10月3日にいよいよスタートした『大奥 Season2』。「医療編」第11回放送直後から、SNSでは待ちわびた声や、原作派も納得のキャスティングの妙を称える声など、多くのリアクションが見られました。「早く観たかった!」「Season2も期待しかない!」という人がこんなにも多いことを改めて実感しました。さて第12回では、物語が明るい方向に進みかけたところで、大奥の権力闘争が影を落とし始めたのでした…。

【前回(第11回)のおさらい】
8代将軍・吉宗(冨永愛)没後から約20年、いよいよあかづらほうそう撲滅のために動き始めることに。田沼意次(松下奈緒)の内命により、本草学者の平賀源内(鈴木杏)が長崎・出島で蘭語や蘭学に精通する青沼(村雨辰剛)を大奥に迎え入れる。大柄で青い目の青沼は周囲から恐れられるが、その誠実な人柄と、蘭方医学の確かな知識で風熱(インフルエンザ)に罹ったした(雑用係)を看病し、快復に導いたことから少しずつ受け入れられるように。さらには田沼を重用する10代将軍・家治(高田夏帆)の御台(正室)・五十宮(趙珉和)が、青沼の蘭学講義に加わったことで風向きが変わる。はじめは蘭方医を毛嫌いしていた黒木(玉置玲央)や、大奥で働く面々が講義部屋に集うようになったのだ。

青沼と源内の距離感が伝わる、心憎い演出!

第12回では、意次が源内と連れ立って講義部屋を訪れるところから始まります。青沼は講義では丁寧な江戸言葉なのに、源内との会話では「源内さん、なしてここにおると?」などと、長崎弁になるところがいい! 青沼と源内の距離感が一発で伝わる、心憎い演出です。

意次と源内が講義部屋に来たのはほかでもない、「赤面疱瘡の解明」が目的でした。赤面疱瘡を治す薬はないものの、サボン(石けん)による手洗いが病気の予防になるように、「赤面のサボン」を見つけられないか?と源内は提案します。大奥の男たちは戸惑いますが、なんとか解明の糸口を見つけようと決意します。

第11回では、出島から持参し、大奥の人々に配ったサボンをこっそり捨てられるという憂き目に遭っていた青沼。しかし、多くの同志を得て、「赤面のサボン」実現に向けて頑張る日々はさぞ充実していたに違いありません。青春群像劇のような爽やかさがあり、観ている側も「頑張れ!」と応援したくなる場面なのですが、大奥にはさまざまな思惑を抱く立場の女たちが存在しており、不穏な空気がすぐ近くまで忍び寄っていました。

そう、この「医療編」は、赤面疱瘡撲滅のために蘭学を学び、前向きに取り組む彼らの動きが小さな波紋を広げ、女たちの権力抗争と絡み合っていくストーリーなのです。


定信(安達祐実)と治済(仲間由紀恵)の存在感

実は、赤面疱瘡撲滅のために蘭学を学ぶ場を作り、異国との交易を始めようとする革新的な意次を快く思わない勢力があります。その一人が吉宗の孫で保守的な考えの持ち主の松平定信(安達祐実)です。質素倹約をよしとした吉宗を彷彿とさせる、地味な黒の着物に身を包んでいます。

そんな定信は、一橋治済(仲間由紀恵)の画策で、白川松平家に養子に出されることに。また、大奥にもともといた漢方医が、青沼を中心とした蘭学の広がりに危機感を抱き、定信に泣きつきます。こうした出来事が重なり、定信はますます意次へのいら立ちを募らせます。

定信を演じるのは安達祐実さんですが、吉宗の孫であることにプライドを持ち、自分こそが吉宗の継承者、すなわち将軍の器であると信じて疑わない姿は、一筋縄ではいかない意固地な性格がよく出ています。
ある日、定信は腹に据えかねて、意次に「大奥での蘭学の講義をただちに中止せよ」と抗議。「私が憂いているのはそなたの『異国好みと金好き』じゃ」と切り込んでいきます。そこで黙っていられなかったのが、意次のそばにいた源内。

身分の違いをものともせず、源内は、定信に言ってのけます。「あなた様は、おばば様に会ったことも見たこともないでしょう」と。おばば様とは、祖母の吉宗のこと。さらに、吉宗公自身が、洋書を解禁し、ご公儀の金蔵にコメを戻すべく、金のことばかりを考えていたことなどを並べ立てます。

「そもそも洋書を解禁されたのも、今日の蘭学隆盛の礎を築かれたのも吉宗公だったんですよ」
「しかもご公儀の金蔵に金を戻そうと米の値ばかり気にされててね」
「あなた様の大好きな吉宗公はずいぶんと異国好みで金好きのようですよ」
「その髪、着物、上っ面だけまねたとこで、吉宗公の志をついでいるのは田沼様の方なんじゃないかと思いますけどね!」

など、持ち前の早口で「あれ、それもご存じない?」と、定信をあおるあおる!

意次を尊敬し、敬愛の情を抱く源内だからこそ、黙っていられなかったのはわかるし、地味な着物など表層的にまねる定信を完膚なきまでに論破してくれてスッキリするものの、間違いなくこれは火に油をそそぐやつ!

実際、この場面にすっと現れた治済が、柔らかな物言いで定信に寄り添いつつも、ちゃっかり源内が女性であることをバラし、どんどん燃料をくべてしまうのです。この時の仲間由紀恵さん演じる治済は、とても優しげなのだけど、自分は一切手を汚さずに邪魔者を排除しようとしているところが怖い……。原作では“サイコパス”と呼ばれている治済の恐ろしさをきっちりとにじませています。


第13回は、相応の覚悟が必要!?

一方、青沼たちはある洋書から、「赤面のサボン」のヒントになる記述を見つけます。それは、あえて病に罹ることで免疫を獲得する「種痘」という方法。教室の面々は沸き立ち、源内も手応えを感じます。意次に「大手柄でしたね!」と褒められて気をよくした源内は、無理は承知で、ご褒美に「口吸い」を求めたところ、意次はその求めに応じます。これがまたとても美しいシーンで、ふだんは騒々しい源内の、心のうちに秘めた思いがひしひしと伝わってきました。しかし、こんなすてきなときめきが長く続かないのが『大奥Season2』。

源内は弟を赤面疱瘡で亡くし、「人生は短い」と、着たくもない着物を着て、やりたくないことをしている暇はないと、男の姿になって本草学を学んできました。そんな源内が、ある夜、何者かによって襲われます。その男の顔には、謎の腫瘍があるのですが、これが何を意味するのか……。

大奥での蘭学講義では、“あいのこ”と呼ばれて虐げられてきた青沼や、さまざまな事情を抱えて大奥入りし、外には出られない身の男たちが、赤面疱瘡撲滅という目的を得て、生きがいを見つけます。また、源内も女性でありながら男として本草学などを学び、獲得した知識や経験を武器に、赤面撲滅に向けて自らの道を切り開こうとします。みんなが「ありがとう」と感謝されるような悲願を成し遂げようとする中、権力闘争渦巻く大奥では、そう簡単にことが進みません。

世の中のためにと純粋な思いでひた走る青沼や源内が、権力や暴力によってねじ伏せられてしまう不条理さよ……。それが「次回予告」にがっつりと出ていました。これってもはやネタバレでは? 原作を読んでいなくても、あの予告を観てしまえば、その先に待ち受けるものがどういうものなのか、察してしまうはず。

なにせ『大奥Season2』では、大政奉還まで描くのだから、「医療編」のスピード展開もわかるのだけど、スピードが早すぎるがゆえに、受けるダメージもエグい……。それでも、彼ら、彼女たちが大奥という舞台で奮闘し、生き抜く姿や人間模様から目が離せないし、むしろ、刮目して観なくては! という気持ちにさせられます。いや〜、第13回が気になるけど、相応の覚悟が必要でしょう。第11、12回を見逃した方はぜひ、今のうちに追いついて、一緒に心して第13回に臨みましょう!

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。

「大奥 Season2」第12回は、NHKプラスで10月17日(火)午後10:44まで配信中