くときの動作とか。

ドラマ中での健太郎の絵を実際に描いている美術大学の学生さんからいろいろな話を聞きました。撮影のときに現場に立ち会ってくれて、実際に絵を描く姿も見せていただきました。絵の具をつけてキャンバスに向きなおる仕草とか、筆の持ち方とかは人それぞれ、形は決まってないとおっしゃっていましたが、僕はそこにリスペクトの気持ちを持って、こっそり真似まねさせてもらっています。

さらに健太郎らしさ、健太郎なりのやりやすい姿勢って何なんだろう? と僕なりに考えて、立てたイーゼルの中に足を入れておくと落ち着いたので、そういうことも反映させています。


なかなか行動に移さない嵩が、まどろっこしくて仕方ない

――健太郎と嵩はいつも一緒にいますが、2人は相手のどういうところに魅力を感じたのでしょうか?

それぞれが持つ“空気感”だと思います。性格は全然似ていないのに、ずっと一緒にいられたりとか、何だか落ち着けたりとかする人って、皆さんにもいると思うのですが、それに近いというか。やっぱり自分が持っていないものを相手が持っていることが、いちばん大きいのかなと思います。

健太郎がポーンと強い言葉を嵩に当てたり、ちょっとおちょくったりするシーンもありますが、全部にちゃんと愛があるんです。嵩にはない明るさで彼のことを思って行動したり、嵩が下を向いたときに顎をクイッと上げてくれたりするような人ではあると思っています。なので、その空気感をお芝居の中で日常的に出していきたいな、と思っています。

――嵩を演じている北村さんの印象は?

本当に優しいですね。撮影の合間にプライベートの話をしたり、積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくださっています。僕は変に人見知りなので最初は話しかけられずにいたんですけど、ある時、急に「文哉はさ」って呼びかけられたんです。そのことに僕、キュンとしちゃって(笑)。

そこから「では、僕も匠海くんと呼ばせていただきます」と、一気に距離が縮まりました。ちょうど、シーンの中でも嵩と健太郎の距離がどんどん近づいていくところでした。

北村さんはすごく料理好きで、自分でも腕を振るっているらしく、僕も高校生のころから料理がすごく好きなので、最近は1日の会話の半分ぐらいはご飯の話をしています。家でどんな調理器具を使っているか話していたら、北村さんが中華鍋を持っていることがわかったんです。今まで中華鍋を使う俳優さんに出会ったことがなかったので、「本当ですか!? 僕もです!!」と、すごく話が盛り上がりました。


「あんぱん」の台本を読むと心が躍ります

――毎回届く中園ミホさんの台本を読んで、どんな気持ちになっていますか?

心が踊ります。自分が出ていないシーンを読んでいても心が踊って、どんどんページをめくる手が進んでいきます。舞台が変わって、人が変わって、かたや東京、かたや高知と入れ替わることが多くなっていますが、その橋渡しがとてもナチュラルで、作品を見ている人たちの気持ちを一緒に高知から東京へ、東京から高知へ持っていくような感覚があって、すごく楽しいなと思いました。

――最後になりますが、「あんぱん」の物語の全体を通して、視聴者の皆さんにどんなところを楽しんでもらいたいですか?

昭和の時代の物語ですが、身近に感じていただける部分もたくさんあります。ほっこりする瞬間やワクワクする瞬間を、健太郎と一緒に気持ちをのせてご覧いただけたらうれしいです。この作品を見て、気持ちよく1日のスタートを切ってください。そして、これから登場人物がどう交わっていくのかにもご注目ください。