31日に放送された「大奥Season2」第15回は、いよいよ「医療編」のクライマックスとなります。今回は、はるさだ(仲間由紀恵)に代表される、大奥に潜む“化け物”というキーワードに着目しながら、ドラマを振り返っていきます。


増長する”化け物”治済

第14回は、 治済の“化け物”っぷりがたっぷりと描かれた回でした。「大御所になりたい」という願いを老中の松平定信(安達祐実)に一蹴されたために罷免し、さらには定信を殺害しようとする治済。

しかし、今まで源内(鈴木杏)や家治(高田夏帆)などを闇に葬り去ってきた武女(佐藤江梨子)が、定信殺害を拒否したために、治済は武女を毒殺。さらには自らの孫たちを、退屈しのぎのように毒で間引いていったのです。まさにサイコパス! 理由もなく人を殺めた上に、毒で苦しむ姿に笑みを浮かべる治済。人の上に立つ人間が持つべき志の一片も持ち合わせていない彼女は、第15回でもさらに増長していくことになります。

第14回後半では、家斉(中村蒼)の正室である御台(蓮佛美沙子)の息子と、御台と仲の良かった側室・お志賀(佐津川愛美)は相次いで我が子を亡くしてしまいました。実は治済が御台とお志賀の名をかたって、それぞれに毒入りの菓子を差し入れていたのです。最愛の息子を失った御台は気がふれてしまい、娘を失ったお志賀は治済に取り入って大奥総取締の役職を手に入れ、滝沢と名乗るように。

同じく第14回の終わりには、母の傀儡である自分の人生を受け入れ、生気のない家斉(中村蒼)が、幼少期に人痘接種を行ってくれた青沼(村雨辰剛)が死罪になっていたことや、関係者が大奥を追放されていたことを知り、秘密裏に赤面疱瘡撲滅計画を復活させようとしていました。かつて大奥で 青沼を支えていた黒木(玉置玲央)のもとを自ら訪ね、「男とておなごを守れるそんな世に、変えたいのだ」と訴えます。


目に光が宿った家斉は、母を欺けるか?

さて、第15回では、黒木に門前払いを喰らわされた家斉が、なんとか母・治済には内密に赤面疱瘡の人痘接種を実現できないか画策します。一度は拒んだ黒木も伊兵衛(岡本圭人)や妻子の説得もあり、家斉への協力を決意。幕府のいち機関である天文方に翻訳局を設け、表向きは蘭学者が集まって蘭書翻訳に励むということにして、人痘開発を進めることになったのです。

幕府内で、治済の目を欺くのに大活躍したのが、家斉に仕える松方(前田公輝)でした。松方はかつて大奥で、青沼ら講義部屋の面々を目の敵にしていた一人。赤面疱瘡撲滅に動こうとする家斉のことを冷ややかに見ていたのですが、彼の並々ならぬ熱意に心を動かされるようになります。

「しょせん男の人生とはさようなものかと諦めておりましたが、上様のお言葉に不覚にも心を打たれ」
「男子が死なぬようになれば、おなごばかりがのさばる世も終わるのではないか、と」

松方も“化け物” 治済にいいように使われてきた過去があり、赤面疱瘡によって男女逆転してしまった現状をなんとかしたいと思うようになっていたのです。


“化け物”をもって“化け物”を制する?

その後、再び赤面疱瘡が江戸市中で流行したものの、人痘接種が功を奏して評判が広がっていきました。そこで、かつて自分が排除した男たちが家斉と通じて人痘接種を実現していたことを知った治済は、家斉と御台を呼びつけると、ふたりを毒入り菓子で殺害しようとします。

「そなたは上様。そなたを裁けるものは誰もおらぬ。これではもう母が、母がそなたを手にかけるしかのうなってしまった。せめて、そなたの好きな甘いもので送ってやるゆえな。召し上がりゃ」

と、家斉に菓子を突き出す治済。治済的には、“母の愛”なのかもしれないが、どう考えてもそうではない!

毒入りの菓子を食べて苦しむ御台を見て、もはやここまで、と観念して家斉が菓子を口にしようとした瞬間、治済が崩れ落ち、吐血します。

息子を失って気がふれたと思われていた御台でしたが、それは狂言だったのです。同じく治済によって娘を毒殺されたお志賀と結託し、長年にわたって治済を欺き、少しずつ毒を盛っていたのでした。

「そんな化け物は成敗せねばならぬと……」

子を殺された母二人は、治済という“化け物”に対峙するために、夫である家斉を欺いてまで、自らも“化け物”となっていたのです。その壮絶さよ……。それにしても、改めてなぜ治済という人間が誕生してしまったのでしょうか? 江戸幕府による治世が長く続き、赤面疱瘡の流行や飢饉、天災などはあったものの、それなりに平和で穏やかな時代だったがゆえに、暇を持て余し、余興で人殺しをしてもなんとも思わない“化け物”が誕生してしまった。もしそうだとしたら、あまりにも尊い命の犠牲が大きすぎました。

原作では、家斉は息子の復讐のためとはいえ、ずっと御台にだまされていたため、かつては仲睦まじかった御台との間に男女の愛情が戻ることはなかったエピソードが描かれています。“化け物” 治済を倒したところで、一度入ってしまった夫婦の亀裂は決して元には戻らないところがまたリアルでやるせない。

治済はなんとか一命をとりとめますが、再起不能に。ようやく実権を握った家斉は、幕府の財政がカラになってもいいという執念にも似た覚悟で赤面疱瘡撲滅を推し進め、撲滅に成功します。かつて“化け物”と呼ばれながらも、蘭学を広め、人痘接種の研究を最期まで続けていた青沼の願いも、多くの人々の志となり、ようやくここで現実のものとなったのでした。

しかし、この安堵もつかの間。第15回のラストではまたとんでもない“化け物”が出現するのです。


約250年続いた江戸の世は、どうなっていくのか。

時は流れ、男子の数は女性と同じだけ増え、以前のように男子が家督を相続するように。 歳を重ねた家斉が第12代将軍に選んだのは、数多い息子の一人である家慶(髙嶋政伸)。かつての母・治済と同じように、自分の傀儡とすべく、あえて凡庸に見える家慶を選んだようです。

ただパッとしないだけであればまだマシでしたが、家慶は実の娘で、のちの第13代将軍・家定となる祥子(愛希れいか)に手を出すという鬼畜な所業を行っていたのです。 “化け物”去って、全く別の闇を抱える“化け物”がやってきてしまった……。第15回ではほんのわずかな登場ながらも、家慶演じる髙嶋政伸の怪演はインパクト大 。

徳川家が家督を継承しつづけることによって戦のない平和な時が250年以上も続いた江戸時代は、世界でも稀な時代といわれています。しかし、その期間であっても、激しい権力争いや自然災害、飢饉、疫病などさまざまなことがあり、男女逆転パラレルワールドを描いた『大奥』はフィクションであっても、そのことには変わりありません。

戦乱の世からの脱却を強く願って個を犠牲にして勤め上げた者や、握った権力を手放したくないがために“化け物”になった者もいれば、源内や青沼のように志半ばで命尽きた者も数え切れないくらいいます。このドラマは、1話45分という限られた時間の中ではありますが、世の理不尽さや、人間の愛憎、男女のジェンダー・アイデンティティなど、さまざまな要素が重層的に盛り込まれており、だからこそ、観る人を惹きつけています。

いよいよ11月7日からは「幕末編」がスタートし、大政奉還までが描かれます。長きに渡って続いた江戸時代が、『大奥』パラレルワールドでは、どんな終焉を迎えるのか。ますます目が離せません。

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。

「大奥 Season2」第15回は、NHKプラスで11月7日(火)午後10:44まで配信中