チェッカーズのボーカリストとしてデビューしたミュージシャンの藤井フミヤさん。40年前、その人気は音楽シーンを席けんし、若者のファッションにも影響を与えるなど、まさに社会現象になりました。

そのフミヤさん、子どものころから絵を描くことが大好きでした。楽器に触る前から、気が付けば絵を描いていたと言います。美術の成績も良く、将来はクリエイターになるつもりでいたそうです。その独自の世界観と表現手法が注目され、国内の美術館はもとより、ニューヨークやパリでも個展を開いてきました。

1990年代はコンピューターや仮想世界への関心が強く、やがてアナログな手法で作品を描くようになります。画家ボッティチェリへの思いを極細のボールペンで描いた作品には思わず引き込まれます。「日常生活のあらゆることをアートに取り入れている」と言うフミヤさんの関心は、道端に落ちている針金や視界に入る建築物など、多方面に広がっていきます。

中でも人体や女性をテーマにした作品が多いのは「生命が宿るものに魅力を感じる。そこには女性へのリスペクトがある」とも言います。各地で開かれる展覧会はデビュー当時からのファン世代、その子どもの世代、さらに歌手・藤井フミヤを知らない孫世代でにぎわっています。

「音楽は人とつながるツールだが、アートはすべて自分で作り上げ、満足感や達成感を得ることができる。アートはイン、音楽はアウト。絵を描くことは肉体の衰えとはそれほど関係ないから、比重としては絵画制作が高くなっていくかも。これからもクリエイティブな作品をどんどん世に出したい。よい年の重ね方をして、ちゃんとおじいちゃんになりたい」と照れながら話します。

音楽とアートで時に甘美に、時にファンタジックに表現の世界を広げ続けるフミヤさん。内に秘めた熱く激しい思いをエネルギッシュに歌うステージとは違って、心の中で自分の言葉を探しながら静かに語る人でした。

*藤井フミヤさんは、令和5年度芸術選奨大衆芸能部門で文部科学大臣賞を受賞。
(いしざわ・のりお 第2・4水曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2024年6月号に掲載されたものです。
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