岩手県花巻市と聞いて何を思い浮かべますか? いまですと MLB で活躍している大谷選手や菊池選手でしょうか。世界で活躍する二人がゆかりの花巻市はたいへん盛り上がっているようです。一方、花巻市で「世界的な評価」と言えば宮沢賢治も忘れてはならない偉人です。今年は賢治没後90年の年でもあり“宮沢賢治”“花巻”が大いに注目を集めた年でもありました。
多くの文化人に影響を与えた賢治が生まれたまち・花巻で実施されている事業に「全国高校生童話大賞」があります。この事業は「全国高校生童話大賞実行委員会」(構成団体:富士大学、花巻市、花巻市教育委員会)が「人生の中でも最も多感で豊かな創造力をもつ高校生を対象に、“童話”という自由な表現の場を提供する」ことを目的に企画・実施され、今年度で22回目を数えました。
今回も全国各地の高校生から564篇(高校数133校)の作品が寄せられました。これまでの応募数は今回の応募数を含めてこれまでに2万3千篇を超えています。
全国の高校生が紡いだ、若い感性あふれる童話がたくさん生まれているのです。
その「第22回全国高校生童話大賞」の表彰式が12月9日(土)に花巻市で行われました。 式はまず、宮沢賢治が教鞭をとった岩手県立花巻農業高校鹿踊部による花巻の伝統芸能・鹿踊りの演舞でスタートしました。郷土の伝統芸能を地元の高校生がしっかり受け継いで守っている“勇壮な踊り”には圧倒されました。
つぎに、実行委員長から「今年は“賢治没後90年”の節目の年ということも関係したのか、賢治に続けとレベルの高い作品が寄せられ、これまででも1番と言っていいほどの作品が選ばれた。22回も続けてきて本当によかったと感じている。これからもこの賞を続けていきたいので、みなさまのご協力をお願いしたい」という挨拶がありました。
続いて選考委員から「審査をしていてよかったと思える作品が多かった。金賞作品は、構成力や心理描写力がすばらしく、賢治の作品に通じる作品であった。選考を終えて感じたことは、いまAIが話題になっているが、人間のこころでしか書けない作品を書き続けてほしい」という講評がありました。
そして各賞受賞者への表彰のあと、来賓を代表して花巻市長から実行委員会や選考委員への謝辞として「作品を読ませていただいたが、賢治の作品に通じる印象を持った受賞作品に感動した。賢治も思春期の人に読んでもらいたいと作品を書いたとのことだが、この賞に応募した思春期の高校生が書いた作品を、同じ思春期の人(もちろんそれ以外の人も)に広く読んでほしい」とお祝いのことばがありました。
各受賞者からは、受賞に対する謝辞のあと「こどものころから読書が好きで小説を書いてきた。ギリギリまで応募をするのを迷っていたが、自分の書いた作品が他の人からどう評価されるのかを知りたくて応募した」、「自分の好きなテーマで作品を書くことができてとても楽しかった」、「賢治のまち・花巻に来ることができてよかった。過去のこの賞の作品を読んで、自分も書いてみたくなり応募した」「テーマ決めが難しかったが受賞できてよかった」と喜びのことばがありました。
最後に岩手県立花巻北高校放送部による金賞作品「渡り鳥のルチア」の朗読があり、会場全体が作品世界の魅力に包まれたまま、閉会となりました。
受賞者を地元の高校生による郷土芸能でお迎えし、地元の高校生の朗読で賞を称えるという「全国高校生童話大賞」らしい表彰式でした。ぜひ、応募作品を読んでいただき宮沢賢治の心象風景が残るイーハトーヴの地・花巻を訪れてください。「ほんとうの幸い」がそこにあるかも。
募集期間:2023年6月1日(木)~9月8日(金)
主催:全国高校生童話大賞実行委員会(富士大学・花巻市・花巻市教育委員会)
後援:(社)全国高等学校文化連盟、岩手県教育委員会、NHK盛岡放送局、(一財)NHK財団、林風舎、岩手県内マスコミ など
<受賞作品>
金賞(大賞)
湊むつみ(奈良県 奈良県立郡山高校3年)『渡り鳥のルチア』
銀賞(優秀賞)
十川理世(千葉県 市川高校1年) 『青い氷の結晶』
榊間茜理(東京都 工学院大学附属高校2年) 『キャンバ「渡り鳥のルチア」スの中の貴方』
谷まゆみ(高知県 高知県立山田高校1年) 『雨夜の星』
銅賞7作品、ノミネート記念21作品
学校賞:該当なし
(取材・文 仙台支局 阿部幸司)