今回のテーマは「親の憂鬱ゆううつ」。子育ての中で起きた騒音トラブルやイヤイヤ期の悩みなど、リスナーから寄せられたおたよりに、ゲストの2人がご自身の体験や思いをお話ししました。

子育ての不安を取り除くための支えを  

おたより 
東京都・30代女性

1人目を出産し、仕事復帰から1年。育児と仕事のリズムも自分なりの方法で整えてきました。そんな今、モヤモヤ思い悩んでいるのが2人目問題です。兄弟、姉妹がいないのはかわいそうという声もありますし、自分も高齢のため、次を産むなら早めにという焦りもあります。一方で、2人目に踏み切れない理由は、まずは仕事。妊娠にはタイミングを考えないといけないと感じています。次に経済的な理由。そして体力的な問題。すっきり2人目を産みませんと決断できればいいのですが、そうもできずモヤモヤした時間だけが過ぎていきます。人と会うことが制限され、じっくり話せない中で皆さんがどう考えているのか聞いてみたいと思いました。

  エリカさんは、このおたよりを読んでどのように感じましたか?

小林 悩みますよね。そもそも私自身も1人目を産むか、産まないかで悩んだし、決めたところでうまくいくとも限らないし。なんで私ばかりいろいろな選択を迫られなければいけないのと、プレッシャーを感じていたことを思い出しました。今も子育てをする中で、いろいろな選択肢があるものを選ばなければいけません。例えば、小学校の学区をどうするか、習い事をどうするか、食べ物は何を与えるとか。私自身はすごく優柔不断なので決められなくて。毎日泥沼のような中にいるのですが、豆先生どうしたらいいでしょうか?

大豆生田 おたよりをくれた方もエリカさんもそうですが、結局子育てに対する不安が大きすぎるんですよね。2人目になったらこんな大変なことがある、その先どうしようということも含めて、そういう不安が多すぎることがこれだけの悩みをもたらしてしまっている。これは、少子化の研究でもわかっていることなんです。本当は周囲の支えがあって、みんながその悩みはたいしたことないんだと思えれば、不安も取れると思うんですけど。やはり今は子育て支援が十分でなかったりするので、まずはそこからだと思います。

  エリカさんは、仕事と子育てを両立することにご苦労されていますか?

小林 子どもを産んだ後の3か月は、全く仕事もできないし、家事育児もできないし、母乳も出ないみたいな中で、自分は何も役に立たないというすごくネガティブな気持ちになっちゃったんです。そのときに、今までの自分は、仕事をするとか、お金を稼ぐとか、人の役に立つとか、そういうことでしか価値を見いだせていなかったなということに気づいて。でも、人ってただ生きて、そこにいるだけで十分価値があってすばらしいのに、そうじゃないことに気を取られていたんですよね。そのことに気づいてからはすごく気持ちも楽になり、その後の生き方や作品の作り方も変わったように思います。

イヤイヤ期の子どもと向き合うには  

おたより 
神奈川県・30代女性

我が家は賃貸の集合住宅なのですが、騒音のクレームを入れられてしまいました。3歳になる息子はイヤイヤ期に拍車がかかり、気に入らないことがあるとドンドンとじだんだを踏み、暴れまわります。クレームが来ると思うから追い詰められてどなってしまう。そうすると今度はどなり声がうるさいとクレームが来ました。もうどうしたらいいかわかりません。息子の足を押さえてイヤイヤが収まるのを待ちながら、このまま足をけがしたら、私は虐待の親になっちゃうと考えたらつらくて、死んでしまいたいとすら思います。やれることはやって限界です。このメールを書きながら涙が止まりません。

  エリカさんが友人だったら、どのような言葉をかけますか?

小林 自分のことじゃなくて、子どもの足音で言われたり、それを押さえようとしてやったことで、また言われたり、本当につらいと思います。正直、なんでそんなことでクレームが来るんだろうという気持ちがわいてしまいますが、もしかしたら下の方もテレワークなどでせっぱ詰まっているのかもしれない。

大豆生田 ほんとにこれは難しい問題で。私も子どもが小さいときに住んでいた集合住宅で、同じような騒音問題があったんです。また、保育園や幼稚園でも周辺からの苦情って多いんですよ。とにかく、周りの人たちのストレスがすごく高くなっている。これが通じる場合と通じない場合もありますが、保育園の苦情問題もそうですけど、子どもが近所の人に挨拶をし始めたら、ガラリと見方が変わるんですよね。集合住宅の中でうまくやれるかはなかなか難しいですけれども、顔見知りになると「子ども、かわいいじゃん」と周りの見方が変わる。これも一つの解決策かなと思いますね。

小林 「死にたい」と書いていらしたのがすごく心配ですね。特に、子どもと2人きりでどんどん煮詰まってしまうと、何も解決できないんじゃないか、逃げ道もないんじゃないか、死ぬしかないというくらいまで追い詰められてしまうことってあると思っていて。でも、こうしておたよりをくださるとか、誰でもいいから相談できるだけでもだいぶ違うと思うんです。何か少しでも話せる人がいるとか、おたよりをくださるというのはありがたいなと思います。

大豆生田 このお子さん3歳ですよね。いちばんイヤイヤが激しい盛りです。実際、3歳から4歳にかけては発達の部分ですごく違いがあって。4歳になると相手の気持ちを察したり、人の立場に立ったりできるようになる年なんですね。だから、今はドンドンするのをやめてほしいということを丁寧に伝えていれば、だんだんそれがわかってくる年でもあるので、今を乗り越えたら大丈夫というふうに思っていただければと思います。

子どもの自己決定を大事にする  

おたより
鹿児島県・60代女性

子育ては楽しかったなと思うのですが、子どもたちが大人になり、「どうしてお母さんはあんなにさまざまなことを習わせたの」と言われます。親子体操、スイミング、お習字、ピアノなど、子どもたちが何に関心を持つかわからないので、体験させて後悔しないように、いつかは役に立つからとの思いで、励まし、付き添い頑張ってきたのですが、苦痛だったと言われ、申し訳ないことをしたと反省しています。

小林 私も今、子どもにどれを習わせたらいいんだろうと悩んでいる真っ最中でして。でも、本当に正解がなくて。このおたよりの方は、もしかしたらたくさん習わせたことで、何かいいことがあったかもしれないし、子どもたちから苦痛だったと言われたとしても、また20年後にはお子さんから、「やっぱり、あのとき習わせてくれた何かが実はよかったよ」と言われることもあるだろうし。それって、最後まで結論が出ないことなのかなと

大豆生田 そのときはみんな一生懸命なんですよね。だから、小さくても子どもの自己決定というのも大事だと思うんです。3歳くらいになると、親の気持ちに沿おうとする。親の期待が強いと、その気持ちに一生懸命合わせようとするので、そうすると結果的にやりたくなかったということも。親からすれば、「あなた自分でやるって言ったじゃない」と言うけど、子どもからすると親の意向に合わせたということがよくあるんです。やはり僕らは、子どもが自分で決めたかという部分を問うことがとても大切かなと。小さい子だから決められないのではなく、あの子たちも「これが楽しい」とか、「ちょっとつらい」とかちゃんと言えるので、そこを大事に聴いてあげるほうがいいと思いましたね。

  今、エリカさんにとって子育てのいちばんの悩みは?

小林 今は選択の悩みですかね。進路や習い事にしても、私が今決めることで、この子が何かを得たり得なかったりするんじゃないかという。もちろんそんなことはただの一因にすぎないとわかっているんですけど、そのプレッシャーに日々悩んで、泥沼にはまっています。

大豆生田 乳幼児の教育の中でもかなり小さいうちから、「あなたはどうしたい」という自己決定を大事にしようというのが今の考え方です。だから、そのときにこちらが選択肢を出すことは、大事なことだと思います。すぐに決められなくても、本人としてどうしたいのかという自己決定をする練習の時期でもあるのかなと感じています。

小林 豆先生の言葉がすごく胸に響きました。まず子どもを、親としてコントロールしたくなってしまうのが悪いとわかっているのに、どうしてもやめられないという自己嫌悪もあって。やっぱり逐一子どもの声を聴いていくという姿勢を忘れないようにしようと思いました。

(NHKウイークリーステラ 2021年8月27日号より)