現在、NHK総合で放送されているドラマ「しずかちゃんとパパ」。ろう者である父・純介(笑福亭鶴瓶)の耳代わり口代わりをつとめてきた、コーダの娘・静(吉岡里帆)が、圭一(中島裕翔)と恋に落ち、結婚するまでの親離れ子離れのてんまつを描いたホームコメディーだ。
※コーダ【CODA…children of deaf adult/s】…聞こえない、もしくは聞こえにくい親をもつ、聞こえる子どもたち
その番組制作/手話指導者によるトークイベント 「手話の魅力的な世界 NHKドラマ『しずかちゃんとパパ』 から学ぶ」(主催:八王子市・NHK)が、7月30日に八王子市学園都市センターで開催された。「しずかちゃんとパパ」のイベントは、昨年8月に町田市で開催されて以来2回目となる。
※町田市でのイベントの様子はこちらから!(※一部ネタバレを含みます)
満員御礼!「しずかちゃんとパパ」トークイベント公共メディアNHKと自治体の連携から広がる共生の輪 | ステラnet (steranet.jp)
登壇したのは、ドラマの制作統括を務めた海辺潔さん(NHK財団チーフ・プロデューサー)、ドラマ手話指導を担当した江副悟史さん(日本ろう者劇団 劇団代表)、はせ亜美さん(手話通訳士)の3名。
視聴者はもちろん、親子連れや学生などさまざまな方が来場し、開演前から会場は満員に。ドラマの制作秘話や手話講座など盛りだくさんの内容となったイベントの様子を紹介しよう!
あの名シーンの手話はこうして生まれた!
「ろう者とコーダの話ではなく、父娘の温かい関係性をホームコメディーとして描くことを目指していた」と語るのは、制作統括の海辺さん。江副さんとはせさんも、「“お涙ちょうだい系のドラマ”とはまったく異なる台本でおもしろいと思った」と話す。明るく弾む3人のトークからも、現場の雰囲気のよさがひしひしと伝わってくる。
そんな中、制作統括の海辺さんが第1話から気になるシーンを2つピックアップ。
一つ目は、圭一が静に「あなたが嫌われてしまうのは、聞こえないお父さんと暮らしてきたからでは」と問いかけるシーン。実は、鶴瓶さんのクランクイン初日に撮影したシーンだったという。このとき鶴瓶さんは、涙が出てきてどうしようもなかったそうで……。
この場面を振り返って江副さんは——。
「(初日ということもあり)まだ鶴瓶さんが手話の動きに慣れていなかったので、『手話も落語と一緒で“間”があり、その中にさまざまな感情が出てきます。間の取り方は、鶴瓶さんにお任せします』とお伝えしました。そして撮影に入ると、感情があふれでたのか、鶴瓶さんはすぐに泣いてしまって(笑)。このシーンをきっかけに、手話コミュケーションへの理解が深まったように思います」
二つ目のシーンは、父親がろう者であることを同級生にからかわれ傷つき落ち込む小学生の静に、パパが「おまえを泣かせた奴らより楽しくしてろ、それが仕返し」と笑顔で伝えた場面。
実は、このシーンでは、「仕返し」という手話をあえて使わなかったという。その真意を江副さんは——。
「この場面、父が娘に伝える手話として、よりいい表現がないかと考えました。そこで『泣かされても笑顔でいれば、いつか人生逆転する』という思いを込められたらと思い、『仕返し』ではなく『逆転』という手話を選びました」
江副さんとはせさんが語る、それぞれの原点
ドラマの裏話で盛り上がった後は、江副さん、はせさんの生い立ちに迫るパート。当時の写真を交えながら、家族や学生生活などのエピソードを2人が語る。
俳優、手話キャスター、劇団代表と幅広く活動している江副さんは、ろう者である両親への思いが、活動の原点になっているという。
江副「聞こえないことで、親がいろんなことを諦めてきた姿をたくさん見てきました。そんな苦しみが生まれない社会を目指したいと思い、今さまざまな活動を行っています。どんな活動を行っていても、親が楽しめることをやっているのかなと考えますね。僕の頭の中には両親がいつもいます」
両親がろう者で、現在は手話通訳士として活躍されているはせさん。手話通訳士を志したきっかけは——。
はせ「小学校低学年のとき、周囲の人から『お父さんとお母さんは聞こえなくてかわいそうだね』とよく言われていました。だから当時は、ろう者になるのが夢だったんです。嫌な言葉を聞くこともないし、会話も手話でできますから。そして成長過程でいろんななりたいものの中から手話通訳士という仕事を選択した。ろう者が本当に言いたいことをちゃんと伝え、ろう社会と聴社会をつなぐ手話通訳士を志しました」
皆で「手話講座」! 鶴瓶さんのお気に入り手話は?
▶▶こちらの記事で動画で紹介!
続いては、江副さんとはせさんによる手話講座。日常的なあいさつをはじめ、「楽しい」「うれしい」などの感情を表す動詞など、簡単にできる手話を紹介した。
最後に、江副さんから「今までの手話は忘れていいので、これだけは覚えて帰ってほしい!」といったフレーズが登場!? 鶴瓶さんが考える「夫婦円満の秘けつ」=「嫁の言いなり」。
このフレーズを伝える手話は他にもあるが、江副さんオリジナルの表現が鶴瓶さんのお気に入り! 今でもこの手話だけは忘れていないという。
ちなみにこの手話、劇中のどこかで鶴瓶さんのセリフとして登場する(?)らしい。どの場面で出てくるのか、ぜひ放送をお楽しみに!
ドラマ「しずかちゃんとパパ」を通して、ろう者の世界を身近に感じることができた今回のイベント。ここでしか聞けないドラマの制作秘話にも大いに盛り上がった。終了後、江副さんとはせさんからメッセージをいただいた。
江副「今回のイベントをきっかけに、手話に興味を持っていただけたらうれしいです。ろう者は別の世界に生きる人ではありません。ぜひ一歩踏み出して、私たちの世界に入ってきていただけたら。この世界も楽しいですから!」
はせ「ことばでは説明できないおもしろさがろうの世界にはあります。そのおもしろさを見つけてほしいですし、ぜひコーダのことも知っていただきたいです。また、手話通訳という仕事は、いろんな世界が見えて、すごくおもしろいですよ!」
普段、なかなか理解が届かないろう者の世界や手話によるコミュニケーションも、ドラマをきっかけに身近に感じることができる。そには新たな気づきや学びがあふれていて、共生社会への道がひらかれていくのだ——。
イベント終了後、学生との座談会を開催!
イベント終了後には、法政大学現代福祉学部の学生と、八王子市立由井中学校の学生との座談会が行われた。この模様の詳細は、以下のページで詳しく紹介中!
またイベントの内容は、8月25日(金)放送の「ひるまえほっと」(NHK総合 午前11時30分~※茨城県以外の関東甲信越 )にて放送予定! ぜひ、お楽しみに。
八王子市イベント担当者からのメッセージ
遠藤 課長/山本 職員
八王子市は、平成24年4月に「障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子づくり条例」(差別禁止条例)を施行し、共生社会の実現を目指しています。実践例として、障害者が自らの体験に基づいて、他の障害者の相談に応じ、相談者と同じ立場から問題解決するための支援を行う事業(ピアカウンセリング)などを実施しています。
共生社会というと、スケールの大きなもののように感じますが、一職員としては、身近なところに共生社会のかけらがあると思っています。共に生きるとは、知ることから始まるのだと思います。私たち市の職員ができることは、いろんな方が生きているこの社会を知ってもらうことだと思い、多くの方に会い、会話をしていくことを大事にしながら業務にあたっています。
イベント当日は大変暑かったですが、満員御礼で多くの方が笑顔で参加されていたのが、何よりうれしく思います。障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子を目指して、このイベントで得たことを広めていきたいと思います。