史上初のベスト8入りという快挙を成し遂げた興奮の2019年、日本で開催された「ラグビーワールドカップ」から4年。舞台をフランスに移し、再び、桜のジャージに身を包んだ選手たちの戦いが始まろうとしています。大会の見どころを、元日本代表でNHKラグビーワールドカップナビゲーターの五郎丸歩さんに聞きました(9月7日の会見より)。


大会の行方を占う初戦、因縁の対決を見逃すな!

今回が10回目となる「ラグビーワールドカップ」。実は過去9回のうち、なんと8回は南半球にある国が優勝している(ニュージーランド3回、南アフリカ3回、オーストラリア2回)。北半球国の優勝は、2003年大会のイングランドのみ。はたして今年、20年ぶりに北半球に優勝をもたらすことができるのか⁉

特に力が入っているのは、自国開催での優勝を狙うフランスだ。来年開催のパリ五輪の前哨戦ともなる本大会に照準を合わせて、しっかりとチームを作り上げてきた。

もともとフランスは、欧州を代表する人気リーグ「TOP14」を擁するラグビー大国でもある。そのチームのひとつ「RCトゥーロン」でプレーしたこともある五郎丸さん、まさに待ちきれないという様子でこう切り出した。

「いよいよ始まりますね! まず、開幕戦である『フランスVSニュージーランド』が楽しみで仕方ないです。ものすごく見ごたえのある対戦カード、興奮を抑えきれません。
フランスは優勝経験こそありませんが、実は何度も、ワールドカップでニュージーランドを破り、その優勝を阻んできました。つまり、しょっぱなから因縁の対決というわけです。
僕は子どもの頃、その試合をテレビで見ていて、あのラグビー最強国、ニュージーランドでも負けることがあるのか!と驚いた記憶があります」

フランスにとっても、ニュージーランドにとっても重要な一戦。大会の行方を左右するといって過言ではない初戦を、NHKでは、大会のオープニングセレモニーから生放送する。

▼開幕戦「フランス×ニュージーランド」
9月9日(土)総合 午前2:35~6:15 ※試合開始は4:15
NHKプラスでも同時・見逃し配信

※五郎丸さんは、元日本代表の田村優選手とともに副音声の「超ラグトーク」で登場!


ずばり、本大会の優勝候補は? 鍵は「レッドカード」!

そんな五郎丸さんに、本大会の優勝候補とそのポイントを聞いてみると……。

「これは日本って言わないといけないですよね?(笑)でも、うーん、南アフリカでしょうね。いま、とても充実しているチームです。レッドカードが全然出ないこともポイントが高い。日本が目指している早いブレイクダウン(タックル後の動き出し)、(タックルなど)低い(位置での)プレーも素晴らしい。大きな体の選手たちにそれをやられたら、こちらはなかなか太刀打ちできないですよ。かなり、できあがっていると思います」

ラグビーにおいてレッドカードは即刻退場、そのうえ、以後数試合の出場が停止となる(「イエローカード」の場合は、10分間の退場シンビン)。
実は最近、ルール改正により、ラグビーの試合ではレッドカードが頻発している。日本代表も直近の国内5連戦で2枚のレッドカードを出されたほか、イングランドはこの影響で主将を欠いた状態で、日本戦含む予選2試合にのぞまなければいけないという事態になっている。

「いかにレッドカードを出さないかが、本大会のキーワードになるかもしれません。もし初戦でレッドカードをもらってしまうと、そのあと予選3試合に出られなくなってしまう。これは大変な痛手です。実際、今回の日本代表も、そのリスク管理として複数のポジションをつとめられる選手が選ばれています。
そういう意味でも、日本はまだまだ選手層が厚いとは言えないですね。やはり50人は世界で戦える選手がそろわないと、優勝は見えてこない。その点、南アフリカは今回の出場国の中で平均年齢が最も高い。それは経験豊富な選手がそろっているということ。本大会がピークとなるチームの1つであることは間違いないでしょう」

ちなみに、レッドカードが出される主な理由は、頭部などへの危険なタックルだ。わざとではなく、当ってしまったというだけでも出されることがあるので、注意が必要だという。だからといって臆してはいけない。いかに規律を守ってプレーできるか。これが勝利の鍵を握るのだ。


おすすめ関連番組「100カメ」 史上最高にキツイ(?)合宿に密着! 

NHKでは、大会にあわせて多くの関連番組も放送される。その中で特におすすめなのが、日本の初戦となる「日本×チリ」の前夜9月9日(土)に放送されるドキュメンタリー。
その名も「100カメ」。小型カメラをあちこちに配置し、対象となる人々をあらゆる角度で撮影、その生態をあぶりだすという人気番組だ。
今回は、今年6月、浦安で3週間にわたって行われたラグビー日本代表の強化合宿に密着したという。しかも、使ったカメラは史上最多の160台! 知られざる合宿の内容、また選手たちの素顔が明らかに!
番組を視聴した五郎丸さんの感想は……。

「僕は、ラグビーは科学と非科学がうまく融合したスポーツだと思っているんですが、それがよくあらわされていましたね(笑)。ラグビーの合宿のはずなのに、なぜかレスリングをやっているところなんて、まさに非科学的。一方で、GPSやドローンを使った科学に裏打ちされた分析もどんどん取り入れている」

そう、実は今回、これまでメディア非公開だった「レスリング」を取り入れた練習風景がカメラに収められているのだ。選手たちが最も嫌がるそのメニューとは? ぜひチェックしてほしい。

番組プロデューサーと担当ディレクターからのコメントも紹介しよう。

「この番組の特徴は、インタビューなし、干渉もなしというところ。だからこそ、自然な会話や人間関係が伝わってくると好評をいただいています。今回も、多様なルーツを持ち、世代も異なる選手たち46人、さらにコーチやスタッフたちの、素の姿をお届けします。
個人的に印象的だったのは、食事会でのコミュニケーションの取り方。ムードメーカーがいたり、リスペクトありきの笑いが起こったり。それが、どう、試合でのパフォーマンスにつながっていくのか、楽しみです」(渡辺隆文プロデューサー)

「撮影時間は、計2300時間。それを33分間にまとめました。凝縮された“熱”をぜひご堪能いただきたいです。トレーニングの厳しさもさることながら、選手ひとりひとりの人としての魅力が伝わってくると思います。
私が注目しているのは、ベテランの流大選手とポジション争いをしているスクラムハーフの齋藤直人選手。番組では、二人の関係や気持ちのありようをお伝えしました」(髙田理恵子ディレクター)

ほかにも、知られざるコーチたちの姿やメディカルチームの活躍など、見どころは盛りだくさん。日本代表史上、最高にキツイと言われている合宿を、ぜひのぞき見してみよう。

「史上最高にキツイ……って、僕が代表だった2015年の合宿でも言われていたんです。それから4年後の2019年のときも。そして今回も……。番組を見たかぎり、確かに相変わらずキツそうですが、これは、一体どこまでキツくなっていくんでしょうね(苦笑)」

▼ラグビー関連番組「100カメ ラグビー日本代表 ついにワールドカップ開幕!チームの強化合宿に密着」
9月9日(土)総合 午後8:15~8:50
予告動画はこちらから!↓
https://www.nhk.jp/p/100cam/ts/QP8MPNM1GL/episode/te/R5GRZYGQQ9/


日本の初戦相手国は、W杯初出場のチリ! 1次リーグの勝敗予想も。

さて、日本の初戦の相手国・チリは、現在、世界ランク22位で本大会出場国の中で最も順位が低く、14位の日本にとっては格下のチームだ。しかし、当然、楽勝必至とあぐらをかくわけにはいかない。思い出されるのは4年前、2019年大会だ。同じく格下だったロシアと戦い、からくも勝利はしたものの不甲斐ない試合運びとなって、初戦からファンたちを不安に陥れる結果となった。

「今回も似たような試合展開になることは十分予想されます。というのも、チリは、本大会がワールドカップ初出場という勢いがある。その初勝利をなんとしてもここで上げたいと、初戦の日本をターゲットにしているわけです。一方、チリ戦のあとこそ肝心と思って、ものすごいプレッシャーでもって初戦にのぞむ日本。これがどんな結果を引き起こすか、全くわかりません。決して、簡単に勝てる相手ではないでしょう」

さらに五郎丸さんに、1次リーグ(プールD)での勝敗予想、さらにその先についても聞いてみた。もしも日本が1次リーグを好成績で突破した場合、かつて日本代表のヘッドコーチを務めていた、あのエディー・ジョーンズさん率いるオーストラリアが次の相手となる可能性が高いのだ。

「3勝1敗でしょうか。チリ、イングランド、サモアには勝ちたいですね。ポイントはイングランド戦でしょう。チリ戦でいい試合をして、観客を日本の味方につけたいところです。フランスは、歴史的にイングランドをライバル視している人たちも多いので(笑)、現地の皆さんの声援が、選手たちの力になってくれるに違いありません。
対アルゼンチンが厳しいと思うのは、もちろん強いチームだからということと、3戦をこなしたあとの疲労がどの程度か。それを考えると、ということですね。そして、オーストラリアは、ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ​さんは、日本のことをよく知り尽くしていますからね……。どんな戦術で互いに戦うのか、これは見ものです。もし実現したら非常に楽しみです」

▼1次リーグ(プールD)「日本×チリ」
9月10日(日)総合 午後7:30~10:30 NHKプラスでも同時・見逃し配信

※副音声の「超ラグトーク」には、五郎丸さんのほか、元日本代表の田村優選手、福岡堅樹さん、そしてラグビーファンとして岡田准一さんが参戦!

五郎丸さんから、視聴者の皆さんにこんなメッセージが。

「ラグビーは、多様性のスポーツです。人種も体形もさまざまな選手が、それぞれの役割をしっかり果たすことで、初めて成果が出せる。それは社会の縮図でもあるわけです。ラグビーファンはもちろんですが、4年ぶりにラグビーを観るという皆さんには、そういうところに注目して、見ていただけたらと思っています。
副音声も……岡田准一さんからはけっこうマニアックな質問がきそうだなと思って、今、いろいろ準備しています。ライトな視聴者の方にも、コアなファンの皆さんにも楽しんでいただけるような放送にできたら。どうぞお楽しみに」