3月30日(土)に放送される、NHKスペシャル「シリーズ未解決事件 File.10 下山事件」の試写・取材会が3月25日に開かれ、主演の森山未來さんと、演出の梶原登城チーフ・ディレクターが登壇した。

2011年7月に「File.1 グリコ・森永事件」からスタートした本シリーズは、今回で10作目。新たなスクープをもとに、ドキュメンタリーと実録ドラマで未解決事件の真相に迫る人気シリーズだ。これまで、「オウム真理教」「ロッキード事件」「赤報隊事件」「警察庁長官狙撃事件」などを取り上げてきた。

今回のドラマ・ドキュメンタリー全体の制作に携わった新名洋介プロデューサーが「10作目にして、シリーズ史上、最も真相に肉薄できたのではないか」と語るほどの力作となっている。

【ドラマのあらすじ】
1949年7月、国鉄職員10万人の解雇に関して労組と交渉中、忽然(こつぜん)と姿を消した下山定則総裁。その後、無残な(れき)()(たい)で発見された。検死解剖の結果、死体から血が抜き取られていたことが発覚。自殺か他殺かをめぐる大論争へともつれ込んでいく。
東京地検の主任検事として捜査を指揮することとなった布施健(森山未來)は、自殺として不可解な点が多いことから、他殺の糸口を探っていく。
朝日新聞の記者・矢田喜美雄(佐藤隆太)は“伏せケン”と異名をとるほどマスコミに情報を漏らさない布施とぶつかり合いながら、検察の捜査の核心を追う。
複雑な迷宮のような事件を追跡する中で、布施はソ連のスパイと名乗る謎の男・()(ちゅう)(かん)(玉置玲央)にたどり着く。李は暗殺への関与を告白し、事件の背後でうごめく超大国の謀略と、犯人しか知り得ない驚くべき供述を始めるのだった――。

10作目となる今回は、“占領期最大の謎”と呼ばれる「下山事件」。1949年7月、国鉄総裁の下山定則が突然の失踪後、謎の轢死体で発見された事件だ。

今回、取材班は、この怪事件に光を当てる、数百ページもの“極秘資料”を入手。第一部のドラマでは、この“巨大な闇”に人生をかけて立ち向かった1人の検事の壮絶な戦いを描き、その検事・布施建を森山未來さんが演じている。森山さんは、完成したドラマを見た感想を聞かれて「面白いですよね」と切り出した。

「戦後最大のミステリーと言われているだけあって面白いのですが、事実を基に描かれていることは間違いがない。僕が本を読んだり、調べたりする中で感じたのは、アメリカ、ロシア、中国などの大国の狭間で、日本という国は独自の生き方を見つけていかなければならなかったということ。そしてその、戦後のある出発点というか、原初的な部分が下山事件に凝縮されていたのではないだろうかと、勝手に想像しています。こういう事件が本当にあったということを、より多くの人に知ってもらえれば、この番組が大きな意味を持つと思います」(森山さん)

森山さんが演じた布施建は、東京地検の主任検事として下山事件の指揮に当たった人物。上層部の見えない力によって幕引きがはかられる中、人生をかけて事件の真相に迫ろうとする難しい役どころだ。

「そりゃ、()(けん)にシワも寄りまくりますよね。手塚治虫さんや浦沢直樹さんも下山事件を元にした作品を描いているのですが、物語として描きたいという思いに駆られてしまうくらい謎めいたもの。アウトラインを見ている分には面白いのですが、中に入って演じてみると、無常観に襲われていた気がします」(森山さん)

演出の梶原登城チーフ・ディレクターは、布施を演じた森山さんを絶賛。

「(演出しながら)かっこいいなって思ってました。もともとスタイルがとてもいい方ですけれども、筋が一本ピンと張ったような……。布施さんという役を体現していただいていると思いながら見ていましたし、やっぱり声がいい。その声色も、実は、3つの時代に合わせてあえて微妙に変えているんですけれども、そのさじ加減がすごいなと思いました」(梶原さん)

「印象に残ったセリフは?」と聞かれた森山さんは、「パンチライン(聞きどころ、決めゼリフ)だらけじゃないですか!」と力説。

「どこを出しても結構パンチラインですよ。どこに刺さるだろう、誰に刺さるだろうみたいなセリフしか言わないんですけど。あえて挙げるとすれば、布施が、上司であった馬場さんと最後に(たい)()するシーンは、セリフだから覚えなければならないっていうよりは、久しぶりに“覚えておきたいセリフ”という感覚でした」(森山さん)

本作では、下山事件を追い、検事・布施にくらいついていく朝日新聞記者・矢田喜美雄を佐藤隆太さん、ソ連のスパイと名乗る謎の男・李中煥を玉置玲央さん、布施の上司・馬場を渡部篤郎さん、下山事件に迫ったノンフィクション『黒い霧』を執筆した松本清張を大沢たかおさんが演じるなど、錚々(そうそう)たる俳優陣の演技も見どころの一つだ。

「僕はずっと隆太と呼んでますが、佐藤隆太さんとはデビューが同じ。19歳と15歳の時、 舞台でデビューしたところからのつながりです。たまに仕事が一緒になったことはありますが、こんなにがっつり芝居をしたことが25年ぐらいなかったので、完成した映像を見ていて不思議なものを感じました」(森山さん)

梶原チーフ・ディレクターは、「シリーズ未解決事件」の撮影現場が通常のドラマ撮影とは違う点として、報道ディレクターが立ち会うところだと言う。事実に肉薄した部分や、既に明らかになっている部分があるものの、“ドラマの中の布施はどこまで知っているか”などを確認しながら撮影が進められる、と話す。

「“半ドキュメンタリー・半ドラマ”みたいなところでドラマを作っているのですが、それがすごく面白いんですよ。僕はそれをエンターテイメントにするのが仕事。森山さんは、いろんな本を読んで勉強もされているけど、“布施としては、ここは知らないですよね”という部分が出てくるんです。だから、森山さんご本人は知っているけれども、じゃあこの場面の布施はちょっと驚いてもいいですね、みたいなやりとりを毎回やりながら、探り当てていくんです。ただ、俳優さんたちは大変だったと思います」(梶原さん)

一方の森山さんは、そうしたやり取りが布施という人物になりきることにプラスになったと振り返る。

「布施さんは、いわゆる説明的なセリフがめちゃくちゃ多いんですけど、下山事件というものに興味を持ち、いろんな人からお話を聞いたことで、“言わされてる感”がどんどんなくなっていきました。自分の中に全部“降りて”きている感じがあったのは、皆さんからいろいろ知識や知恵をいただいたおかげかなと思っています」(森山さん)

会見の最後、2人は視聴者に向けて、本作の見どころを伝えた。

「やっぱり森山さんをはじめとした俳優さんたちの熱演です。特に森山さんはストイックで、ずっと葛藤し続ける演技をしていただいたおかげで、緊張感の高いドラマになりました。また、これは事実に基づいたドラマではあるんですけれども、事実をベースに、いかにサスペンスドラマとして面白いものに仕立て上げていくか、脚本家さんたちと一生懸命やりとりしました。そういった面白さも味わっていただけたらなと。また、昭和初期、終戦直後の出来事ではありますが、僕らは過去の古いドラマではなく、現代的なドラマだと思っているので、そのことも届くといいなと思います」(梶原さん)

「下山事件を知らなくても、松本清張さん、手塚治虫さん、浦沢直樹さんのことを知っている人はたくさんいるはず。彼らに『書きたい』と思わせるほどの物語なので、ワクワクドキドキしてしまうと思います。いろんな思いや考えを持ちながら見るのも全然ありですし、そういうものがなくても、いろんなことが解明されていくことによって、どんどん()きつけられる作りになっていると思うので、ぜひご覧ください」(森山さん)


午後7時から第一部のドラマ編が放送されたあとは、午後10時から第二部のドキュメンタリー編を放送。こちらでは、検察の捜査では解き明かされなかった事件の謎に、独自取材で迫っていく。今回、数百ページにわたる“極秘資料”を入手。4年にわたって続けられた解析、取材によって浮かび上がってきたのは、真犯人の実像と、水面下で繰り広げられていた超大国の()(みつ)な策略だった。ドラマと合わせて楽しみたい。


NHKスペシャル「シリーズ未解決事件 File.10 下山事件」

放送:3月30日(土) 総合
   「ドラマ 下山事件」午後7:30〜8:48
   「ドキュメンタリー 占領期の深き闇」午後10:00~10:54

作:安達奈緒子
音楽:川井憲次
出演:森山未來、佐藤隆太、大沢たかお/溝端淳平、玉置玲央、前田旺志郎、森崎ウィン/渡部篤郎ほか

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