「自分が殺したのだろうか……」。認知症を患う元警官・佐治英雄(小林薫)と事件を追う刑事・北嶺亜弓(尾野真千子)。2011年朝ドラ「カーネーション」で親子を演じた2人が、「認知症」と「殺人」をテーマにした社会派ドラマで再びタッグを組む。北嶺亜弓役の尾野真千子が作品への思いを語った。


小林薫さんともう一度お芝居をしたい

本作のオファーがきたとき「やりたい!」と思ったのは小林薫との共演だったから、と明かした尾野。

尾野 題材としてもきちんと伝えるべきテーマだと思ったこともありますが、何より小林薫さんがいたからです。この人と面と向かってもう一度芝居がしたい、と思ったから。それがこの作品に入らせていただいた理由です。

現在、連続テレビ小説「カーネーション」が再放送中で、親子の2人を懐かしく観ている人もいるだろう。本作では元警官と刑事という関係で演じ、再共演について聞かれると、

尾野 お互いに年を重ねて、今の自分と今の小林薫さん、いろいろと感慨深いものがありました。初めてご一緒したのは「カーネーション」でした。重なってはいないのですが、事務所が一緒だったこともあって、私と小林薫さんの共演が先代の社長の夢でもあり、私自身もずっと「この人と一緒にお芝居をしたい」と思っていたんです。

私はもともと、あまり人に興味を持たないのですが、「カーネーション」で初めて一緒にお芝居をして、小林薫さんが大好きになった。興味を持ちました。だからまた一緒にお芝居をしたかった。今回の共演は、ちょっとした達成感を感じました。そして、すごく楽しかった。キャリアを積んできた自分を薫さんに見せたくて、撮影が終わるたびに「ああ、楽しかった! 今日も!」と思っていました。

と撮影時を振り返った。
また、その魅力については「芝居が素敵すてきすぎる」と明かした。

尾野 人としても素敵な方なんですが、芝居に対する向き合い方は本当に尊敬します。撮りながら私じゃ考えつかないことを発言されるし、「そういうところまで考えるんだ」と驚くし。それで自分も現場も変わっていくので、私も役者としてあんなふうになれるのか不安にもなりますが、あんな風に年を重ねられて素敵だなと思います。


佐治さんのような人たちは身近にいる

本作は「認知症」がひとつの大きなテーマ。小林薫演じる認知症を患う佐治英雄は、身におぼえのない殺人事件に巻き込まれていく。なぜなら、佐治には強い犯行動機があったからだ。
認知症をテーマにした本作に込められたメッセージを聞かれると、こう答えた。

尾野 認知症について、もっとわかってほしいとか、そんな大それたことは思いませんでした。もちろん大事なことではあるし、これからの高齢社会において多く語られるテーマだと思うのですが、私が感じたことは「佐治さんのような人は身近にいる」ということ。認知症のことを視聴者に伝えたいというよりも、自分自身に与えられたテーマ、自分が考えていくことだと思いました。

「難しいテーマの作品に出演することが多いのでは」との質問には、

尾野 こういった難しいテーマを演じるのは楽しいし、こういう作品に呼んでいただけると、求められている気持ちになって、演じがいもあります。私ができるのってコメディじゃないし、重いテーマを演じるほど、しっかりした俳優に見えるみたいで親孝行にもなっています(笑)。

と冗談交じりに、テーマへの思いを語った。

また、演出の片岡敬司とは2000年以来の現場となり、成長を見せられたことがうれしいと話した。

尾野 上京して初めてのNHKの現場の監督が片岡さんでした。昔は芝居が何かもわかっていなかったし、伝え方、芝居の仕方も全然わからない中でこの世界に飛び込んで。何も分からずキョロキョロしているばかりだったのですが、すごく丁寧に、厳しく指導していただいて。でもわからないから響かないんですよね。言われていることもわからない。

今回、片岡さんはとてもやさしい監督で、自分がやりたいお芝居をさせてくれました。あの頃とは違って、自分はこうしたい、監督はこうしたい、という話ができたのは嬉しかったです。そして片岡さんは定年で、これがNHKでは最後の作品なんですよね。そんな大事な作品をご一緒出来たこと、自分の成長を見ていただけたことが嬉しかったです。

今回のドラマは、ラストシーンの北嶺のセリフが印象的だ。

尾野 あのセリフのために、このドラマがあると思います。

生きるとは、老いるとは――。小林薫と尾野真千子が織りなす異色のヒューマン・ミステリー「憶えのない殺人」は2月22日(土)午後9時からNHK BSで放送予定。


【あらすじ】
東京郊外の駐在所勤務だった佐治英雄(小林薫)は10年前に退職し、今も同じ町内に暮らしていた。ある日 、北嶺亜弓(尾野真千子)という刑事が近所で起きた殺人事件の聞き込みに佐治を訪ねて来る。その事件の被害者は、かつて若い女性へのストーカー行為で佐治が逮捕した男だった。彼は服役後、今度はその女性を襲ってケガを負わせてしまった。佐治は自分がもっと注意していればと、そのことを今も深く後悔していた。
事件捜査を進める北嶺は、佐治が犯人であると思わせる物証に行き当たり、実直そうな彼が犯人ではないかと疑いを深めていく。自分が殺人犯だと疑われていることに気づいた佐治は、元警官の誇りにかけて無実を証明しようとするが、その一方で自分が犯人ではないかと疑い始める。なぜなら彼は認知症を患っているからだ。自分の無実を信じたい佐治と冷静に事件を追う北嶺の二人は、いつしか彼の心の迷宮に足を踏み入れていくことになる。

特集ドラマ「憶えのない殺人」

2月22日(土)NHK BS 午後9:00~10:29(89分)

作:大森美香
音楽:河野伸
出演:小林薫、尾野真千子、橋本じゅん、松澤匠、鞘師里保、西村和泉、
阿南敦子、佐藤誓、岡本篤、室井響、畦田ひとみ、村崎真彩、山形匠、横田真子
中越典子、螢 雪次朗、筒井真理子
制作統括:後藤高久(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)
演出:片岡敬司(NHKエンタープライズ)

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