今年は、宮沢賢治が生前に刊行した、心象スケッチ『春と修羅』*と童話集『注文の多い料理店』の2冊が出版されて100周年。昨年は賢治没後90年の年であり、2026年には賢治生誕130年と、「宮沢賢治周年イヤー」が続きます。宮沢賢治とともに賢治が生まれた岩手県花巻市も注目が集まることでしょう。
その賢治のふるさと・花巻で実施されている事業に「全国高校生童話大賞」があります。この事業は、「人生の中でも最も多感で豊かな創造力をもつ高校生を対象に、“童話”という自由な表現の場を提供する」ことを目的に企画・実施され、今年度で23回目を迎えました。(主催:「全国高校生童話大賞実行委員会」富士大学、花巻市、花巻市教育委員会で構成)
今回も全国各地の高校生から649篇(高校数128校)の童話作品が寄せられました。高校生の若い感性あふれる童話が多く生まれています。その表彰式や受賞者の様子を紹介します。
*賢治は自らの詩を「心象スケッチ」と呼んだ。個人的なものを越えて普遍的なものを描くことを指す
伝統芸能の演舞も披露された表彰式
12月7日(土)に花巻市で「第23回全国高校生童話大賞」の表彰式が行われました。式典では、オープニングアトラクションとして、宮沢賢治が教鞭をとった岩手県立花巻農業高校鹿踊部による花巻の伝統芸能・鹿踊の演舞でスタート。
この演舞は“勇壮な踊り”で、とにかく「凄い!」。地元の高校生が郷土の伝統芸能をしっかり受け継いで守っている圧巻のステージでした。
続いて、生前に刊行された心象スケッチ『春と修羅』の出版100年を記念して、その詩集におさめられている『松の針』を花巻東高校の佐藤清美さんが朗読。
実行委員長からの挨拶では、「毎年優れた作品の応募があったが、作品はそれを読む一人ひとりがどう受け止めたかで感性が磨かれていく。私自身も多くの作品を通して感性が磨かれたと思っている。賢治は“周りの景色”を必ず“風景”と“風”を入れて書いている。感性を磨くには風を感じる(触覚)こと。入賞者のみなさんを花巻にお呼びするのは賢治が感じた風を感じていただきたいから。これからもがんばってほしい」という激励がありました。
選考委員長からは「全体的な印象としては『生と死』、『コミュニケーション』をテーマとする作品が多かった。選考委員という立場だが、作品選考を通して多くのことを教えてもらった。今回の金賞・銀賞受賞者はみなさん2年生。来年も期待したい」という講評も。
各賞受賞者への表彰のあと、来賓を代表して花巻市長が、実行委員会や選考委員への謝辞を述べました。そして、受賞者へのお祝いとして「今回作品を読んでみて『生と死』もそうだが、『限られたコミュニティ』の話が多かったと感じた。“コロナ禍”や、いま世界で起きている地域紛争などから高校生も何かしら感じ取ったのだろうと思った。今回もすばらしい作品を書いていただいて感謝している。今後とも続けてがんばってほしい」と感謝と励ましの言葉を贈りました。
花巻に訪れた喜びを語る受賞者ら
各受賞者からは、皆一様に受賞に対する謝辞とともに「『賢治のふるさと花巻』『文学の聖地花巻』に来られてうれしい」との話があったほか、
「読む人によって違う受け止め方があるというのが文学の楽しさだと思っている。私の物語も一人ひとり感じ方は違うと思う」
「小さいこどもが読んでも楽しんでもらえる作品を書いた。ぜひ読んでほしい」
「賢治の『やまなし』を小学生のころに読んだときの感激を思い出して初めて書いてみた」
「賢治の作品は人と動物の物語が多いので自分も人と動物をテーマに物語を書いてみたいと思った」
と、それぞれ、受賞した喜びや作品への思いを明かしました。
最後に金賞作品「小径に眠る」を岩手県立花巻北高校放送部の4人が朗読。作品が作り出す世界に思いをはせながら、式は幕を閉じました。
受賞者を地元高校生の郷土芸能や金賞作品の朗読で迎えた表彰式。「全国高校生童話大賞」は高校生が主体となっているのだと強く感じられる機会になりました。
宮沢賢治の生まれた地・花巻で続けられている「~賢治のまちから~ 全国高校生童話大賞」に応募された作品をぜひ読んでみてください。そこには高校生が見て感じたことを言葉に変えた “高校生の心象スケッチ”が見えるはずです!
募集期間:2024年6月1日(土)~ 9月10日(火)
主催:全国高校生童話大賞実行委員会(富士大学・花巻市・花巻市教育委員会)
後援:(社)全国高等学校文化連盟、岩手県教育委員会、NHK盛岡放送局、(一財)NHK財団、林風舎、岩手県内マスコミ など
<受賞作品>
金賞
谷まゆみさん(高知県立山田高校2年)『小径に眠る』
銀賞
星野明希さん(東京都 共立女子高校2年) 『命の花』
眞弓璃子さん(兵庫県 神戸星城高校2年) 『悠久の手紙』
内部泰成さん(島根県立出雲高校2年) 『凍み炭団』
銅賞7作品、ノミネート19作品
学校賞:該当なし
奨励賞:埼玉県立和光国際高校、京都府 同志社女子高校、大阪府立布施高校
(取材・文/仙台支局 阿部幸司)