初めて生のオーケストラを聴いたのは、小学校6年生の時。曲は、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』でした。今でもその時のことははっきりと覚えています。最初の『小序曲』でバイオリンが愛らしいメロディーを奏で始めた瞬間、私は「わぁー」と感動してしまいました。何に感動したかといえば、生音が直接自分に届いてくることに感動したのです。目の前に並んだバイオリン奏者たちが弓で弦を擦ると音が鳴り、その音が音楽となって直接自分の耳に飛び込んでくる。そんな感覚を私はその時初めて体験したのです。

その後間もなく、旧ソ連のレニングラードフィルを聴いて、今度は衝撃を受けました。大地がとどろくかのような圧倒的な迫力。ホルンがほうこうしトランペットは叫びバイオリンがすすり泣く。ダイナミックで変幻自在な表現に「オーケストラってこんなにすごい音を出せるんだ……」と、少年の私はただただ驚嘆するばかりでした。

オーケストラの魅力は、弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器が織り成す多彩な音色と表現、消え入るような弱音から壮大な強音までの幅広いダイナミックレンジ、そして、多くの楽器の集合体でありながら一つの生命体であるかのような完成度の高さにあると思います。

それは録音でも十分楽しむことはできるのですが (私自身もそうして楽しんでいます)、やはり生演奏はいいですね。それは生音の魅力にとどまらず、その音に込める演奏者のエネルギーが直接伝わってくるからだと私は思います。時に百人もの演奏者が放つエネルギーたるや、それはすごいものです。聴いているこちらの心も震え、それが演奏する側にも伝わってすばらしい演奏が生まれます。

12月、日本のオーケストラの雄・NHK交響楽団 (N響) が2000回目の定期公演を迎えます。曲目はマーラー『一千人の交響曲』。生演奏の迫力を存分に味わえる大曲です。これを前に11月の「深夜便」2時台「ロマンチックコンサート」では、N響の名演集をお届けする予定です。どうぞお楽しみに。

(まつい・はるのぶ 第1・3月曜担当)

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