「忍たま乱太郎」放送30年を迎えて、今のお気持ちをお聞かせください。

よくぞここまでやってこられたな、というのが率直な気持ちです。長く続いていることを意識し始めたのは、17年目くらいだったでしょうか。「あと3年続けば20年だ」と。そして20年を過ぎてからは25周年を目標に、というかたちで続けてきました。年齢的にはそろそろ若い人にバトンタッチしたほうがいいとは思っているのですが、諸事情で、ここまでやってきました(笑)。

ですので、毎回、新シリーズの制作を始めるときには、すごく大きな覚悟を持って挑んでいます。最後までやり遂げられるかな、という不安も常にあります。でも、いったん制作が始まってしまうと、とにかく必死でやり抜くしかない。その繰り返しの30年ですね。

©尼子騒兵衛/NHK・NEP

  アニメ制作にあたって、チームで一貫して大切にしてきたことは何ですか?

まず基本ルールとしてあるのは、忍術学園には、いじめも差別もなく、みんななかよしだということ。また、目上の人には丁寧な言葉を使い、お年寄りをばかにしない。それ以外の制作チームの共通認識というと......、「キャラクターを立てる」こと、でしょうか。

ご存じのとおり、「忍たま乱太郎」はギャグアニメです。僕は、“笑い”とは、基本的に“キャラクターの個性”からにじみ出てくるものだと思っています。ですから、彼らの個性を1人1人きっちりつかまえることさえできれば、「このキャラだったらこういうセリフを言うだろう」「こんなときはこういう行動をとるだろう」とわかる。それをみんなで把握して、共有することを大切にしています。かなり登場人物数が多いので、覚えるのはなかなか大変ですが(笑)。

もちろん、スタッフ間での意見交換も大切にしていますよ。そうして、世界観を統一するようにしています。ここまで長く続いてくると、ときには“ネタ切れ”や“ネタ被り”に悩むこともありますが、それもスタッフの話し合いの中で、必ず誰かが気づきます。最近は、登場人物の組み合わせを変えたりして、似たようなシチュエーションでも違う展開になるよう、工夫するようにして。これもまた、キャラクターを把握しているからこそできるわけです。

  「忍たま乱太郎」は、子ども向けアニメでありつつ、それ以上に幅広い年齢層にも人気があります。それはなぜだと思っていますか?

だいたい13年目くらいだったかな。乱太郎・きり丸・しんべヱたちの上級生にあたる(イケメンの)キャラクターがよく登場するようになって。そこから上級生人気に一気に火がつきました。それは僕たちも多少意識はしていますけど(笑)、それでも、基本的には小学校低学年向けのアニメだと思って作っています。子どものときに「忍たま」と出会って、今でも見続けてくれているというのは、とてもうれしいことです。

とはいえ「忍たま」は、原作に出てくる忍術の内容が専門的だったりすることもあって、ギャグ自体もちょっと大人向けというか、低年齢向けアニメの笑いの定番である、単純な“すべった、ころんだ”だけじゃない要素も、もともと入っているんです。

たとえば時代考証も、原作の尼子騒兵衛先生が歴史にも造詣が深い方なので、舞台となっている時代に即した描写を心がけています。ギャグとして、一瞬、現代に飛ぶことはあっても。そして笑いの中にも、小さな友情や団結、そういった普遍的なものを、テーマとして含みながら描いてきたつもりです。そういったところが、幅広い年齢層に支持されている理由なんじゃないかなとも思っています。

©尼子騒兵衛/NHK・NEP

  「忍たま乱太郎」が長寿シリーズであると実感するのは、どんなときですか?

ふだんアニメとは縁が薄そうなお年寄りの方でも「忍たま乱太郎」という作品名は知ってくれていたりする。すると、「おお、そうですか!」とうれしくなりますね。また、子どものときにアニメを見ていた人が、親になって、今度は子どもたちと見てくれているというのもうれしいです。世代をまたいでいることの実感と喜びがありますね。

それこそ、現在「忍たま」のキャラクターデザインを手がけている新山恵美子さんは、小学校低学年から「忍たま」ファンで、そしてうちの会社(亜細亜堂)に入って、メインスタッフになっています。そういう人、うちではけっこう多いんですよ。

©尼子騒兵衛/NHK・NEP

  改めて、「忍たま乱太郎」が、ここまで長く愛されてきた理由を、河内さんご自身はどのように考えていますか?

そうですねえ......。僕なりに一生懸命考えてみたのですが、思い当たることがあるとしたら、それはたぶん、「忍たま」が“笑い”をテーマにしているからじゃないかなと。関西のお笑いがベースになっていますが、基本としてあるのは、昔ながらのギャグアニメ。今は、こういうジャンルのアニメは意外と少ないんじゃないでしょうか。

笑いには、人生を明るく、前向きにする、そういう側面がありますよね。だから、どんなときでも「忍たま」を見れば、笑えて、心が明るくなって、前向きになれる。それがいちばんの要因だと思っています。

僕はことしで75歳です。これまで多くのアニメ作品に携わってきて、たとえば宮崎駿さんや高畑勲さんのような巨匠たちの仕事も身近で見てきました。ですから、彼らからの影響もかなり受けているとは思うけれど、彼らのような壮大な仕事はできなかった。それでも、「忍たま乱太郎」が、“笑い”で世の中を明るくしている、それで十分じゃないか!と(笑)。そういうつもりでやっています。


かわち・ひでお
1946年生まれ、福岡県出身。アニメ制作会社・Aプロダクションを経て、亜細亜堂に入社。かつて宮崎駿、高畑勲監督の下で原画を担当し、1985年から翌年にかけてNHKで放送された「おねがい!サミアどん」では作画監督に。長年「忍たま乱太郎」の監督として作品に携わり、第30シリーズからはアニメーション監修を務めている。

(NHKウイークリーステラ 2022年3月25日号記事に加筆)