聴覚障がいのある父と、その娘の成長を描く、笑って泣けて心温まるホームコメディー。主人公・静役の吉岡里帆が、コーダを演じる難しさや、ドラマへの思いを語った。

静を演じるためにはいつもの倍のパワーが必要

静は、耳が聞こえない父・純介(笑福亭鶴瓶)の口がわり耳がわりをしてきたコーダ(聴覚障がいのある親を持つ、聞こえる子ども)の女性。
ハンディキャップを乗り越えるために親子で試行錯誤してきた生活が明るくコミカルに描かれていて、伝えたいテーマが明確な作品だと感じました。

父とのコミュニケーションは手話で行うのですが、言葉を発すると同時に手話をするのがとても難しくて。

父とほかの人との会話を取り持つときは、話しながらスピーディーに手話をするだけでなく、相手の言葉をかみ砕き、手話に変換して父に伝える必要もあって、その違いを出すのも大変です。

会話の通訳をするのが前提になるので、誰よりも相手の話を聞こうとするのですが、いちばん意識しているのは父。
相手の話を耳で聞きつつ、目線は父に送っている構図がとても新鮮でした。それをこなすにはいつもの倍のパワーが必要で、皆さんの力を借りながら日々撮影しています。

手話の指導をしていただいたのは、ご自身もコーダの、はせ亜美さん。
手話シーンが終わるたびに私のところに来て、「さっきは、この表現がとてもすてきだった!」とか「このシーンがコーダっぽくて、成長したって思ったよ」などとたくさん褒めてくださるんです。

はせさんのおかげで手話を勉強する意欲が日々湧いています。鶴瓶さんの手話指導を担当しているぞえ悟史さんも一緒にコミュニケーションをとってくださるので、待ち時間にたわいのない話をして、手話をするときの気持ちの入れ方を学んでいます。

To 笑福亭鶴瓶様
毎日、手話お疲れさまです。こんな特別な作品で時間をかけて親子像を描けるのが、とても幸せです。静が純介といて楽しいように、私も鶴瓶さんと特別な時間を過ごせています。本当にありがとうございます!

静にとっての父は〝世界の中心〟

純介を演じる鶴瓶さんはいつも楽しい話をなさっていて、現場では常に笑いが絶えません。 ロケでは、街行く人たちがみんな「鶴瓶さーん!」って手を振っていくんです。自然に街の人と交流が生まれていく様子は、 まるで「鶴瓶の家族に乾杯」を見ているようで(笑)。
純介も街の人々に愛されている人なので、鶴瓶さんにぴったりの役だと感じています。

そんな純介にとって、静はなくてはならない存在ですが、実は静にとっても大切な存在なんです。父がいないとまっすぐ立てないんじゃないかとさえ想像しています。
娘でありながら親のように父を支え、誰よりも愛情を注ぐ静にとって、父は“世界の中心”なのだと思います。

そして、そんな親子の前に現れたのが、中島裕翔さん演じる圭一です。静と純介は問題が起きると互いに感情的になってしまいがちですが、圭一はもう少し冷静で、解決方法を一緒に考えてくれる人。

空気が読めず他人とのコミュニケーションが苦手だと言うけれども、静は今まで出会ったことがない温かさや優しさを圭一に感じ、そこにひかれていきます。

初めてのデート(第2回)でも、“父を大切に思っている静”を、きちんと見ていることがわかる、とてもすてきなシーンがありました。この場面に限らず、「しずかちゃんとパパ」は、どこを切り取っても愛情にあふれていて、普遍的なテーマにしんに向き合っている作品。

この先、今まで親子が出会ったことのない問題に直面したり、新しい世界が広がったりしていきます。見たあとは心がほっこりして、胸にぐっとくるものがあると思うので、どうぞお楽しみに。


よしおか・りほ
1993年1月15日生まれ、京都府出身。NHKでは連続テレビ小説 「あさが来た」、「美女と男子」「朗読屋」などに出演。主演映画『ハケンアニメ!』が5月20日公開予定。

(NHKウイークリーステラ 2022年4月1日号より)