
いつの日かお互いを意識し始めた豪(細田佳央太)と蘭子。言葉の少ない豪に、言葉少なく話す蘭子。豪の召集令状を境に、蘭子は豪の気持ちを聞こうとするが、すれ違う2人。朝田家の次女として、冷静に周りのことに気を配る家族思いの蘭子を演じる河合優実が、きょうだいについて、戦争と向き合う役について、そして豪への蘭子の気持ちを語る。
同じ町で生きてきて、そばにいて、気づいたら理由もなく惹かれていた
──豪に召集令状が届いてから、壮行会の後になってやっと思いが通じ合うという2人のエピソードについて、どんな思いで演じられましたか?
今のところ、あれが私の中での1番のハイライトですね。豪ちゃんとの関係性について、この日に向けて感情を積み上げてきた、みたいな感覚があったので、とても印象深いシーンになりました。それに豪ちゃんを演じる細田佳央太くんとは、これまで別の作品で2回、友人役で共演したことがあるんですけど、すごく真面目で信頼できる方だっていうことをわかっていたので、今回、豪ちゃんが細田くんだということにとても安心して、一緒に頑張れた気がします。細田くんがここまで頑張るんだったら、私もやらないと、みたいな気持ちにさせてくれる方なんですよね。

──蘭子は豪のどこに惹かれたのだと思いますか?
たぶん、あまりはっきりした理由はないんだろうと思っています。豪ちゃんを選んで好きになったとか、結婚相手としてどういうメリットがあるから選んだとか、まったくそういうことではなくて、ずっと同じ家で生きてきて、そばにいて、気づいたら理由もなく惹かれていた。召集令状によって、それが一体どんな気持ちなのかを意識するようになったわけですけど、それまでは、好きかどうかを考えたこともないくらい、静かに募っていった思いだったんじゃないかと想像しています。
三姉妹に限らず、朝田家の面々は、自分のペースを持っている人たち
──蘭子という人物をどう捉えていますか?
蘭子は、きょうだいの上や下、周りの家族を見ながらバランスをとっている人。自分が動くことで、家族の状況がどうなるかをすごく意識している人なのかなと思っています。冷静なバランサーというか、家族を俯瞰して見ているような部分が多いと思っています。
のぶ(今田美桜)さんは、長女だけど猪突猛進で、自分の思った方に全力で走っていく人。そういう意味では、実際に長女の私もそうかもしれないです。長女というと、「お姉ちゃんだから我慢しなさい」と言われたり、「しっかりしなくちゃいけない」と自分をおさえていたりというのが1つの「いい姉」の典型かなと思いますけど、のぶさんも私も、そう育てられてないみたいです。だからこそ、次女の蘭子のほうが、一歩引いて冷静に周りを見る人になったんでしょうね。

──のぶの女子師範学校への進学が決まった時、「お姉ちゃんが夢をかなえてくれることがうちの夢や」というセリフもありましたね。
私は、その気持ちはよくわかります。私自身も、自分のきょうだいが成功したり幸せを感じたりしていたら、私もうれしいし、反対にきょうだいが悲しい思いやつらい思いをしているときは、私の胸も痛くなります。だから、あの気持ちは本当だし、あることだなって素直に受け止めています。メイコ(原菜乃華)に対しても、自分の妹たちに抱くのと同じようなあったかい気持ちを感じていますし。それが伝わるといいなと思っています。
三姉妹に限らず、朝田家の面々は、みんななんかこう、自分のペースを持っている人たちではあるんです。だけど、何か面白いことがあるとみんなで笑う、その時の雰囲気がすごく合っているんですよ。それは撮影の最初の頃からそうで、安心できる家族だなって思いますね。
戦後80年の今年、戦争と向き合う役を演じることに感謝
──朝ドラ初出演です。朝ドラに対してどんなイメージを持っていましたか? また出演が決まった時のご感想は?
私は2019年のデビュー以来、映画との縁が深かったので、自分が朝ドラに出るというイメージはあまり持っていなかったんです。なので、これまで経験していないことも多くて、どうなるだろうと思いながら現場に入ったのですが、とても楽しくやらせていただいています。
出演が決まった時も、すごくうれしかったですね。この作品のテーマや、のぶさんというヒロインのことを知っただけで、きっといいドラマになるだろうなって思ったので、のぶさんの妹として参加できていることは、とてもうれしいです。

──撮影に入る前に、何か準備はされましたか? また演じる上で、特に心掛けていることはありますか?
高知で、モデルになっている三姉妹のお写真を見せていただきました。もちろん、ドラマの中では脚色をしているので、全く同じ人物ではありませんが、それでも、実際にいた方なんだなということが実感ができたのはよかったです。
あと、これまでは戦争を描いた作品にはあまりご縁がなくて。だから、戦後80年の今年、しっかり戦争と向き合う役をできることはありがたいと思いましたし、当時を舞台にした映画などを見たりして、いろいろ勉強もしました。
やなせさんの創作エッセンスがちりばめられた作品
──やなせたかしさんの作品で思い入れがあるものはなんですか?
やっぱり「アンパンマン」ですよね。でも、すごく小さな時は、アニメよりも、絵本やおもちゃが手元にたくさんあったことを覚えています。アンパンマンに出てくるキャラクターの図鑑とか、アンパンマンが誕生した日の絵本も、よく読んでいたんじゃないかな。
──好きなキャラクターは誰ですか?
あー、それは、今はもう気持ちが更新されていて、断然、ロールパンナちゃんです。皆さん、お気づきのとおり、この作品の登場人物とアンパンマンのキャラクターは、それぞれリンクした存在になっているんですけど、蘭子はロールパンナちゃんなので。
そういうことを知ったうえで、改めてアンパンマンの世界に触れてみると、その深さに気づくことができると思います。キャラクターの設定やセリフなんかも。私も、高知のアンパンマンミュージアムに見学に行ったときに、ものすごくたくさん発見がありました。
今回、台本を読んでいて、すごく素敵だなと思う一文やセリフがあると、線を引いたりしていたのですが、あとから、実はそれは、やなせたかしさん自身が残されている言葉だったり、作品の中で使っていた言葉だったと知って感銘を受けました。だから、「あんぱん」は、やなせ夫妻の物語であると同時に、やなせさんの創作のエッセンスや人生観もちりばめられた作品なのだと思っています。
自分のために、自分の意思で掴み取れるものが、蘭子にもできるといいな

──蘭子と、母・羽多子(江口のりこ)とのあたたかな交流は印象的です。演じる江口のりこさんの存在を含め、どんなふうに受け止めていますか?
江口さんがお母さん役というのは、本当にうれしいです。そして江口さんが演じる羽多子さんの、チャキチャキと、しっかり仕事をしながらも、困っている人がいたらパッと助け舟を出す愛情深い部分は、きっと蘭子に引き継がれている。そう見えたらすてきだなと思いながら演じています。
──昨年、別のドラマでは河合さんのお父さん役を演じていた阿部サダヲさん。視聴者としてはうれしい再共演ですが、阿部さんと、阿部さんが演じるヤムさんこと、草吉についてはどうでしょうか?
阿部さんは本当に大好きな先輩で、これで何度目かの共演になるんですけど、いつも気さくで、リラックスさせてくださる方です。ヤムさんって、アンパンマンでいえば、「ジャムおじさん」。で、ジャムおじさんって、妖精らしいんですよね。たしかにヤムさんはあまり年齢を感じさせないし、突然町に現れてパンを焼きはじめて、家族でもないのに大切な存在になっているし。確かに、ちょっと妖精みたいですよね(笑)。それを演じているのが阿部さんっていうのが、本当に、阿部さんのキャラクターが生かされている面白い役だなと思います。

──今後の蘭子に、どんな期待をしていますか?
蘭子がどうなるのか、のぶさんや嵩(北村匠海)さんの東京での生活にどうかかわっていくのか、私もまだ詳しくは知らないんですけど、自分なりに選んだ幸せ、選んだ道を歩んでいってくれたらいいなと思いますね。
蘭子が女学校に行かずに働いているということも含め、どちらかというと、家族のために選んでいる人生だと思うんです。このあとなんとか、自分のために、自分の意思で掴み取れるものが、彼女にもできるといいなと思っています。