2013年にスタートした、「雲霧仁左衛門」シリーズ。雲霧仁左衛門(中井貴一)率いる盗賊一党と、捕縛に挑む安部式部(國村隼)率いる火付盗賊改方との攻防を描き、好評を博していた。そして2025年に、ついにファイナルシリーズを迎えた。最終回の放送を前に、安部式部を演じる國村隼さんに話を聞いた。


また観たいとおっしゃってくれたから、10年続いた

――「雲霧仁左衛門ファイナル」も残すところ最終回のみとなりましたね。

國村 池波正太郎さんの原作は前後編2冊だけで、ツーシーズン分しかないつもりでスタートしました。それが、原作がないのにどこまでやれるのかみたいなことから始まって、気がつくとファイナルまで来ていました。お客さんがまた観たいっておっしゃってくれたからこそ、シーズンが続いたわけじゃないですか。それだけお客さんが楽しんでくれたんだろうなと思うと、ちょっと感慨深いものがあります。

――約10年も安部式部を演じてきて、役柄との向き合い方や演じ方に変化はありましたか?

國村 基本的にはずっと変えてません。原作の中での式部っていうのは、雲霧とはっきりたいするというような形での描かれ方をしていないんですね。ドラマ化するにあたって、ああいう風にキャラクター付けがなされていった。雲霧という男は盗賊ではあるけれども、もともとは武士できょうみたいなものがある。

一方の式部は体制側で、犯罪者を取り締まる立場にあるけれども、式部的には雲霧の持っている矜持にある種共鳴している。なので、捕まえなきゃいけないんだけど、式部にはどこか親しみとか、かれている部分がある、といったイメージを持って、最初から式部を演じていました。このベースの部分はファイナルに至るまで変わっていません。

でも、自分の意図しないところで何かが変わっていってるかもしれません。単純に言うなら10歳年取ってるし、時間の経過によって関係性も変わっていきますから。特に、「ファイナル」では式部は体を壊しています。

今まではどこかで雲霧にシンパシーを感じているからまだまだいいか、と思っていたのに、自分がいつまで仕事を続けられるかわからない以上、火付盗賊改方長官として、雲霧との関係に決着をつけなくてはならない。だから、今回はかなりきわどい手を使ったりしましたし。

――式部が雲霧の狙いに気づいた時とか、まさに雲や霧のように消えて逃げおおせた時に見せる表情がいつも印象的でした。

國村 立場上、どこかで捕まえないといけないんですが、捕まえたくもないというかね。捕まえられなくて上から怒られたりもするんです。でも、式部は「もっと悪いやつは他におるやろ」ぐらいのことを考えてるんやろうな、と思ったりするんです。

立場は全く逆でも、お互い認め合ってるという関係性が1つの軸になっているところにこの作品の面白さがある。でも、下手するとルパン三世と銭形警部になっちゃいますからね。あれはあれで面白いんですけど、これは時代劇。ルパン三世と銭形の関係性と似通ってはいるけど、やっぱりちょっと違うと思うんです。

江戸時代に生きる彼らは生真面目っていうかな、律儀さを持っていますよね。現代と表し方は違うんだけど、本質はそんなに変わらないと思うんです。式部と雲霧だけじゃなくて、他の登場人物にも同じことが言えます。極悪人の中にもいろんな思いがあって、そこに至る経緯がある。だからこそ、見ているお客さんも楽しめるんだろうな、と思っています。


捕物以外で遭遇する二人の場面は……

――本作では、1シーズンに数回、式部と雲霧が直接対峙します。とうとうファイナルを迎え、改めて、初めて二人が遭遇した場面を思い出します。雲霧が刀売りにふんしていて、通りかかった式部が持っている刀の目利きを持ちかけていましたが、あの最初の出会いのシーンはもちろんのこと、二人がお互いと気づかずに言葉を交わすシーンはどれも印象深いですよね。

國村 初対面のシーンでは、なんか只者ただものではないな、みたいな感じがありましたよね。あの刀売りのシーン以来、キセル絡みのシーンなどいろいろあるんですけど、盗賊と火盗の頭というお互いの立場を離れた時に遭遇する場面は、もしかしたらあの二人は酒を酌み交わしながらいろんな話をして、親友になったかもしれない、と思わせるイメージで演じていました。

ドラマを観ているお客さんからすれば、「今、目の前にいるんやから捕まえたらええやん!」って思われるかもしれません。でもあれは、歌舞伎の舞台で本当は黒子がいるのに、いないものとして扱われるようなものに近い感じやと思うんです。お互いが見えているけど、見えないことにする。「あの二人は本来、こういう関係だったのかもしれないよね」と想像しながら観てもらえればいいかな、と。

――ドラマで雲霧と酒を酌み交わすシーンはありませんでしたが、撮影中に雲霧役の中井貴一さんや、ほかの出演者のみなさんと集まることはあったのですか?

國村 これが不思議なもんで、全く交わらなかったです。火盗は火盗だけ、雲霧一党は雲霧一党で、とまとめて撮影するから捕物シーンの時しか現場で会うことがないんです。10年の間にみんな集まって飲んだのは1、2回くらいじゃないかな。でも、火盗メンバーは、「火盗会」って名前をつけて、撮影期間中に1回は飲みに行ってましたし、雲霧一党も、向こうは向こうでやってはるんです。


演じながら、お互いが感じるものがある

――10年間、ずっと「雲霧仁左衛門」を率いてきた座長の中井貴一さんはどんな方ですか?

國村 もちろん役者さんとしてのキャリアもスキルもある方ですが、とにかく面倒見がよくて、それこそ雲霧仁左衛門みたいな感じ。この10年の間に、とある俳優さんがご結婚なさったんですけど、どうも中井さんがその俳優さんに、「あの女性はすごくいいよ」とコンコンといいところを語り続けたらしいんです。中井さんはプライベートまで面倒見がいいんですよ(笑)。

中井さんと、式部と雲霧の関係性について喋ったことなんてないけど、演じながらお互いが感じるものってあるんです。俳優同士って。僕は、役に関して、言葉というツールを使ってディスカッションすることの意味はあまりないと思ってて。心情は言葉でやりとりすることじゃないし、言葉で「そうだね」って言い合っても、それが映ってなかったら意味がないわけで。

お互いがポンっと何かを出して、それを感じとってリアクションするのが芝居。だから中井さんとは何の打ち合わせもしてないし、お互いが何かを感じながらやってきました。

――いよいよ最終回の放送ですが、これから視聴するみなさんへのメッセージをお願いします。

國村 これまで10年間にわたって「雲霧仁左衛門」をご愛顧いただいたお礼がまず第一にあります。最終回なので、言えることと言えんことがあるけど、「ファイナル」がどういう結末を迎えるかについては、スッキリとりゅういんを下げてもらえると思います。式部と雲霧の関係性がどうなるか、二人が遭遇する場面については、ちょっと楽しみに観ていただきたいですね。

【プロフィール】
くにむら・じゅん

1955年生まれ、大阪府出身。1981年、映画『ガキ帝国』でデビュー。『ブラック・レイン』『キル・ビルvol.1』など国内外の作品に出演。NHK連続テレビ小説「芋たこなんきん」、大河ドラマ「平清盛」、映画『アウトレイジ』『シン・ゴジラ』など映画、ドラマ、舞台、ナレーションと多彩に活躍。韓国映画『哭声/コクソン』で、「第37回青龍映画賞」男優助演賞と人気スタ-賞、「2016 APAN STARAWARDS」特別俳優賞受賞。

【最終回あらすじ】
見事、大熊屋(伊武雅刀)の隠し蔵を暴いた仁左衛門(中井貴一)だったが、肝心の数珠丸恒次は、すでに江戸城の将軍へと献上された後だった。さらに式部(國村隼)に捕らわれた仲間を奪還する際、伝次郎(近藤芳正)が犠牲となってしまう。だが、仁左衛門はそんな仲間たちのためにも、決して盗みの手は緩めない。老中・平野(中村梅雀)の横領金、さらには江戸城にまで狙いを定める。そして、遂に式部との、最後の決着の時が迫る。

BS時代劇「雲霧仁左衛門ファイナル」

2025年2月23日(日)(最終回)
NHK BS/BSP4K 午後6:45~7:28

原案:池波正太郎 『雲霧仁左衛門』
脚本:松下隆一、青塚美穂、三谷昌登、岡本さとる
音楽:遠藤浩二
出演:中井貴一、國村隼
近藤芳正、手塚とおる、DAIGO、片桐仁、遠藤久美子、中田クルミ、木下晴香、村田雄浩
(新キャスト)伊武雅刀、浜野謙太、和田正人、梶原善、山下容莉枝、坪倉由幸、長谷川初範、温水洋一 / 観月ありさ / 中村梅雀 ほか
演出:井上昌典、服部大二、山下智彦
制作統括:渡邊竜(松竹)、佐野元彦(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)