自分の未来を考えるとき、自分のおかれている「環境」を無視することはできない。
自然環境はもちろん、社会環境、家庭環境、居住環境など、さまざまな「環境」にかこまれ、私たちはいまを生きている。

なかには自分ひとりの力では、どうすることもできないものもある。
自然環境はそのひとつで、有史より人は知恵を絞り、力をあわせて自然災害と向き合ってきた。時代が変わったいまも、その構図は変わらない。

ことし3月、自分たちが暮らす環境や働く環境について、一人ひとりが真剣に「みらい」を考える――、そんなイベントが東京・世田谷区の用賀で開催された。第1回「ようがみらいかいぎ」は、世田谷区用賀の未来について皆で考える、住民主体のオープンな会議だ。

記念すべき第1回のテーマは「防災」。
さまざまな年代の地域住民が集い、積極的に意見交換を行う様子は新鮮に感じる。世田谷区の防災アプリや防災マップの活用を呼びかける人、避難場所や街の課題について、同席した世田谷区長の保坂のぶさんに改善をうったえる人など、会場の熱気が伝わってきた。コロナ禍により、住民どうしのコミュニケーションが取れなかったことが悔やまれるばかりだ。
(イベントの詳細はこちらの記事を参照)

また、災害時に何が必要で何ができるか、グループに分かれてアイデアを出しあう「防災ブレスト」も開催され、私も参加させていただいた。

私のグループでは、20代から高齢の方まで、多種多様な意見が飛び出した。
例えば、20代からは「ペットは災害時に避難所に連れていけるのか」、60代からは「災害時に、服用している薬は手に入るのか」という課題があがってきた。

このブレストの中でとくに私が注目したのは、「多様性」に関する意見だ。
障がいの有無や国籍による言語の違いなど、さまざまな「多様性」を大事にすべきという参加者の声に大いに賛同した。災害時だからこそ、人を思いやる気持ちがより大切となる。

LGBTQの「T」であるトランスジェンダーとして生きる私は、災害に遭った際、避難所での生活においても、「多様性」が重要視されるべきだと考えている。
ふだんから見えにくいものは、災害時にはさらに見えにくくなってしまうからだ。

例えば、避難所で名簿記入する際には性別欄が工夫や配慮がされているか、男女共用のトイレや仮設風呂は設置されているか、性自認に合った物資が受け取りやすいか、仮説住宅ではパートナーと暮らせるか、など多くの不安要素があげられる。

私が性別を変える以前、男女共用のトイレがなかったため女性用トイレを使用した際、すれ違った年配の方が私の姿を見るや引き返し、トイレの標識を確認してジロジロ見られた経験が何度かある。トランスジェンダーの友人は、同じ状況で通報されたと聞く。

公衆トイレを使用するだけでも緊張し、冷や汗をかき、ストレスがかかる……。
ただでさえストレスが高まる災害時、このような不安はできるだけ避けたいものだ。誰もが安心して避難できる環境と配慮が望まれる。

それと同時に、役割の重要性を感じた。

例えば、英語が話せる、介護の経験がある、ボランティア経験があるなどの情報が事前に分かっていれば、役割分担がスムーズになると感じた。

それを把握するためにはSNSでの呼びかけや、地域住民との交流などが必要になる。
SNSでの呼びかけには若い世代の力が、地域住民の交流には自治体をよく把握している年配の方の力が必要になる。その力を合わせるためにも、今回のイベントのように、それぞれ意見交換ができる場が大切になってくる。

災害はいつ起こるかわからない。
だからこそ事前の準備がとても重要となる。地域住民どうしで、いざというときに自分は何ができるのかを提案できる場があれば、きっと役に立つはずだ。

人と人が「つながり」をもつことで、ふだんは気づかなかった視点や新たな発想が得られる。そんな化学反応が、自分ひとりでは変えられない「環境」に変化をもたらすと知った。「みらい」は、きっと変えられる。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。