「インクルーシブ」という言葉をご存じでしょうか?(恥ずかしながら私は知りませんでした。)日本語にすると「包みこむ」「すべてを包括する」といった意味ですが、今この「インクルーシブ」という考え方が私たちの社会の様々な場面で注目されています。具体的には、人種や障害の有無、年齢、性別さらには性的こうに至るまで、すべての人がお互いを尊重しあい認め合う社会のことを「インクルーシブ社会」といいます。

12月9日、「NHK放送博物館」で、ワークショップ「インクルーシブな博物館体験」を実施しました。インクルーシブ社会の実現に向けて研究活動を続けている慶応大学アートセンターの森山緑学芸員を中心としたグループの企画です。

今回のワークショップでは、企画展<「きょうの料理」から見る日本の食>を中心に3階の常設展の一部を見学しました。※企画展<「きょうの料理」から見る日本の食>は展示を終了しました。

見学は「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」という団体から、視覚障害のある方2名を含む3人が参加、ファシリテーターとなってワークショップを進行します。


インクルーシブな体験とは

さて「インクルーシブな体験」とはどういうことなのか、なかなか想像できないと思いますのでここからは当日の様子を具体的にご紹介します。

その前にまず「インクルーシブ」と「バリアフリー」の違いについてです。「バリアフリー」はたとえば障害のある方が施設などを利用する際に、障害となるものを取り除き、誰でも利用しやすくするといった対応をすることを言います。

「インクルーシブ」は同じ環境をだれでも共有・共感することを目的としています。そういう意味では「バリアフリー」はハード面での対策という意味合いが強い一方、「インクルーシブ」はソフト面の対応が大きい、と言うこともできます。

では具体的にどのような鑑賞体験がインクルーシブなのか。

どうしても私たち博物館側からすると、視覚障害の方に対して展示物の形や色などすべてを詳しく言葉で説明しようとしがちです。しかしインクルーシブの考え方は、同行している健常者と障害者が展示について質疑応答を重ねることで、想像力を働かせながら展示物の鑑賞体験を得ることに主眼が置かれています。

「きょうの料理」の歴代のテキスト

ワークショップでは「きょうの料理」の歴代のテキストや、放送が始まった昭和30年代から現代にいたるまでの「料理の変遷」を紹介したパネルを中心に、参加者がそれぞれの考えを話し合いました。

目が見える人からの説明は「何が」「どのように」「どんな風に」展示されているかを簡単に伝えるだけ。あとは障害のあるなしにかかわらず、参加者がみなで自由に対話するという流れで行われます。


想像力を働かせながら鑑賞体験を得る

今回の参加者からは「食という身近な題材に、自分の思い出の中にある放送番組の歴史が合わさることで、いろいろな好奇心が刺激された」という感想が聞かれました。
当館にとっては初めての体験でしたが、「インクルーシブ」という新たな概念を通じて、これからも博物館が担う新たな社会貢献に取り組んでいきたいと思います。

(NHK放送博物館 川村 誠)