ウォルター・ティンデル《ユダの木と清水寺》

 明治時代の日本を描いた多くの水彩画が、海を渡ったことをご存じですか。
来日した外国人たちがエキゾチックな日本を旅して写し取った風景、また日本画家たちが西洋の技法で描いた美しい自然や当時の風俗……カラー写真がなかった時代の日本が鮮やかによみがえります。海外に散逸していたこれらの絵を、一人のコレクターが40年以上をかけて収集、東京と大阪で行われるその展覧会の見どころをご紹介します。

笠木治郎吉《提灯屋の店先》

明治期の日本は西洋諸国からさまざまな文物や人々を迎え入れ、一大変革を経験しました。それは美術の世界においても例外ではなく、日本を訪れた外国人画家たちは西洋とは異なる日本の文化や自然に興味を抱き、日本人画家たちにも影響を与えていきます。

まずは、外国人画家が日本から何を見出したのか、ご紹介しましょう。


花の国 日本

多くの来日した外国人画家たちを驚かせたのは、日本が花に満ちており、花が人々の生活に身近であったことです。当時の日本を訪れた英国のエラ・デュ・ケイン、フロレンス・デュ・ケイン姉妹は、花と日本人の関係に注目し、『日本の花と庭園』を1908(明治41)年に刊行しています。この姉妹は、日本人が敷物を敷いて花の下で弁当を楽しむ様子を記し、「日本ほど人々が自然と調和し、花や木々のある背景と調和して交わりあう国が(他に)あるだろうか」と述べています。

エラ・デュ・ケイン《庭園の喫茶》

 

磯部忠一《堀切菖蒲園》

自然と建築が織りなす調和

日本独特の建築と、それを取り巻く自然との調和の美しさも、外国人画家たちを驚かせました。1889(明治22)年に来日した英国人画家アルフレッド・イーストは、日光の社寺を次のように記しています。
「暗い杉木立の間から赤や金に輝くこれらの社寺に近づいて行くと、言い尽くせないほど絵画的な効果がある。(抜粋)」
また、同じ英国の水彩画化のウォルター・ティンデルは、「日光で最初に思い出すのは、巨大な杉の深い影に包まれた、宝石のような神社の建物だ。(抜粋)」と述べています。

小杉未醒《日光東照宮陽明門》

子どもたちの賢さと愛らしさ

日本の風俗も、外国人旅行者たちを驚かせました。特に子どもが、年少の弟や妹の子守をする姿は、外国人の目には賢く愛らしいと映ったようです。たとえば英国から来た画家ウォルター・ティンデルは、子守をしながら遊びにも精を出している元気な子どもたちの様子を、「人口の半分は赤子を背負っていた。(幼い)少女たちの中には、代わりとなる人形を背中にくくり付け、将来のために練習をしているものもいた。(抜粋)」と伝えています。
また、英国の探検家イザベラ・バードは、日本の子どもたちが遊びを通して自立への道を学んでいる様子を観察し、感嘆していました。

満谷国四郎《傘をさす子守の少女》

日本人画家たちが再発見した日本

明治期の日本人画家たちも西洋人から学んだ新しい技法で、自分たちの国を描いています。日本人画家たちは、西洋の現実的描写に独特な詩情表現を加え、新たな絵画を創出していきました。

吉田博《仙桃山の門》 
渡辺豊州《湖畔の桜》

これらの作品の多くは外国人に求められて海外に渡り、長年、さまざまな場所で眠っていたため、人々に知られることは、ほとんどありませんでした。こうした作品を、コレクターの高野光正氏は半生をかけてひとつずつ探し出し、海外から日本に帰郷させました。

この貴重なコレクションを紹介する展覧会「高野光正コレクション 発見された日本の風景」は、日本橋髙島屋(8/17~9/3)と大阪髙島屋(9/6~9/25)で開催されます。近代美術の萌芽を迎えた明治期に、確かに存在した豊潤な絵画の世界。“外国人が発見した日本の魅力”と“日本人が再発見した美しい日本”をご覧ください。

参考文献:「発見された日本の風景 美しかりし明治への旅」展図録(毎日新聞社、2021年)

(取材・文 NHK財団 齋藤健治)


高野光正コレクション 発見された日本の風景 (制作協力:NHK財団)

[会期/会場]
■2023年8月17日(木)~9月3日(日)
日本橋髙島屋S.C.本館8階ホール
■2023年9月6日(水)~9月25日(月)
大阪髙島屋7階グランドホール