「カラーでよみがえる!大河ドラマ第1作『花の生涯』」
2月5日(日)総合/BS4K 午後4:30~5:29
放送後1週間、NHKプラスで見逃し配信予定

【番組HP】https://www.nhk.jp/p/ts/5GJVWV8J3X/


1963(昭和38)年に放送され、のちに大河ドラマとよばれるようになった大型時代劇の記念すべき第1作「花の生涯」。尾上松緑、淡島千景、佐田啓二、香川京子など、当時のスターが一堂に会し、人気を博した作品が、最新のAI技術によって鮮やかな色彩でよみがえる!

「花の生涯」の主人公は、激動の幕末、攘夷論に反対して開国を主張し、桜田門外で果てた大老・井伊直弼。その生涯を謎めいた女性をからませて描いた。今回、第1話とクライマックスの「桜田門外の変」の一部をカラー化した映像を放送。さらに、時代劇ならではのカラー化技術と制作舞台裏を阿部サダヲの語りで解説する。

カラー化を担当したNHK知財センター アーカイブス部の担当者に、映像カラー技術の進化や今回のカラー化の特徴、そして今後の展望を聞いた。


――過去の映像をカラー化する狙いについて、お聞かせください。

戦時中などの過去映像をカラー化することで、その映像が遠い時代の出来事ではなく、今と地続きであることを知ってもらいたいという思いがいちばんにあります。以前、昭和21年、終戦直後の全国野球大会(当時の甲子園)をカラー化して、現在の高校球児に見ていただいたことがありました。白黒映像では、全く別世界の映像と捉えていた高校生が、カラー映像では、身近に感じていただけたんです。“カラー化の力”を強く感じた出来事でした。

「花の生涯」も今回のカラー化で、より多くの方に身近な作品として感じていただきたいと思います。カラーになったことで、新たな気づきもあるのではないでしょうか。

――映像のカラー化技術は、どのように進化してきたのでしょうか。

NHKでの本格的なカラー化の取り組みは、2014年ぐらいから徐々に始まりました。当時は、色調整用のソフトウェアを使っていましたが、すごく時間がかかっていました。その頃の技術では3日かかったものが、今のAI技術だと15分ですみます。

日本でのAIのカラー化は、2016年に早稲田大学が自動カラー化AIを発表してから、脚光を浴びるようになりました。NHKでも、放送技術研究所とアーカイブスでタッグを組み、開発改良を繰り返しています。その中で大きなポイントとなったのは、「色を変えられる」ようになったこと。

すべてAIに任せてしまうと、どうしても間違った色が使われる事がありますが、そこを指示するとAIが修正するようにしました。これによって、画面全体の大まかなカラー化をAIに任せて、人間がAIに指示を出して塗った色を変更したり、細かい部分を手作業で修正をしたり、AIと人間が協力して効率よく作業できるようになりました。

「花の生涯」のカラー化にあわせ、今回「幕末時代劇AI」を作成しました。旧来のAIで、「花の生涯」をカラー化すると、時代劇独特の着物や昔の街並みや石垣を上手く認識できず、赤などの色で判らない部分が塗られることもありました。だから、今回幕末の時代劇素材をたくさんAIに学習させました。具体的には過去の膨大な大河ドラマのなかから「翔ぶが如く」と「篤姫」を大量にAIに学習素材として投入しました。

旧来の AI による全自動カラー化。
「幕末時代劇AI」による全自動カラー化。
「幕末時代劇AI」による全自動カラー化したものを、色修正AIを使って調整。

――「幕末時代劇AI」の具体的な学習方法はどういったものでしょうか。

まず、映像から無作為に静止画をたくさん切り出し、その静止画の色を抜いて白黒映像を作ります。そこから、モノの形と色のパターンとの関係をAIに学習させます。例えば、「上に空間が広がっているから、これは空。だからここは青色だろう」といったように、一定の条件下での色の推定を学ばせていくのです。そして、切り出した静止画の白黒をカラーにする問題を出し、AIが推定する色と、正解の色の差がなくなるまで繰り返し学習させていくのです。

これまでに、NHKの約2万番組、計800万枚のデータを100回AIに取り入れて、学習させています。そこに時代劇のデータを追加して、幕末ならではの色味もカラー化する、幕末特化型AIモデルが完成しました。ちなみに、AIはフィルムについた傷までも学習してしまうので、傷の修復などは手作業で行っています。

――逆にAIが苦手とする分野はありますか。

例えば、さつまいもの色など、何百通りも色のパターンがあるものは、AIは決められないので、こちらが指定しないといけません。着物などの色を判別することも非常に難しいですね。当時の白黒のドラマは、色付きのフィルターをはめてコントラストを調整していたこともあるので、色の濃さなどで、色を推定することが難しいんです。

ですので、今回、40年以上大河ドラマの衣装を担当されていた熊谷晃さんに、衣装の色をチェックしていただきました。大河ドラマの衣装の色の伝統を生かし、細やかな色調整も行ったんです。

熊谷晃さんに映像を見ていただき、よりリアルなカラー修正の作業を行う。
「幕末時代劇AI」による全自動カラー化したもの(上)に、手作業で色を加えたもの(下)。

――今回「花の生涯」のカラー化で工夫された点をお教えください。

とにかく、幕末というのは着物の色が地味といわれる時代。青色などでも派手な青色ではなくて、幕末ならではの渋いねずみ色がかった青色にしました。これは熊谷さんをはじめ衣装部の人たちが考え出した色の伝統ですが、襟の色ひとつとっても、武家は白色、浪人は黒など 役柄の位によって色の違いをつけてきたという大河ドラマの伝統があり、そんなところにもこだわって色を選別しています。武家の女性など位の高い人の着物は、鮮やかな色が多いのですが、幕末時代劇では、一般の人はひたすら地味な色なんです。

ただ、物語全体に地味さを感じてしまわないように、地味なトーンの中でいかにバリエーションを出すか、調整を繰り返しました。また、女性の出演者の唇に色を塗るなど、幕末の雰囲気を生かしつつ、今見ても違和感なく、ストーリーにしっかり入り込めることに気をつけながら制作を行いました。

井伊直弼の側室を演じた香川京子さん。武家なので白地に鮮やかな赤い模様に色を調整した。

――カラー版「花の生涯」の放送前日には、「花の生涯」制作秘話を描いたドラマ「大河ドラマが生まれた日」が放送されますね。

「大河ドラマが生まれた日」では、「花の生涯」制作に取り組んだ、当時のテレビマンたちの熱い物語が繰り広げられます。「花の生涯」のシーンも劇中で登場しますので、このドラマを見ていただくことで、よりカラー化映像も楽しんでいただけます。大河ドラマのはじめの一歩を、さまざまな角度からぜひ楽しんでもらえたらと思います。

カラー化された「花の生涯」の前後には、カラー化の制作舞台裏を描いたドキュメントパートもあります。「大河ドラマが生まれた日」で、プロデューサー役を演じた阿部サダヲさんが、ナレーションをしていますので、こちらもぜひご注目ください。

▼「大河ドラマが生まれた日」生田斗真、阿部サダヲインタビューはこちら
生田斗真×阿部サダヲ 大河ドラマを生んだ制作陣を熱演してわかった「はじめの一歩って本当に大変」 | ステラnet (steranet.jp)

――最後に、映像のカラー化による可能性と、今後の展望についてお聞かせください。

地方には、その地域のお祭りや暮らしを収めたアーカイブ映像がたくさん残っています。それらの映像をカラー化することは、世代を超えて文化、歴史を伝承していくという、大きな意義があると感じています。そういった映像のカラー化をはじめ、さまざまな映像処理技術の研究を進め、新しい映像表現の挑戦をしていきたいと思います。


「花の生涯」を当時見ていた方も、見たことがない方も楽しめる、記念すべきカラー映像をぜひご覧ください!