とうとうこの日が来てしまった……。第12回視聴後から、「続きが気になるから早く観たいけれども、この先は地獄が待っているようだから観たくない」という気持ちにさいなまれた人は少なくないはず。そう、10月17日放送の第13回は「医療編」前半の大きな節目となる回だったのです。
絶望の中で始まった「人痘接種」
第13回をひと言で言うなれば、「理不尽」という言葉に尽きるでしょう。それは第12回のあとに放送された次回予告で、すでにプンプンと匂わされていました。そうなるであろうことがわかっていて続きを観るのは辛いことではありますが、時は容赦なく流れていくのです。
平賀源内(鈴木杏)が青沼(村雨辰剛)に、自分の体にできた発疹を見せるところから始まる第13回。青沼は、ひと目でそれが梅毒による症状だと見抜きます。第12回で源内を襲った男たちから感染させられたものでした。女であるがゆえに生きづらさを感じていた源内が、自分らしく生きることを選んだのに、女として暴力的に虐げられる理不尽さよ……。冒頭から辛すぎます。
梅毒は当時の医療では治療できず、人によっては進行が遅いものの、末期には精神の錯乱が起きることもあります。源内が一番恐れているのはそのことでした。
「そんなの平賀源内じゃないんだよ!」
「死にたくない……」
青沼はそう訴えながら涙を流す源内を抱きしめることしかできませんでした。
絶望の縁に立っていた源内を引き戻したのは、源内が敬愛する田沼意次(松下奈緒)でした。意次が手を尽くし、女性も蘭学が学べるように。「平賀源内がいたから、この門戸は開かれたのです」という意次の言葉を胸に、源内は、「人痘接種」(赤面疱瘡の種を接種し、健康な男子に植え付ける治療法)に必要な、軽症の赤面疱瘡患者を探す旅に出ます。
一方の講義部屋の面々も人痘接種の準備を進めますが、まれに死に至る可能性もあるために、人々は拒絶反応を示します。その頃、10代将軍・家治(高田夏帆)の娘・家基が突然死する出来事もありました。
接種の有効性が知られ、風向きが変わったかに見えたが
意次が老中に就いてから10年が過ぎた頃、江戸に大地震が発生し、浅間山が大噴火します。大凶作で米の値段は高騰し、民の不満は意次に向かっていました。そんな中、再び赤面疱瘡が蔓延してしまうのです。ところがここで、人痘接種が有効であることが明らかになり、希望者が殺到。青沼たち講義部屋の面々に追い風が吹くことに。
でもそれは一時的なもので、再び風向きが変わってしまうことになります。意次の後ろ盾となっていた家治が、ヒ素中毒になっていたことが明らかになります。長年、治済(仲間由紀恵)の息のかかった者がお匙(侍医)を通して少量のヒ素を飲ませ続けていたのです。 家治たっての希望で青沼が診察してその事実が発覚。
そのことを知った家治は、「なにゆえ私がかように恨まれねばならぬ? そなたゆえか!」と怒りの矛先を意次に向け、青沼にも「黙れ、化け物!」というひどい言葉をぶつけます。青沼への心ない言葉は、原作にはないドラマオリジナルの台詞。「理不尽」の上乗せですが、家治もまた、大奥の女たちの策略という「理不尽」の犠牲者でもあったのです。
粛清、死罪、追放
その後、治済の息子・竹千代(小林優太)や反対派の急先鋒だった定信(安達祐実)の甥も人痘接種を受けます。ところが、運悪く、定信の甥が命を落としてしまったことが決定的な出来事となり、意次が粛清されることに。
意次は老中職を解かれ、青沼は死罪、蘭学を学んでいた講義部屋の男たちは大奥追放が言い渡されます。到底納得できない男たちは声をあげますが、青沼は「私だけでよかったんです!」と一言。
青沼がひとり死罪になっても、蘭学や人痘接種を知る男たちは生き延びることができる。一時的に途切れてしまうかもしれなくても、命と志があればいつかまた再開できるかもしれない。青沼はそこに希望を見出していたのです。連れ去られる青沼に、黒木(玉置玲央)たちはありったけの声で「ありがとう」と叫び続けます。
もう一人の人痘接種の立役者、源内は梅毒に侵され、もう目も見えない状態になっていました。意次の追放や青沼の死罪については知る由もなく、人痘接種の成功や、女性たちが蘭学を学ぶ姿を思い浮かべながらこの世を去ります。
大雨の中、立ち尽くすのは大奥を追放された黒木。江戸城に向かって叫びます。
「貴様らは母になった事がないのか!?」
「産んだならばその子を赤面疱瘡で亡くしたことはないのか!!」
「そういう悲しい母と子を一人でも減らしたくて懸命に努力してきた者達にこの仕打ちか!!」
「あまりにも理不尽ではないか!!」
黒木の慟哭は大雨にかき消され、誰にも届かないところもまた「理不尽」。原作でも屈指の名場面で、原作勢の人々にとっては、あまりの再現度の高さにきっと涙したはず。
家光以来の「男将軍」誕生
その後、10代将軍・家治を継いで11代将軍となったのは治済の息子・家斉(中村蒼)でした。赤面疱瘡で命を落とした3代将軍・家光以来の男将軍となります。この家斉、青沼から人痘接種を受けて成功し、成人した竹千代だったのです。大奥内が災害や権力闘争、赤面疱瘡の流行に右往左往している間に、謎の急死を遂げた家治の娘・家基を筆頭に、後継者候補の女子はみな死に絶えていました。治済はしれっと自分が後ろ盾となり、息子を推挙したのです。治済の満面の笑みが恐ろしすぎる!
ああ、なんという「理不尽」の連続よ……。人から「ありがとう」と感謝されることを糧に奮闘してきた青沼と源内はあまりにも「理不尽」な理由からこの世から強制退場させられました。よく、「頑張ればいつかは報われる」「きっと誰かが見てくれているはず」と言いますが、それって本当なのでしょうか? 彼らはあまりにも報われなさすぎです。「ありがとう」と感謝されて喜びを実感できるのは、生きていてこそのはず!
それでも青沼や源内は「ありがとう」という言葉を糧に常に明るい未来を信じ、死の間際まで、この人痘接種が人々を救い、赤面疱瘡に怯えることなく暮らせる世に希望を見出していました。彼らの希望の種は、黒木たち講義部屋の男たちや、人痘接種で命を救われた人々の心にもきっと植え付けられていることでしょう。
「医療編」はまだまだ続きます。11代将軍・家斉は、史実では在位50年の間に正室や側室との間に55人の子をもうけ、贅沢な暮らしをしていたとされていますが、男女逆転パラレルワールドではどのように描かれるのでしょうか。青沼や源内が遺したものがどう芽吹いていくか、次回も見逃せません!
兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。