現在放送中のホームコメディードラマ「しずかちゃんとパパ」で、ヒロインの静を演じる俳優の吉岡里帆さんに独占インタビュー!
実はこのドラマ、昨年3月からBSプレミアムで放送され、放送文化基金賞などを受賞した実力作。吉岡さんにとっても、思い入れが深い作品だという。このドラマに寄せる思いを、当時の撮影エピソードとともに伺いました!
「しずかちゃんとパパ」
毎週火曜 総合・BS4K よる10 時(内容45分・全8回)※現在4話まで放送
【これまでのあらすじ】
野々村静(吉岡里帆)は、地方の小さな町で、写真館を営むパパこと父・純介(笑福亭鶴瓶)と二人暮らし。純介は生まれた時から耳が聞こえないため、静は幼い頃から父の耳代わり口代わりを務めてきた。ときどきケンカはするものの、親子仲はよく、また気のいい町の人たちにも囲まれて、二人は楽しく穏やかに日々を過ごしていた。
そんな町の人々の目下の関心事は、商店街の再開発(スマートシティー化)計画だ。静は、開発業者の社員として町にやってきた風変わりな青年・道永圭一(中島裕翔)とひょんなことから親しく話をする間柄に。以来、彼の言動に戸惑ったり励まされたりしつつ、徐々に惹かれ合うようになっていく。
そして、ついに第4話で、道永から告白され、二人はつきあい始めることになったのだった。が、スマートシティー計画に断固反対するパパや商店街の面々に、静はその事実をなかなか打ち明けることができず……。
【各回あらすじ&前回のダイジェスト動画はこちら】
https://www.nhk.jp/p/ts/KVZJ1V7MY5/
──吉岡さん演じる静は、“聞こえない(ろう者の)親を持つ、聞こえる子ども(=コーダ Children Of Deaf Adults)”ということで、パパと手話で会話したり、パパとほかの皆をつなぐために手話で通訳したりと、セリフと同じくらい手話を使うシーンが多いですが、すごく自然に見えますね。
吉岡 そう言っていただけるのは、すごくうれしいです! 時間をかけて練習をがんばった甲斐がありました。「このドラマ(昨年放送されたBSプレミアム版)をきっかけに手話に興味を持った」とか、「手話を勉強し始めました」という方もいらっしゃって、素直に、本当にうれしいです。
静の場合、鶴瓶さん演じるパパとは手話で話しつつ、ほかの人の音声のセリフにも反応しなくちゃいけない──。つまり、2種類の言語を同時進行で話しながら演技をすることになるので、セリフと手話とお芝居と、覚えることが普通のドラマの3倍近くあって……やっぱり、それは大変でした。
でも、やるからには、ろう者の方々が見ても“日常会話”として納得できる“生きる手話”を目指したくて、できるだけ自然に見えるように、少し形を崩すなど工夫をしていました。そのためにも、とにかく音声のセリフは早く覚え、残った時間は、少しでも多く手話の練習にあてるようにしていました。
──静ちゃんを見ていると、手話は、手の動きだけではなく、目や顔の表情、体の動きも大事だということがよくわかります。そこはかなり意識されましたか?
吉岡 そうですね。いつもより“表情”を大きく使って会話をすることを意識しました。手話って、まさに、からだ全体で表現する言語なんですよね。
また、演じるにあたっては、手話指導のはせ(亜美)さんから“コーダの人あるある”をうかがっていたので、それも参考にしました。
静のキャラクターの特徴でもある“相手を見つめすぎちゃう”“身ぶり手ぶりが大きい”に加え、“食器を置いたりするときに大きな音を立てがち”というのは、実際のシーンを見てくださるとよくわかると思います。あと、“ボディタッチの力が強め”というのもあって……。
──確かに、リビングで静に背を向けてくつろいでいるパパに向かって、静が投げるお手玉の威力、けっこう強めだなと思いました(笑)。
吉岡 そうなんです。声をかける代わりに何かをぶつけたりして気づいてもらうというのは、コーダと聞こえない家族の間ではよくあることだそうです。この父娘の場合、とにかく“砕けた感じ”が大事だと思っていて。
いつも口げんかしてるんだけど、明るくて面白くて、その様子を見た町の人が「いい父娘だな」って思える。そんな雰囲気を出すためには、一見、乱暴に見えるくらいのほうが自然かなと(笑)。
パパの肩を思いっきり強く叩くシーンが何度かあったんですけど、自分の父親に対しても、あんなに強く叩いたことはないぞってくらい、思いっきり叩かせていただきました(笑)。
それが許されて、かつ、ちゃんと面白いシーンになるのは、鶴瓶さんの懐の深さとそのパワーのおかげです。「一緒に面白い空気を作ろうよ」っていう無言のメッセージが鶴瓶さんから出ているから、つい遠慮なく(笑)。
──鶴瓶さんとの絶妙なコンビ感、ちゃんと伝わっています(笑)。ところで、先ほどおっしゃった静のキャラクターは、吉岡さんにとても合っていて、ハマり役だと思うのですが?
吉岡 それ、(昨年の)ドラマの放送後、けっこう言っていただいたんです。「役というより素の里帆っぽいね」って。聞いたところによれば、ちょっと当て書き的な部分もあるそうです。
このドラマで野々村静という役に出会って、「私はこのドラマに巡り会うために、これまで苦しい経験も経てきたのかな」と思えるようになりました。
実際、ドラマの中にそんなセリフがあります。「過去だけは絶対に変えられないって思ってたけど、道永さんのおかげで嫌な過去が良い思い出になった」。今の自分のあり方、考え方で、嫌だった過去を変えられるということを教えてもらえた。そういう意味でも、静というキャラクターは、私の中でとても大きな存在です。
──このドラマ、いいセリフがたくさんありますよね。そのほかに、印象に残っているセリフはありますか?
吉岡 名ゼリフが多すぎて難しい!
でも、一番好きなのは(第1話の)「おまえを泣かせた奴らより楽しくしてろ、それが仕返し」というパパのセリフです。
(小学生の頃、父親がろう者であるために同級生たちにからかわれ、傷つき落ち込む静に、パパが満面の笑顔で伝えた言葉)
あと、道永さんの「壁は乗り越えてはいけません。必要だからそこにあるんです」も好きですね。
(「どうしても乗り越えられない壁がある」と悩む静に向かって、道永はこう告げ、さらに、「目的は壁を乗り越えることではなく、向こう側に立つことなのだから、目線を変えて空路を使ってみては」と提案する)
特に、道永さんのセリフは、常にすてきなスパイスになっていますよね。道永さん本人は、なにかいいことを言おうとか、上からアドバイスをしようなんていう気はさらさらない。ただ、ポロッといいことをこぼしてくれる(笑)。だからこそ、押し付けがましさがなく、聞き入れることができるんだと思います。
それは、きっとパパも同じ……。このドラマって、何かの理由で人生に行き詰っている人、悩みごとを抱えている人が見た時に救いになる、あるいは前に進むヒントを与えてくれる作品なんじゃないかと思うんです。
──そうですね。いろいろな人の思いやメッセージがぎっしり詰まっているのに、なぜか全く説教くさくない。ちなみに、吉岡さん自身が、このドラマを通して伝えたいと思っていることはありますか?
吉岡 やっぱり、コミュニケーションの大切さです。パパは耳が聞こえませんが誰よりも娘と向き合っているし、“本当の声”を聞こうとしている。だからこそ、静もパパと真剣勝負で向き合っているんです。
「ここまでしっかり、人と向き合えていますか?」って、人との交流がちょっと希薄になっている今の時代だからこそ、問いかけたいですし、私自身にも刺さっているテーマです。
──その思いを伝えるためにも、撮影現場でのコミュニケーションが大切になりますね。
吉岡 撮影の頃は、まだ新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期だったのですが、それでも、笑顔が絶えない楽しい現場でした。道永さんを演じる中島さんは冗談ばかり言って、いつもみなさんを笑わせていました。親父ギャグ……も、あったかもしれません(笑)。
──先ほど「覚えることが普通のドラマの3倍」とおっしゃっていましたが、それが理由で緊張感ピリピリ……ということはなかったんでしょうか?
吉岡 それは全然なかったですね。そういえば、鶴瓶さんの手話指導を担当された江副(悟史)さんが、ディレクターさんたちのモノマネをして笑わせてくださったことも! これ、内輪ネタすぎて、いまひとつみなさんに伝わらないのが残念なんですが、すっごく細かいところが、似てるんですよ(笑)。
それに、何といっても鶴瓶さんが楽しくって。いらっしゃるだけで面白いというか、現場が明るくなるんですよね。本当に、誰とでも分け隔てなく接する方で、ロケ先で出会った住民の方々との会話なんて、まさにリアル「家族に乾杯」(笑)。江副さんにも、しょっちゅう声で話しかけていて。ろう者の方には特別に気を遣わなくちゃ、みたいな気負いが全くないんですよね。
私にも、「そんなに練習するな」と言ってくださって。「そんなに里帆ばっかりが練習してたら、俺がサボってるみたいに見えるやん」って(笑)。私、現場に入っても、とにかく手話の練習ばかりしていて、鶴瓶さんのようにスタッフさんや共演者の方たちとお話しする時間がほとんどなかったんです……。それを気遣って、あえて言ってくださった優しさだと思うんです。でも、半分は本気な感じもして、あの時はすごく笑っちゃいましたね。
振り返ってみると、自分が思っていることを言葉で伝えるのは、すごく大切なことだけど、人と人とのコミュニケーションは、言葉を交わすだけじゃないんだって、撮影現場でも教えてもらった気がします。
──さて、そんな「しずかちゃんとパパ」の放送は、残すところあと4回。物語はいよいよ佳境に入っていきますが、ドラマ後半の見どころを教えてください。
吉岡 まず注目してほしいのは、静が“コーダ”という言葉に出会って、アイデンティティーを見つける場面です。“コーダ”という言葉自体、私もこのドラマで初めて知りました。アメリカ発祥で、割と最近の概念なので、自覚のない当事者の方も多いそうです。静もその一人です。「自分には何もない」と思っていた彼女の世界が、“コーダ”と出会うことでどんどん広がっていきます。
また、道永さんと付き合い始めたことによる変化も……。静には、パパ以外に大事なものができてしまったわけです。やがて、人生の岐路が父娘に迫ってきます。そこで、彼らはどんな選択をするのか、どうぞご注目ください。
──ほかにも、パパとさくら先生(木村多江)の関係に進展はあるのか? スマートシティー計画、結局どうなる? イヤミな真琴先輩(藤井美菜)と静との直接対決はあるのか!? などなど、気になることがたくさんあります。
吉岡 あ、それは……意外な展開もありますよ! でも、見てのお楽しみです(笑)。ぜひ最後まで、見届けてくださればうれしいです。
1993年1月15日生まれ、京都府出身。高校卒業後から俳優を志し、さまざまな舞台や映画に出演。2016年、連続テレビ小説「あさが来た」でヒロインの娘の親友・のぶちゃんこと田村宜役を好演。主演映画『ハケンアニメ!』(2022年)で第46回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。NHKではほかに「京都人の密かな愉しみ Blue 修行中」「平成万葉集」「LIFE!」「理想的本箱 君だけのブックガイド」などに出演。
▼このドラマについてもっと深く知りたい人へ……
ステラnetでは、昨年BSプレミアムの放送時にも、独自にドラマについての情報発信をしてきました。ぜひこちらの記事もご覧ください。※一部、ネタバレを含みます。
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