5月11日(土)からスタートした土曜ドラマ「パーセント」。多様性の実現を掲げるテレビ局が舞台で、「障害のある俳優を起用するように」と上から言われた新人プロデューサー・未来みくを伊藤万理華さんが、未来が「ドラマに出演してほしい」とオファーする車椅子いすに乗る高校生・ハルを和合由依さんが演じる。新たな挑戦の連続だったという2人に話を聞いた。

【物語のあらすじ】
ローカルテレビ局「Pテレ」のバラエティー班で、多忙な日々を送る吉澤未来(伊藤万理華)。彼女はいつかドラマ班に異動したいと、企画書を出し続けていた。ある日、編成部長・藤谷(橋本さとし)に呼び出され、自身のドラマの企画が通ったことを告げられる。喜んだのもつかの間、部長は「この企画の主人公、障害者ってことにできへんか?」と未来に尋ねた。局をあげた「多様性月間」というキャンペーンの一貫として、登場人物に多様性を持たせたドラマが必要なのだと言う。
戸惑う未来をよそに、「障害のある俳優を起用する」という条件で企画は進んでいく。悩みながらも、とにかく企画を成立させねばと取材を進める未来。やがて彼女は車椅子に乗った高校生・宮島ハル(和合由依)と出会う。俳優を目指すハルに未来は不思議な魅力を感じ、ドラマの出演をオファーするが、ハルは「障害を利用されるんは嫌や」と拒否。あきらめきれない未来は、ハルが所属する劇団「S」の稽古場を訪ねるが……。

「パーセント」の撮影は、去年秋に大阪で行われた。現役高校生の和合さんは、平日は学校に通い、週末になると大阪に向かって撮影に参加したという。

「3か月の撮影期間、週末は大阪に通うという生活を送ったので、まる1日大阪でオフというのはありませんでした。でも、撮影が早く終わった時に、たこ焼きを食べに行ったり、えびすばしのグリコの看板を見に行ったりしました」和合さん

「オフの日は体調を整えたり、セリフを確認したりするためにあまり出歩きませんでした。一度だけ、プロデューサーの南野(彩子)さんと滋賀県の信楽に行きました。電車で行って、ろくろを回したのですが、『あ〜、私には土が足りていなかった!』って思いました。たまにこういうものに触れるのは大事だなと」伊藤さん

コミュニケーションの取り方についても、出演者とスタッフが、 障害のあるなしに関わらず、さまざまな工夫することで、現場の一体感が高まっていったという。伊藤さんは、

「みなさんがそれぞれ自分たちの意思表示をしていました。撮影前の本読みの段階で、手を叩く拍手だけでなく、開いた手を掲げて手首を回してひらひらと振る、手話の拍手を見て、なんて素敵な現場なんだろう!と感動しました。

また、全員が名札をつけていたのですが、これは障害者の人がいる、いないに関わらず、どの現場でもやってほしいと思いました。今回はさまざまな人が参加する現場だから、特に丁寧にやっていたのかもしれませんが、みんなが当たり前に意識的にコミュニケーションを取ることが、モノづくりの良さにつながっていくんじゃないかと感じました」伊藤さん

と語る。一方、和合さんも、

「私はパラリンピックの開会式で『片翼の小さな飛行機』役を演じた時、異なる障害を持つ人とコミュニケーションを取るために工夫した経験が生かされました。

例えば、劇団『S』の劇団員を演じた水口ミライさんはろう者ですが、スマホに文字を入力して見せたりして。だから、今回の現場では、人との関わりで苦戦することはありませんでした」和合さん

と、現場でのコミュニケーションについて教えてくれた。

本作は「多様性月間」を掲げるテレビ局が舞台。長年の希望がかなってドラマ班に配属された未来自身も、その配属理由の一つが「若い女性だから」だったと知り、ショックを受ける。

現実の社会でも、「若い女性だから」「障害者だから」といった理由で起用される場面は少なくない。伊藤さんや和合さんは当事者の一人として、どのように感じているのだろうか? 伊藤さんは言う。

「俳優のお仕事をいただく上で、知名度がある、大きな作品に出たことがある、見た目がいい、といった判断はこれから先もなくならないんじゃないかと思います。そういう表面的なものだけではなく、もしも起用理由の中に、本人が魅力的で素敵だからという理由が一つあるだけでも、起用される側はその仕事をする意義があると思えるのではないかと思います。

私は、南野プロデューサーがオファーの手紙をくださったことがきっかけで未来を演じることになりましたが、今までの自分の活動を見てくれている人はいる、諦めないでよかった、どんな形であってもお仕事をいただいたのであれば、私はしんに返したいと思いました」伊藤さん

そして和合さんは「障害者だから」「健常者だから」と他人との違いを考えるより前に、自分がどうありたいかを第一に考え、その瞬間を大切にしたいと話す。

「私はあまり深く考えすぎずに、ただその瞬間を大事にして楽しむということを一番大事にしています。健常者と障害者ってどこかで意識してしまうことはあるかもしれないけど、私の立場からも、『健常者は……』と考えないようにすることが大切。一人の人間として、こうありたいという意識を持っていることが大事なんじゃないかと思います。

ドラマの中で、ハルは『障害を利用されるんは嫌や』と自分の気持ちをはっきり言葉にしていますが、私は言葉よりも、行動で伝えることがあってもいいと思うんです。自分がどういう考えを持っていて、どんなことが好きなのかを伝えようという意識を持っていることが大事じゃないかなと」和合さん

和合さんは、自分の一番の味方は自分だからこそ、誰に何を言われようと、自分を支えられる人間でありたいという。

「倒れ込んでしまった時に、自分で自分をどう支えられるかが大事。そういった考え方を持っていると、誰かに委ねることもないはず。自分を守れる人でありたいし、自分の気持ちを大切に、言葉よりも行動を大事にできる人でいたいと常に思っています」和合さん

ドラマの放送にあたり、伊藤さん、和合さんはこのドラマが多くの人に届けられるのを心待ちにしている。

「みなさんも仕事などで、壁にぶつかることがあると思います。このドラマを機に、自分が憧れのものに一番はじめに出会い、ときめいた瞬間は何だったのか? 初心に戻ってそれを思い出してほしい。そう思える作品なので、ぜひ観てください!」伊藤さん

「このドラマの撮影が終わり、大阪から東京に帰る新幹線の中で、『ここで経験したことを忘れたくない!』と強く思ったほど、たくさんの思い出があり、とても幸せでした。それだけに、この作品をお届けできることがすごくうれしいです。楽しみに待っていてください」和合さん

南野彩子プロデューサーより

本作では、和合さんをはじめ、障害のある多くの俳優たちが撮影現場に入ることになるため、出演者もスタッフ側も安心して撮影できるように、さまざまな準備を行いました。
たとえば、NHK大阪放送局には「バリバラ*」を制作している福祉班がいるので、そのみなさんからアドバイスをもらっています。俳優が芝居をしやすい環境を整えることが、チームのするべきことなので、撮影に参加するにあたってどういったものが必要か、移動や着替え、トイレなど、現場に求めることを俳優一人ひとりにお聞きする、ヒアリングの時間も設けました。ロケ地選びでも、スタッフが車椅子をレンタルして持っていって、移動のシミュレーションするなどして、ロケ場所や撮影の環境を整えていきました。


また、今回、和合さんはオーディションで起用させていただきましたが、1話でハルが未来に指摘したような、“車椅子に乗っているから”という理由で起用したわけではありません。和合さんがオーディションで堂々と楽しそうにお芝居する姿に惹かれ、未来と同じように「この子とドラマを作りたい!」と思ってお願いしました。主演の伊藤さんも同じです。2人とも、それぞれに魅力があり、作品と向き合っていただけました。


ぜひ、たくさんの方にドラマを楽しんでいただけると幸いです。


*バリバラ……「生きづらさを抱えるすべてのマイノリティーにとっての“バリア”をなくす」をテーマにしたEテレのバラエティー番組(NHK番組公式HPはこちら

土曜ドラマ「パーセント」(全4回)

5月11日(土)スタート
毎週土曜 総合 午後10:00~10:50
翌週水曜 午前0:35~1:25(再)※火曜深夜
毎週土曜 BSP4K 午前9:25~10:15

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。