6月に発生した災害の中で、災害時の放送を見直すきっかけとなった一つが、昭和39(1964)年6月16日の新潟地震です。 一般に知られていることは、トランジスターラジオが、特に停電の被災地で、情報を得るために重要な役割を果たしたことや、個人の安否情報が放送されたことなど、「災害時のラジオの有効性」が認められたことでしょう。
地震の後、新潟大学・新潟県警・警視庁が共同で行った住民への調査結果が、ラジオの有効性が認められていたことを裏付けています(有効回答数 670)。現在、災害に関する調査は各所で行われていますが、この当時はまだまだ少なく、先駆的な調査と言ってよいでしょう。
調査結果を見ると、「情報を得るための主な手段」として最も多かった回答が「トランジスターラジオ」(約76㌫)、「情報を得るための有効な手段」として最も多かった回答も「トランジスターラジオ」(約70㌫)でした。これらの結果は、「ラジオは災害時の必需品」というその後の評価にもつながっていったようです。
この調査報告書は、災害時のラジオについてプラスに評価をしている一方で、いくつかの問題点も挙げています。そのうちの一つは、ラジオの情報は広い地域(例えば、県や市)を対象とした情報が多いため、狭い地域(例えば、町内や学区)ごとの細かい情報として役立てることが難しかったことです。もう一つは、被害の大きな地域の情報は多いものの、被害の小さい、比較的安全だった地域の情報が少なかったことです。
後者は、平成7(1995)年の阪神・淡路大震災でも話題になったことがありました。家族や知人の安否確認のために電話が輻輳したり、被災地に向かう車で渋滞が起きたりしたことなどが問題視され、被害が比較的小さい地域の状況も満遍なく伝えていれば安心情報にもなり、輻輳や渋滞がいくらか軽減できたのではないかという意見が聞かれました。
このことは、「テレビ・ラジオが災害の全体像をどこまで伝えているのか」という問題にも関わってきます。
災害の際、テレビ・ラジオは、被害の大きな地域を中心に扱うことが多くなりがちです。新潟地震では山形県や秋田県などでも大きな被害が出ていましたが、当時、新潟以外の被害は、どの程度注目されていたのでしょうか。
また、ある災害で取材の対象にしなかった地域で起きていたことが、次の災害で大きな問題になってしまうこともあります。災害の際には、何らかの影響が出ている地域全体を可能なかぎり取材し、放送することが求められるでしょう。そして、このような放送によって、はじめて災害の「全体像」もわかってくるのではないかと思います。
もちろん、放送する側にも、人・機材や時間などが制限されるなど難しい点も多くあります。しかし、「災害の全体像を少しでも明らかにしよう」ということを心に留めて対応するかどうかによって、放送の内容は自ずと違ってくるでしょう。新潟地震からことしで57年。この間に起きた災害について、テレビ・ラジオは、それぞれどの程度「全体像」を明らかにしてきたのでしょうか。
(NHKウイークリーステラ 2021年6月25日号より)
日本大学文理学部社会学科教授。専門は、災害社会学、災害情報論、マス・メディア論。災害情報・報道に対する人々の意識や評価、震度情報・津波警報・緊急地震速報などの地震・津波情報の適正化が主な研究テーマ。大学では、テレビ・ラジオの歴史や番組を扱ったマス・メディアに関する授業も担当している。