100歳時代を元気に生きる! 基本にプラス!心身健康入浴法の画像
イラスト/福井若恵
東京都市大学教授で温泉療法専門医のはやさかしんさんは、地域医療の経験から入浴の重要性に気付き、医学的に研究されています。早坂さんに、疲労回復などに、より効果のある日常での入浴法を教えていただきました。
聞き手/関根香里
早坂信哉さん

入浴には多くの健康効果が

――入浴の習慣にはいろいろな効果が期待できるそうですね。

早坂 はい。さまざまな調査で湯船に入ることは健康効果が高いと明らかになってきました。毎日湯船につかる人はそうでない人に比べ、よく眠れるとか幸福感を感じる人が多いという研究結果があります。心疾患や脳卒中などへのかん率を下げるという調査結果も出ています。

また私たちの研究で、毎日湯船につかることは要介護になるリスクを29パーセントほど低減できることが分かりました。

――具体的にどのような入浴法がいいのでしょうか。

早坂 入浴の好みは人それぞれですが、医学的に正しい方法は「40度のお湯に10分間、肩までの全身浴」です。10分間肩までしっかりつかれば体温が上がります。出たり入ったりしてトータルで10分つかるやり方でも大丈夫です。

肩までつかるのは息苦しいと感じる方は、無理せずに半身浴をしましょう。また40度では熱すぎるという方は38度くらいを20〜30分にします。

入浴ができないときでもシャワーで済ませず、手浴や足浴をやってみてください。手や足を42〜43度のお湯を張った洗面器に10〜15分つけるだけでも体全体が温まります。


ヒートショックと脱水に注意

――安全に入浴するためのポイントなどはありますか。

早坂 まずはヒートショックに気を付けることです。血圧が高い方、特に上が160以上、下が100以上の場合、また体温が37.5度以上の場合は十分注意してください。寒い季節は脱衣所を暖めることが重要です。居室と脱衣所の温度差は5度以内が望ましいです。湯船に入る前に掛け湯をして、体をお湯に慣らすことも大事ですね。

また脱水を防ぐための水分補給も大切です。入浴では約800ミリリットルの水分が体から失われるといわれています。できれば入浴前にコップ2杯、入浴後に1、2杯、しっかり水分をとりましょう。水よりミネラル入りの麦茶や牛乳、イオン飲料の方が体内への吸収がいいです。


お風呂は究極の健康器具

――入浴には疲労や不調を回復する効果もあるそうですね。

早坂 湯船につかると疲労の回復が早いことが分かっています。温まることや水圧によって血流がよくなり、体内の疲労物質を回収しやすく、また栄養分や酸素が行き渡りやすくなります。

ストレスによる疲れにも効果があります。自律神経にはアクセル役の交感神経とブレーキ役の副交感神経の二つがあります。交感神経が優位になりすぎるとストレスがたまり、イライラなどの不調が出てきます。入浴で体を温めるとリラックスモードの副交感神経が高まるのです。

――入浴でスイッチが切り替わるということでしょうか。

早坂 そうです。これには温度が重要で40〜41度程度までで副交感神経のスイッチが入ります。42度以上になると交感神経のスイッチが入り興奮状態になります。すると夜、寝つきにくくなったりします。

40度よりぬるめのお湯がいい方は、炭酸入りの入浴剤の活用をおすすめします。炭酸がお湯に溶け込み、その効用でぬるいお湯でも血流がよくなります。さらに疲労やストレスの回復効果がある方法として温冷交代浴や入浴中にめいそうする「マインドフロネス」もおすすめです。

――マインドフルネスではなく〝フロネス〞ですか。

早坂 そういう言葉を作ったのですが、要はお風呂で瞑想をしてリラックスしようということですね。さらに、湯船の中でのストレッチも疲労回復におすすめです。

――毎日の入浴で健康的になれるのはうれしいことですね。

早坂 そうですね。お風呂はあまりにも身近すぎて意識されにくいものですが、自宅にある、ある意味究極の健康器具といえると私は思います。最近はシャワーで済ませる人も増えていますが、ぜひお風呂を積極的に活用してほしいですね。


基本にプラスの入浴法

温冷交代浴…血管の拡張と収縮を促し、血流をよくして疲労を回復します。

40度の湯に3分入ったあと、冷たいシャワーを1分浴びる。3回繰り返し、最後は湯で温まる。慣れないうちは水は手足に少しずつかける程度から。30度くらいのぬるいシャワーでもOK。刺激が強いので、心臓に疾患のある人や高血圧の人は控えましょう。

マインドフロネス…湯船の中で呼吸に集中して雑念を払い、脳を休めます。

湯船につかり、少し薄目を開ける程度に目を閉じる。腹式呼吸で鼻から3秒かけて息を吸い、口から5秒かけて吐き出す。呼吸に集中し、20~30回繰り返す。


湯船の中でストレッチ

血流がよくなり筋肉が緩む湯船の中では、ストレッチの効果がアップします。5分ほど温まってから行いましょう。

肩のストレッチ①
肘を水平に持ち上げ、円を描くように硬くなった肩関節を回す。

肩のストレッチ②
両手で万歳をしながら体を前にぐーっと倒し、肩の後ろを伸ばす。

腰のストレッチ①
ゆっくりと前にかがんだり、腰を伸ばしたりを何回か繰り返す。

腰のストレッチ②
両手で湯船の縁をつかみ、上半身全体でゆっくり右を向き、次に左を向く。腰を回して上半身を動かすイメージ。


ウソ?ホント?入浴にまつわる通説あれこれ

●長風呂はダイエットに効果あり?

答え:ウソ
お風呂だけではダイエット効果はほとんどありません。たくさん汗をかくと運動と同じような効果があると思われがちですが、この汗はお湯に入って体温が上昇したため出たもの。脂肪を燃焼させているわけではありません。

●お風呂で汗をかくとデトックスできる?

答え:ウソ
お風呂で汗とともに、体内の悪いものを出すデトックスができることはありません。汗はほとんどが水。有害物質がそこに混じって出てくることはありません。ただ、血流がよくなるので体に不要なものを尿として排出する働きは活発になります。

●熱い風呂は寝つきを悪くする?

答え:ホント
心身を鎮静させる副交感神経は40~41度までで優位になる。それ以上の温度の湯に入ると興奮作用のある交感神経が優位になるため、目がさえて眠りに入りにくくなる。

●お風呂上りにはやっぱり牛乳?

答え:ホント
たんぱく質が入っていると吸収がよくなる。ただの水よりたんぱく質の多い牛乳の方が水分の吸収がいい。

※この記事は、2021年9月15・22・29日放送「ラジオ深夜便」の「心身を健康にする入浴法」を再構成したものです。
(月刊誌『ラジオ深夜便』2022年1月号より)

▼月刊誌『ラジオ深夜便』の購入・定期購読についてはこちらから▼
https://radio.nhk-sc.or.jp/