どうも! 朝ドラ見るるです。
今週は、ついに愛の裁判所こと、「家庭裁判所」設立の巻! トラコ(寅子)は、仲が悪い「少年審判所」と「家事審判所」の間を取りもって合併させるべく大奔走。さらに、“クセつよ”上司・多岐川さんの登場やヒャンちゃん(香淑)との意外な場所での再会などなど……。今週も盛りだくさんの内容でした!
それにしても気になるのは、ドラマの中で少年審判所と家事裁判所の面々がめっちゃ対立していたこと。う〜ん、そもそも、2つはどんな機関だったの? どこまでが史実?
……というわけで、NHK解説委員で、家裁の歴史をまとめたノンフィクション『家庭裁判所物語』の著者でもある清永聡さんに、詳しく話を聞きました。
「少年審判所」と「家事審判所」、そもそも一体どんなもの?
見るる トラコの奮闘の甲斐あって、家庭裁判所が発足しましたね! ドラマでは、その準備がとーっても大変そうでしたが、「少年審判所」と「家事審判所」って、なんであんなに仲が悪かったんでしょう? そもそも合併前は、それぞれ、どんなことをしている機関だったんですか?
清永さん 順を追ってお話ししましょう。──この合併に関わる新しい少年法が成立したのは、1948(昭和23)年7月のこと。翌年1月1日から施行されることになっていましたが、ドラマでも説明があった通り、そこには「次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する」という文言があったのです。
でも、この時点で、まだ家庭裁判所は“存在しない”のに、法律の条文に明記されてしまったのです。
見るる つまり、「家庭裁判所」の設立ありきで少年法が改正された――少年審判所と家事審判所の合併は、すでに決定事項だったということでしょうか?
清永さん いえ、見切り発車だったと思います。ただ、「予算の面からいっても、2つ別の裁判所を作るのは難しかった」と、当時の関係者は回想しています。
ところが、現場では不満が噴出。特に少年審判所側の反発は大きく、「発足1年足らずの家事審判所と対等合併するなど認められない」という意見は大きかったようですね。
見るる それ、ドラマでも言ってましたけど、少年審判所と家事審判所って、名前は似ているのに、そんなに違う組織だったのですか?
清永さん ええ、まず設立の時期もおよそ四半世紀の差があります。少年審判所ができたのは1922(大正11)年。同年に制定された「旧少年法」によると、当時、少年が起こした事件は、まずは検察が判断し、その結果、起訴されれば大人と同じく地方裁判所で裁判を受ける。起訴されなければ、保護処分を受けることになる。その保護処分を行うのが、少年審判所でした。
見るる 保護処分というと、今でいう少年院みたいなところに送られるということですか?
清永さん そのほかにも、処遇はいくつもありました。ただ、当時の少年審判所は、司法省の下にある“行政機関”という位置づけでした。しかし戦後の段階で設置されていたのは、全国で18か所。全都道府県にあったわけではなかったんです。これでは組織として不十分でしょう。
また、先んじて公布された新憲法に「司法権は(中略)裁判所に属する」(76条第1項)と明記されましたから、少年審判所は“裁判所”になることが求められたわけです。
見るる あ! それって、“行政権”と“司法権”の話ですよね。そこは分立していないといけないって、見るる、学びました!(第5回「直言さんが逮捕された“共亜事件”って創作? 事実? どっちどっち?」)
じゃあ、もう一方の家事審判所は? 新参者的な扱いを受けていましたけど、いつごろできたんですか?
清永さん 家事審判所ができたのは、1948(昭和23)年。同年、新民法と同じように、新憲法にあわせた新しい法律「家事審判法」が成立したのですが、これに基づいて設立されたのが、家事審判所です。名前のとおり、家のこと──夫婦、親子、親族の間で起きた問題を取り扱う場所です。主に離婚や遺産分割などですね。
こちらは最初から“地方裁判所の支部”という扱いで全国にありました。ところが、どこも間借り状態で、単独の庁舎を持っているところは1つもなかったんですよ。こちらも組織の貧弱さが課題でした。
見るる それぞれ、全く別の仕事をしていて組織の成り立ちも違うわけですね。それが上からの通達で、急に“合併”ということになったと。う〜ん、一緒にしちゃいけないかもですけど、会社のシステムが変わるたびに、いちいち翻弄される勤め人の気持ちは、見るるにもちょっぴり、わかる気がします。
正直言って、面倒ですし……。つい感情的に対立しちゃったところも、あったのかもしれないですね。
ついに発足、ファミリー・コート! あの感動エピソードは実際にあった!?
見るる 三淵(当時は和田)嘉子さんもトラコのように、この2つの機関の間を取り持つお仕事をされていたんでしょうか? 考えただけで胃が痛くなっちゃいます……。
清永さん そうですね。三淵さんは、1947(昭和22)年6月から司法省の嘱託職員として民法改正の業務に携わっていましたが、1948(昭和23)年1月、家事審判法の制定を行う最高裁判所民事局に異動になります。ただ、この間、具体的にどういう仕事をしていたのかは分かっていません。
そして2つの審判所の統合と、家庭裁判所設立についての会議が開かれたのが、おそらく5月頃。この時、三淵さんも、アメリカの「ファミリー・コート」の話を聞いて感激したとか。
明るい笑顔で、「家庭裁判所ができたら、きっと素晴らしい時代が始まる」と言っていたそうですよ。ところが、「家庭裁判所設立準備室」が本格的な仕事を始めたのは、なんと12月に入ってから……。
見るる えっ12月? 1月には施行されちゃうんですよね? そんな短期間で、ちゃんと折り合いはついたんですか?
清永さん それが、ひと月前の11月、「少年保護に関する全国学生代表協議会」が開かれました。ドラマでも、トラコの弟・直明が参加する活動団体が、話し合いに出席していたでしょう?
見るる “純度の高い”キラキラした正論でみんなを説得しちゃった、直明くんですね。あのエピソードも実際にあったんですか? 三淵さんの弟さんが話し合いの場に……。
清永さん いえいえ、弟さんが少年保護の活動に参加していたというのは、ドラマのオリジナルです。でも、全国の学生22人が出席したこの協議会の頃から、合併の話がやっと前に進んでいくことになったというのは事実です。
学生たちは、それぞれの地域で少年保護の活動に励んでおり、熱心に自分たちの活動内容を語ったと言われています。当時は、2つの審判所だけでなく、厚生省との関係や自治体との間などでも対立があったようなのですが、大人たちは、学生たちの話に感銘を受け、また、彼らに組織の対立を見抜かれたことで、素直に非を認めて反省の言葉を述べています。。
もちろんこれだけが理由ではないでしょうが、この頃から、少年審判所と家事審判所の合併に反対する声は、少しずつ減っていったということです。
見るる すごい! 直明くんたちのような若者が実際にいたなんて。彼らの情熱が大人を動かしたんですね……。紆余曲折を経ての家庭裁判所設立のシーン、トラコたちの苦労が報われたのを見て、テレビの前でほろりとしました。
清永さん 東京家庭裁判所を開くといっても、すぐにはふさわしい場所が見つからなかったというのも、史実です。そこで、家事部はひとまず、これまでと同じく東京弁護士会のの講堂内に。少年部は、それまで少年審判所が使っていた建物が使えなくなったため、東京地方裁判所の地下にある喫茶室を、半分だけ間借りしたそうです。
見るる なんと! ドラマでは法曹会館4階の宴会場でしたね(笑)。
清永さん それだけではありません。家裁の設立に携わり、通算10年間東京家裁の事務局長を務めた亀田松太郎の回想によれば、なんとか開庁日である元日に間に合わせようと、大みそかの朝まで、喫茶室に机と椅子を運び込むなどの準備をしていたのだとか。
──翌日の1949(昭和24)年1月1日早朝、彼は暗いうちから1人、モーニング姿で登庁します。そして、朝8時。家から持参した、障子紙に「東京家庭裁判所」と書いた“表札”を、建物の入り口にあった「東京地方裁判所」というプレートの横に貼り付け、涙したということです。
見るる モーニングにお手製の表札……それも本当にあったことなんですね、感動です! ということは、もしかして、その亀田さんという人が多岐川さんにあたる方……?
清永さん いいえ、これはエピソードをお借りしているだけで、多岐川のモチーフとなった人物については──長くなってしまうので、また来週!
見るる そんなあ(笑)。でも、来週も楽しみにしています♪
次週!
第12週「家に女房なきは火のない炉のごとし?」6月17日(月)〜6月22日(土)
意味:《家に主婦がいないのは、炉の中に火がないのと同じで、大事なものが欠けていて寂しいということ。》(辞書オンライン『ことわざ辞典』より)
予告編の動画によると……よねとトラコが再会してる! と思ったらさっそくケンカしてる? 轟も含めて、今後トラコたちと、どう関わっていくんだろう? そして、愛の裁判所は、戦争で家族を失った子どもたちの問題にどう向かい合っていくんでしょうか……⁉︎
というわけで、今週の「トラつば」復習はここまで。
来週の先生方の講義も、お楽しみに!
NHK解説委員。1970年生まれ。社会部記者として司法クラブで最高裁判所などを担当。司法クラブキャップ、社会部副部長などを経て現職。著書に、『家庭裁判所物語』『三淵嘉子と家庭裁判所』(ともに日本評論社)など。「虎に翼」では取材担当として制作に参加。
※清永解説委員が出演する「みみより!解説」では、定期的に「虎に翼」にまつわる解説を放送します。番組公式サイトでも記事が読めます。
2024年5月21日放送の『みみより!解説「虎に翼」解説(3)女性弁護士と戦争』はこちらから(NHK公式サイトに移ります)。
取材・文/朝ドラ見るる、イラスト/青井亜衣
"朝ドラ"を見るのが日課の覆面ライター、朝ドラ見る子の妹にして、ただいまライター修行中! 20代、いわゆるZ世代。若干(かなり!)オタク気質なところあり。
両親(60&70代・シニア夫婦)と姉(30代・本職ライター)と一緒に、朝ドラを見た感想を話し合うのが好き。