「忍たま乱太郎」を彩る音楽を手がけてきた馬飼野康二。もちろん 、主題歌「 勇気100% 」も彼が作曲したものだ。そして、彼こそが「忍たま」アニメ化の仕掛け人だった......!!

30年以上前、私の娘たちが朝日小学生新聞に連載されていた「落第忍者乱太郎」を読んで、笑い転げていました。「そんなに面白いの?」と問いかけても、にこにこして笑い転げるばかり。私も読んでみると、確かに面白いんです。

「もしアニメになったら見てみたい?」と聞いたら、「毎日でも見たい!」と。まだ読んだことのない、ほかの子どもたちも楽しめるんじゃないかな?と思いました。それで早速、作者の尼子さんに連絡をしたんですよ。直接お会いすることができて、アニメ化する具体案もないまま、自分の思いや夢を語って......。それが、第一歩になりました。

©尼子騒兵衛/NHK・NEP

自分で企画書を作りました

当時、私はNHKの「ヤダモン」というアニメの音楽を担当していて、プロデューサーを存じ上げていたので、まず話をしてみました。そこで番組を立ち上げるには手順として企画書を提出しなければならないと初めて知って、自分で企画書を作成したんです。

その後、打ち合わせで尼子さんと何度か会ううちに、これは運命かなと思うようになりました。もちろん実現すればうれしいとは思っていましたが、「落第忍者乱太郎」は作品的にはまだ無名でしたし、自分でも半信半疑だったんです。

それでも、企画書を持っていってからは、不思議なくらい順調に話が進みました。熱心に動いてくれる方が集まってくださり、私自身は特に苦労することもなく。

アニメ化が決まったと聞いたときは、子どもたちが「アニメで見たい」と言ったことが実現できて、本当に感動しました。とはいえ、これほどの長寿番組になるとは......。想像もしていませんでした。

「忍たま乱太郎」の中に、通販で物を買うときに失敗ばかりしている「魔界之小路」という忍者が登場します。実は、尼子さんとの打ち合わせで「僕は通販で成功したことがないんですよ」と言ったことがあるんです。尼子さんは作家らしい鋭い観察眼で私の行動を分析されていたようで......。キャラクターは私の特徴をよくとらえていて、ビックリするほど似ていると家族に言われます(笑)。

ちなみに、そのころ尼子さんが使っていたワープロで「まかいの」「こうじ」と入力すると、「魔界之」「小路」と変換されるので、ギャグとしてそのまま使ったそうです。


「勇気100%」に込めた願い

主題歌の「勇気100%」は、まずメロディーを作りました。そこに込めたのは、「この作品を見た子どもたちに、勇気!元気!が出るように」という願いです。

作詞の松井五郎さんも、同じ気持ちで歌詞を書いてくださいました。イントロは、夜明けのイメージ。そこに太陽が昇って、朝日を見て元気になって、これから何か動きだすぞ!という......。

光GENJIが歌ったときのアナログのバンド形式のサウンドから、打ち込みのテクノ系、ダンス系の音に、時代によってアレンジは変えていますが、歌の中にあるオブリガート*みたいなものは変わっていません。

歌詞の中に“100%勇気”というワードがありますが、曲のタイトルを「勇気100%」に決めたのは、ジャニー喜多川さんだと聞いています。

この作品をジャニーさん、そしてメリーさんが気に入ってくださり、代々のジャニーズのグループに歌い継がれてきたことには、とても感謝しています。

…演奏する際に不可欠な声楽・楽器など。主旋律を引き立てる助奏を指すこともある。

©尼子騒兵衛/NHK・NEP

私にとっての最大の喜びは  

劇伴を作るにあたっては、原作がコミカルなギャグ漫画だから、やはりズッコケているような音楽を中心に考えましたね。原作のタイトルに「落第」とあるように、完璧な人間を描こうとしているわけではないだろう、と。

「魔界之小路」は、忍術学園のライバル校であるドクタケ忍者教室の講師。歌やダンスが好き。きわめて優秀な忍者だが、どこか抜けている部分があり、通販好きながら失敗を繰り返している。
©尼子騒兵衛/NHK・NEP

でも、忍たまたちが目上の人たちには必ず敬語を使っているように、人間的に学ぶべき部分が描かれていたり、子どもたちにのびのび自由に育ってほしいという願いが込められていたり、そういう作品の中に描かれている精神をいつも意識しながら、曲を作りました。

30年という長い歳月、「忍たま」が子どもたちに愛されてきたことを考えると、子どもたちが何を面白いと思うかという感覚は、昔も今も変わらないのかな、と思います。

時代はデジタル化して進んでいますが、たくさんの子どもたちが成長する過程で「忍たま」に触れて、楽しんで育ってくれたことは、私にとって最大の喜びです。

まかいの・こうじ
1948年生まれ、愛知県出身。1968年に、グループ・サウンズ「ブルー・シャルム」の一員としてデビュー。同グループ解散後は作曲・編曲家となり、西城秀樹の「傷だらけのローラ」、松崎しげるの「愛のメモリー」、嵐の「A・RA・SHI」ほか多くのヒット曲を手がけてきた。「ベルサイユのばら」をはじめ、数々のアニメ作品の音楽も担当。NHKでは、人形劇「プリンプリン物語」ほか。

名曲「勇気100%」の変遷

「忍たま乱太郎」第1シリーズで、光GENJIが歌う「勇気100%」が使用されてから現在まで、この曲は常に番組の主題歌であり続けてきた。

主題歌として、歴代のジャニーズのアーティストたちが歌唱。光GENJIとNYCは、この曲で「NHK紅白歌合戦」にも出場している。

また2019年1月に放送されたEテレの特別番組「Eテレ60 Eうた♪ココロの大冒険」では、King & Princeもこの曲を歌っている。

そのほか、乱太郎(高山みなみ)、きり丸(田中真弓)、しんべヱ(一龍斎貞友)、土井半助(関俊彦)、ヘムヘム(松尾銀三:当時)が歌う「忍たまマーチング・ヴァージョン」などがある。

「勇気100%」(作詞:松井五郎 作曲:馬飼野康二)
歌い継いできたジャニーズのメンバーたち

(NHKウイークリーステラ 2022年3月25日号より)