ことし3~5月にNHK BSプレミアムで放送されたドラマ「しずかちゃんとパパ」の番組制作/手話指導者によるトークイベントが、町田市の障がい理解促進啓発事業の一環として、8月20日にNHKとの共催で町田市民フォーラムで開催された。

「しずかちゃんとパパ」は、ろう者である父・純介(笑福亭鶴瓶)の耳代わり口代わりをつとめてきた娘・静(吉岡里帆)が、圭一(中島裕翔)と結婚するまでの親離れ子離れのてんまつを描いたホームコメディドラマだ。

コーダ(※コーダ【CODA…children of deaf adults】聞こえない、もしくは聞こえにくい親をもつ、聞こえる子どもたち)とろう者を演じた吉岡里帆さんと笑福亭鶴瓶さんの演技も注目を集め、第48回放送文化基金賞 優秀賞・演技賞(笑福亭鶴瓶さん)、第38回ATP賞テレビグランプリ 優秀賞を受賞している。


今回のイベントには、ドラマ制作統括の松原浩さん(AX-ON チーフ・クリエイター)、海辺潔さん(元NHKチーフ・プロデューサー)、ドラマ手話指導を担当した江副悟史さん(日本ろう者劇団 劇団代表)、はせ亜美さん(手話通訳士)の4名が登壇。

松原浩さん
海辺潔さん
はせ亜美さん、江副悟史さん

ドラマの制作秘話を語る「パネルディスカッション」と、手話指導者からろう者とのコミュニケーションを学ぶ「ライブイベント」の2部構成で行われた。

パネルディスカッションでは、ダイジェスト映像をもとにドラマ制作の舞台裏を紹介。注目シーンを振り返るとともに、デフ・ヴォイス(ろう者の発する声)や「ろう者・コーダあるある」など、登壇者が気になったシーンをピックアップ。その場面をもとに、今だから語れる裏話の数々が披露された。登壇者の本音トークに、来場者も思わず聞き入っていた様子。

※登壇者の詳しいトーク内容については、後日掲載予定です!


会場ロビーでは、スポーツ中継に合わせて、自動で手話CGを制作する技術を展示。その展示に、中学生も興味津々! NHKでは、情報を手話アニメーションで伝える技術研究を今後も進めていく。

続くライブイベントは、江副さんとはせさんによる「手話講座」。
「おはよう」「おつかれさま」などのあいさつに加え、「さまざまな場面で使える『数字』を覚えてもらうことで、子どもや学生に、手話に興味を持ってもらいたい」という江副さんの思いから、「1~10の数字」をレクチャー。すると早速、自身の年齢を手話で表現する来場者も!

そして最後は、男性には絶対覚えてもらいたいという、鶴瓶さんもお気に入りの手話「嫁のいいなり」を紹介。

ここで松原さんが「実は、ドラマのラストシーンで、純介が圭一に対して、(鶴瓶さんの)アドリブで『嫁のいいなり』と手話をしていた」という裏話を披露。実際に、そのラストシーンを確かめてみると……! 放送では、そのシーンに字幕が入っていなかったため、今回初めて知ったという人も多かったようだ。

ここでしか聞けない制作秘話に盛り上がり、そして「ろう者」とのコミュニケーションを学ぶ機会となった今回のイベント。「しずかちゃんとパパ」と連携したきっかけや狙いについて、町田市障がい福祉課の担当者に話を伺った。


○町田市担当者が語る「共生社会」への思い

町田市 地域福祉部障がい福祉課
山口 総務係長/鈴木 福祉係長


町田市では、「町田市障がい者プラン21-26」という障がい者施策計画を策定しています。その基本理念は、「命の価値に優劣はない」ということ。この理念をもとに、さまざまな取り組みを行っています。その一環として、今回の「しずかちゃんとパパ」イベントを立ち上げました。コロナ禍もあり、約3年ぶりのイベント開催となりましたが、たくさんの方にお越しいただき、本当にうれしく思います。

最近では、アニメ『聲の形』や映画『コーダ あいのうた』など、ろう者を主題とした作品も多いですよね。そういったエンタメ作品を通して、「聴覚障がい」についてあまり知らない方にも訴求力のあるイベントを開催したいと思っていました。そんなとき、「しずかちゃんとパパ」を拝見しました。番組の制作意図や裏話を語るイベントを開催することで、壁のない社会を実現するための気づきを生み出せるのではないかと思い、NHKさんにご相談した次第です。

参加者の申込受付を開始して、約2日間で定員に達しました。「しずかちゃんとパパ」の影響力の大きさを実感しましたね。ドラマファンの方々にはもちろん、障がいに先入観を持っていない小中学生にも届けたいと思い、市内の学校にチラシを配布しました。イベント終了後には、登壇者と中学生による座談会も開催でき、有意義な時間となりました。

イベントでは、ドラマのシーンや登壇者のお話を通して、ろう者やコーダがふだん感じていること、抱いている思いを共有できたのではないでしょうか。「ろう者やコーダの方は、こういう世界で生きているんだ」という理解につながったように思います。

もちろん今回で終わりではなく、来場者がろう者とコミュケーションを深めるきっかけとなったら大変うれしいですね。市では「手話講習会」などを定期的に行っていますので、ぜひ多くの方に参加していただきたいです。

共生社会の実現に向け、自治体ではさまざまな取り組みが推進されている。
今回の町田市のように、NHK番組と連携して、共生の輪を広げていくような試みも増えつつある。別の記事で紹介したように、よるドラ「恋せぬふたり」は、大学や自治体のセクシュアリティーや多様性への理解促進に貢献している。

公共メディアNHKと自治体や大学が連携することで、共生社会への道がリアルに見えてくる——。