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この冬はとにかく寒かった。これまであまり感じたことがなかったのだが、夜の冷え込みに驚いた。寝ていて頭の先が妙にスースーする。風らしきものが吹いてくる。マンションの掃き出しガラス戸は割と重く防音はしっかりしているが、サッシといえども隙間があるようだ。あまり意識したことはなかった。我慢できないというほどでもないが老体(?)にはちょいと不安。我が家の暖房は居間の床暖房のみ。しかしこれまで不自由を感じたことはなかった。
たまたま見た朝の情報番組でいいことを聞いた。サッシのガラス戸とカーテンとの間に段ボールを置くと外からの冷気が和らぐというではないか。早速段ボール探しだ。あったあった。正月前にあちこちから送られてきた品の入った大小の箱。秋田のあんころ餅に黒豆、新潟からの西洋梨、福島からのお米に鏡餅に白菜、大根の漬物、りんご、それに広島からは搾りたての新酒。いただき物の数々。うれしいかぎり。中身だけでも大満足なのに入れ物までが強い味方になろうとは。
早速、ていねいに段ボールの箱留めホッチキスの針を取り、広げていく。解剖すればかなり大きく感じる。今度はサッシのガラス戸とカーテンとの間にLの字にして並べてみる。おう、これはなかなかいける。置く前に感じていた冷気が、こっちにやって来ないではないか。秋田・新潟・福島・広島連合の段ボールのチームワークの良いこと、良いこと。その日から枕元に欠かせないものになった。よく「頭寒足熱」とは言うが、そのことばは忘れよう。
この冬は段ボールならぬ「暖ボール」で心地よく乗り切れた気がする。こう言うと一体どんな生活をしているのかと思われるかもしれないが、暖かいものは暖かい。私には全国各地の段ボール軍団がついている。
さあ、どんな春がやって来るのか。
冬がもう少し長引けば、高知からの土佐文旦二箱の段ボールが、援軍で控えていたのだが……。
(やまもと・てつや 第5水・木・金曜担当)
※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年4月号に掲載されたものです。
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