いよいよ11月7日から始まった『大奥Season2』の「幕末編」。よしながふみさんの漫画原作で、過去に何度か映像化されてきた、男女逆転パラレルワールドの歴史大作ですが、漫画が2021年に完結し、はじめてラストの大政奉還までが映像化されます。いよいよ「幕末編」がはじまったこのタイミングで、制作統括の藤並英樹チーフプロデューサーにお話をお伺いしました。


――9月から始まった『大奥Season2』ですが、「医療編」では、一橋治済を演じた仲間由紀恵さんの怪演が話題になりましたね。

僕は仲間さんとは朝ドラ『ちむどんどん』で、演出の大原拓さんとは大河ドラマ『功名が辻』でご一緒させていただいていて、俳優としての彼女がとても大好きです。『ちむどんどん』で演じられたお母さん役とは180度違う、恐怖や冷徹さを演じていただくのも面白いものになるのではないかと思ってオファーしました。

仲間さんは、こういう役ってあまりないですし、時代劇が久しぶりということもあり、すごく楽しみですとおっしゃっていただきました。最初の撮影シーンを見ていて、美しさや優しさを見せつつ、底知れぬ闇みたいなものを表現してくださっていたので、原作とは違ったキャラクターになるのではないかと思いました。

今回、『ちむどんどん』の制作スタッフが多かったこともあり、仲間さんには非常にいい雰囲気の中でキャラクターを作っていただけたのではないかと思います。治済はスタッフの中でも人気で、自作で治済Tシャツを作っていた人もいたほど。それだけ治済が、「医療編」でもトピック的なキャラクターになったと思っています。

――今回、2クールに分けて放送されていますが、分けた意図やそれぞれテーマにしていることはありますか?

女将軍が誕生した徳川家光の時代から幕末までを描くにあたって、1クールでは到底描ききれないと思いました。Season1では、どちらかというと将軍のカラーを色濃く出して、将軍と対になる登場人物によるバディの関係で見せていくドラマでしたけど、Season2は、「医療編」は赤面疱瘡や治済という巨大な怪物に対して、「幕末編」では、徳川家や日本に脅威となるものに対して、チームで立ち向かっていく人々の群像劇として描いています。特に「幕末編」では、平和に向かって戦を回避し、平和に向かって悪戦苦闘することになります。

僕自身、よしながふみさんはすごく好きな漫画家さんですから、リスペクトを持って取り組んでいきたいと思っています。脚本の森下佳子さんは、よしながさんが作られた、美味しいフルコース料理を、余すところなく、物足りないことがないように折り詰め弁当に入れるのがお上手。

今回も、きれいに詰めてくださっています。幕末はスケールが大きくなっていくのですが、原作同様に、一人ひとりの登場人物の内面や人間関係に収れんしていきます。撮影はすべて終了し、いま編集作業を行っていますが、改めて映像を見て、僕もいま新鮮な気持ちでいます。倒幕に向かって改革していく大奥の側から描くことになるのですが、それを見ていて新しい発見もありました。個々の人間の日常の中から歴史を見るって、こういうことかもしれないなという見方ができたので、そこをみなさんにもお楽しみいただければうれしいです。

――何度も映像化されてきた『大奥』を今、このタイミングで改めてドラマ化しようと思ったのは、新型コロナウイルスの影響などもあったのでしょうか?

原作が完結したということと、企画者であった岡本幸江プロデューサーが、10年前からやりたい企画だったことがあります。また、新型コロナがあり、時代のとらえ方や見え方、人類に対する脅威がすごく身近に迫ってきたという肌感覚がありました。ジェンダーなどの観点もありますが、未知の疫病に対する恐怖は、今取り上げるべき課題なんじゃないかと感じていました。

「医療編」で赤面疱瘡の人痘接種について描いていますが、コロナのワクチンとは全くの別問題で、原作に忠実にやりました。ただ、一人では到底及ばない集団の知恵や叡智を集めるところに、未知のものに対する対抗策があるのではないかと。このあたりは原作でも描かれていることですが。

中には平賀源内のような天才もいましたが、さまざまな人の努力、知恵、犠牲があって、ある種の解決策になるというのは、人間の歴史のようなものが凝縮されていると思うんです。作品では「没日録」の記述が墨で塗りつぶされる場面がありましたが、歴史の表に出なかった人々が未来と相対していって、それを乗り越えていくという人間の尊さのようなものはきちんと描きたかったですね。現在のコロナとどうの、というよりも、むしろ普遍的な人間の歴史のようなものをうまく表現できればと思っています。

――藤並さんは、過去にも大河ドラマに関わり、2025年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」もご担当されますが、今、時代劇で伝えたいことはどのようなことでしょうか?

僕は子どもの頃から時代劇が好きで、『水戸黄門』や『遠山の金さん』などをすごく観てきました。入局してからも、時代劇を担当する機会が多かったので、もっと好きになっていったというのはあると思います。

ある種の普遍的なテーマは、時代劇だからこそより伝わりやすくなるのかなと思っています。例えば、愛情や死など、特に死は現代劇では伝わりづらいところがありますし、『大奥』でも、家族や血縁の業というテーマ性がありますが、これもやっぱり時代劇というフィルターを1枚通して観てもらうことで見やすくなる部分はあるのではないでしょうか。

――「幕末編」で大政奉還まで描かれるわけですが、『大奥 Season2』をまだ観ていない人や、あまり歴史ものが詳しくない人でも楽しめるポイントなどはありますか?

「幕末編」で出てくる登場人物は、NHKのドラマでもあまり取り上げてこなかった時代が始まります。そういう意味では、非常に取っつきにくい時代かもしれません。でも逆に、誰も知らない人たちもフィルターを抜きにして観ていただけるのではないかと思います。

よしながさんの原作は、男女逆転のパラレルワールドですが、起きている出来事や登場人物、特に将軍のキャラクターは史実をベースにしていますので、「本当はこういう人だったのかもしれないな」と思いながら観ていただければいいなと。

幕末を取り上げたドラマでいいますと、大河ドラマ『篤姫』がありました。この時は第13第将軍を堺雅人さんが演じてくださいました。今回は愛希れいかさんが演じますが、家定の聡明さなどを対比しながら観ていただけると、また違った面白さがあるのではないでしょうか。

 あと、「幕末編」では、瀧山を演じる古川雄大さんが登場します。瀧山は花魁として登場するのですが、とても華やかですし、どこをとっても美形。キャラクターを見つつ、歴史の一旦も楽しんでいただければいいなと思っています。

古川雄大さん、福士蒼汰さん起用や撮影の裏話も!
藤並英樹チーフプロデューサーの後編インタビューはこちらから