2023年1月期に放送されたNHKドラマ10『大奥 Season1』が3月末に放送を終えたあと、『大奥 Season2』の開始をどれだけ待ちわびていたか! 10月3日に待望の「医療編」第11話が放送されました。

【ドラマ「大奥」を初めて見る方はこちら】
原作は漫画家・よしながふみさんの同名作で、物語の舞台は江戸時代。3代将軍・徳川家光の時代に、若い男性のみに罹患し、罹った者の5人に4人は命を落とすという奇病「あかづらほうそう」が蔓延し、瞬く間に男子の人口が女子の4分の1にまで激減してしまう。家光も赤面疱瘡で命を落としたため、再び戦乱の世になることを恐れた家光の乳母・春日局は将軍の死を伏せ、その後、家光の隠し子・千恵が父にかわって女将軍・家光を名乗ったところから、前代未聞、男女逆転のパラレルワールドが展開していく。
徳川将軍を筆頭に、幕府の要職が軒並み女性となり、子種を持つ貴重な男性は宝とされ、江戸城の大奥も、美男子を中心とした女人禁制の場所に。過去にTBSで映画化、ドラマ化されたことがあったが、NHKドラマ10では初めて幕末・大政奉還まで描かれる。

『大奥 Season1』は8代将軍・吉宗(冨永愛)を中心に、時代に翻弄されつつも生き抜いた3人の将軍と、それを支える男たちの姿を見事に描き切り、原作ファンはもちろんのこと、未読の人たちの心もわしづかみに。
そしていよいよ始まった『大奥 Season2』では、吉宗没後約20年と時間が経過し、10代将軍・家治の世へ。原作でも名作と名高い、赤面疱瘡撲滅のためにさまざまな人が奮闘する「医療編」からスタートとなります。

ここで、「男女逆転の江戸時代ってどういうこと?」「Season1は観ていなかった」という人に声を大にして言いたいのは、『大奥 Season2』からでも楽しめます!! ということ。むしろ、「大奥」ワールド没入の好機といえます。

「赤面疱瘡という奇病のせいで男性が激減し、男女の社会的な地位や立場が逆転している世界」
「基本的な流れは史実に基づいている」
「Season2では、赤面疱瘡撲滅のために人々が動き出したところ」

ということさえ頭に入れておけばOKです。

『大奥 Season1』の終わりでは、8代将軍・吉宗が国を滅ぼしかねない赤面疱瘡の撲滅に向け、行動を開始しました(これはドラマオリジナルの展開)。『大奥 Season2』は、吉宗の遺志を継いだ小姓の女性がのちの田沼意次(松下奈緒)となり、再び赤面疱瘡に挑もうとするところから始まります。田沼の内命で動いているのは、本草学者の平賀源内(鈴木杏)。蘭語や蘭学に精通し、大奥で赤面疱瘡の解明に取り組める人材を探すべく、長崎・出島を訪れました。

白羽の矢が立ったのは、オランダつうで蘭方医の吉雄耕牛の元で学ぶ吾作(村雨辰剛)。もともとは下男(下働き)でしたが、勉学熱心なことから吉雄に引き立てられていたのです。はじめは拒んでいた吾作ですが、思うところあって大奥入りを決意。吾作は名を青沼と改め、黒木(玉置玲央)の補佐のもと蘭学の講義を始めていく、という展開です。

その青い眼から、大奥で与えられた名は「青沼」。彼は原作でも屈指の人気キャラで、村雨辰剛さんが演じると発表された時から、「神キャスティング!」と話題になっていました。村雨さんといえば、スウェーデン出身で、本職は日本の庭師。『みんなで筋肉体操』でもおなじみですよね。連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』では、米軍将校・ロバートを好演し人気を博しました。

青沼はオランダ人と長崎遊女の間に生まれ、金髪碧眼の外見から“あいのこ”と蔑まれてきました。生まれ育ちは長崎なので、ふだんの会話はもちろん長崎弁。大奥入りして青沼を名乗ると同時に、金髪で髷を結い、青の裃に身を包み、江戸ことばで蘭学の講義をはじめていくのですが、村雨さんは、この難役を見事に演じていました。長崎ことばは小気味よくて、大奥入りしてからは好奇の目にさらされつつも、きっと自分も誰かに「ありがとう」と言われる時が来るはずと信じて、自分にできることを全うしようとします。まさに、原作の青沼がここにいる!!

青沼が、風熱(インフルエンザ)に罹ったした(雑用係)を看病する場面で、大柄で日本人とかけ離れた容貌ゆえに “鬼”呼ばわりされます。このセリフはドラマオリジナルなのですが、当時の人々が外国人(青沼は日本で生まれ育っていますが)を“鬼”呼ばわりして恐れていたことを端的に表しています。

原作は単行本全19巻(79話)もあり、これを2シーズンで大政奉還まで描き切るにはさまざまな工夫が必要。泣く泣くカットせざるを得なかったエピソードなど(個人的には原作7巻の大奥総取締の江島と、歌舞伎役者の生島新五郎の悲劇「江島生島事件」を映像で観たかった……)、マンガという二次元から実写化するにあたってアレンジしなくてはならないところもあるはずです。

しかし、このドラマのすごいところは、そのアレンジ力が半端ないということ。原作既読勢は「そうきたか!」とうなりつつ、原作との違いを楽しむことができ、未読勢は、原作を知らなくても「大奥」ワールドにすんなりと入ることができるという、鮮やかなストーリー展開に誰もが一発で魅了されてしまうのです。

また、青沼役の村雨さんはもちろんのこと、しゃべりまくりでウザがられながらも、周囲から一目置かれている平賀源内役の鈴木杏さん、ある過去の出来事から蘭方医を毛嫌いしていたものの、青沼の世話係となったことで少しずつ変わっていく黒木役の玉置玲央さん、登場は一瞬ながらも、どうも只者ではないと感じさせる一橋治済役の仲間由紀恵さんなど、 『大奥 Season1』同様に、全員がハマり役! きっと『大奥』には、“ノゴーン・ベキ(緑の魔術師)”ならぬ、“キャスティングの魔術師”が宿っている!

骨太な原作、実力派揃いの出演陣、NHKの力を惜しみなくつぎ込んだ衣装や美術、巧みな脚本と、全てが揃った『大奥Season2』。第11話を見逃してしまった人は、一刻も早く「NHKプラス」などでチェックして、10月10日放送の第12話に臨もう!

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。

「大奥 Season2」第11話は、NHKプラスで10月10日(火)午後10:44まで配信中