長男・裕太さん(右)と、共演した舞台のポスターを手に(2021年8月)。
2022年11月28日、俳優・わたなべとおるさんが逝去されました。在りし日の渡辺さんをしのんで、月刊誌『ラジオ深夜便』2022年4月号に掲載され好評いただいた、妻・さかきばらいくさんとのインタビュー記事を2回にわたって紹介します。

1981(昭和56 )年、ドラマ「太陽にほえろ!」(日本テレビ系)に出演しスターとなった渡辺徹さんと、1977年、『私の先生』で歌手デビューした榊原郁恵さんは、2022年で結婚35周年。2021年には、「いい夫婦 パートナー・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれたお二人に、ご夫婦や家族の楽しいお話をうかがいました。(前編はこちらから)
聞き手/後藤繁榮

親子三人、舞台で共演

――昨年9月には、朗読劇『家庭内文通』をご夫婦と、ご長男で俳優の渡辺ゆうさんとの共演で上演されましたね。私も拝見しました。

渡辺 ありがとうございます。サブタイトルが「きっかけはいつも夫婦げん! 家族の愛情物語」で、脚本家の岡田よしかずさんに書き下ろしていただいたんですが、書くにあたって岡田さんにいろいろ聞かれましてね。「わりとけんかの歴史でしたね」って話したら、けんかしてノートを通してしか会話をしてない夫婦という設定で始まったわけです。

――実生活でもそういうことは?

榊原 結婚当初は、けんかというより時間のすれ違いが多かったから、大学ノートでのやりとりはありました。「今日どうでしたか」なんて交換日記みたいに。ノートの最後の方は「冷蔵庫に何々が入っています。夜遅くに食べないように」ぐらいの伝言メモになりましたけど。脚本を読んで何だか当時のことが思い出されましたね。

――郁恵さん、最後に涙ぐんでいたような。

渡辺 本番で、さほど泣くシーンでもないのに涙ぐんでるので驚きましたよ。裕太が「びっくりしたよな、急に泣いて」って。あのときのこと、ちゃんと聞いたことなかったけど、あれは何の涙だったの。

榊原 私も何であそこで感極まっちゃったのか、よく分からない。ただこの舞台は親子三人で何かしたいという思いから始まって、渡辺が企画・プロデュースして、いろいろな方に声をかけて、一日限りの舞台にもかかわらず、皆さん、丁寧にやってくださったんです。お客さんにも大勢来ていただいてね。ここまでたどりついたっていう気持ちが、どこかであったと思うんですね。

――親子共演は初めてでしたか。

榊原 はい。だから裕太の成長も、ふと感じられるんです。ここまでできるようになったんだな、とか。涙腺も弱くなってきてるんでしょうね。涙があふれてきたら、ぱっと裕太と目が合ってしまって、裕太も「えっ」って顔で。

渡辺 二度見してましたからね(笑)。でも伝わるものはあるんですよ。だからこっちも、もらい泣きしちゃいけないと思ってね。


息子の成長を稽古場で垣間見た

――家族共演で発見もあったのでは。

榊原 作品を作っていくときどういう姿勢で稽古したりスタッフと接しているのか、演出家の要求にどうやって対応するのか、お互いに知ることのできた初めての場でした。いろんな刺激をもらえて、すごく楽しかったです。

渡辺 家族だから、空気のようにいて当たり前なんだけど、稽古でたいすると、お互いのやり方がそれぞれあるんです。ちょっと親ばかかもしれませんが、裕太は稽古に入ったらちゃんと敬語で話してけじめをつける。その辺の線引きができるところは、成長したなと思います。むしろそれがなかなかできないのは夫婦ですね。俺は家で稽古場を引きずるのは嫌だから、「家に帰ったら終わり」と言うんだけれど、郁恵は、ずっとそこに入り込んでいるんです。他の芝居をやってるときもそうで、長所でもあるんですけど。

――演じる役のまま帰っていらっしゃるとか。

渡辺 そうなんです。芸者さんの役をやってると、ちょっといつもと違う様相で玄関に入ってきたりします。キッチンで「動き見て」なんて言うこともあってね。このときも稽古から帰って、寝室で横になってると「ねえねえ、あそこだけど、こうじゃない」って始まるんですよ。

榊原 だってこちら一応プロデューサーですから、早めに何でも話し合おうと。

渡辺 あのねプロデューサーでも寝るときは寝るんだよ。電気を消して布団をかぶって寝るの、プロデューサーでも。

榊原 あらー、そうでしたか。


やかんが鳴っても止めない夫

――さて今回のラジオ共演の機会に、お互いにふだん言えないことを伝えていただこうと事前アンケートをしました。

渡辺  「ラジオ深夜便」はあれですか、わが家にもめ事を起こそうとしてるんでしょうか。

――いえ、お二人なら絶対大丈夫でしょう。

渡辺 投げられる物とか、片づけといてくださいよ。

榊原 大丈夫、物は投げませんから。体ごとぶつかりますからね。

――まずは徹さんから郁恵さんに。「いつもバタバタしている。のんびりしてほしい」。

渡辺 休みにだらっと寝てるとか、一日をぼーっと過ごすのを見たことないんです。いつも何か予定を入れてる。何しろストレス解消が片づけものなんですよ。だから仕事が忙しくなるほど、疲れているはずなのに帰ってから納戸の整理やら靴箱の整理やらが始まったり。頼むからじっとしてくれと言いたい。
リビングにはいいソファーもあって、おばあちゃんも息子たちも座って団らんしてるんです。なんであそこに座っていられないのかなと、不思議なんだよね。

榊原 座りたいけど空いてないっていうのもあるんです。主人は根が生えたんじゃないかっていうぐらい、ずーっと座ってますから。例えばキッチンでお湯がピーッて沸騰してて主人の方がガス台に近くても座ったまま。だから私がわーって駆け込んで止めるわけですよ。
「〝わー 〞って言うとびっくりするだろう」って言われるんですけど、自分で止めてはくれない。だからそういうふうにバタバタしちゃうっていうのはあります。

渡辺 だって後藤さん、具体的に想像してみてください。やかんがピーッて鳴って3人ぐらいが同時に駆け込んではどれだけ危険か。担当の方が冷静に行った方がいいわけですよ。

――それは「言い訳」ですね。

榊原 言い訳ですね。でも私今、学習しました。近くの人がガスを止めてくれればいいのにって思っているだけでは止めてくれないんだ。私が遠くから「悪いけど止めて」って言葉で発信しないと伝わらないんだなって。

――長年暮らしていながら今、発見があった。

渡辺 35年一緒にいてもそんなもんです。俺もこれからちゃんとやるように気を付けます。ただね、「わー」がびっくりするんですよ、いつも。犬ですらピクッてするぐらいリアクションが大きい。ひどいときには映画館に行ってね、上映中にシーンとしてる場内で「わー、うそ!」とか言っちゃう。何とかしてもらわないと、公共的にも迷惑がかかります。

榊原 教育的指導が入りました。なるほど、気を付けなきゃいけません。映画館では特に、周りの皆さんの迷惑ですからね。
ただバタバタしちゃうというのはねえ。若いときからスケジュール目いっぱい組まれて仕事してましたから、時間が空くと「何をしたらいいんだろう」と戸惑うんです。ゆっくり時間を過ごすというのが、うーん。

渡辺 榊原郁恵さんはトップアイドルでしたからね。当時はもう、とんでもないスケジュールでしたから。

榊原 あら、ちょっと、どうしました?

渡辺 いや、言いたいこと言いすぎると、後が気まずいのでね。帰ってからのことを考えて、ここらで持ち上げとかないとな、と(笑)。


言い合いが夫婦円満の鍵?

――次は郁恵さんから徹さんへ。「私のどんなところに感謝していますか」。

榊原 この際だから。聞きたいなー。

渡辺 ここはざん室ですか(笑)。まあ振り返るとこれまで、迷惑のかけどおしでした。特に健康のことではいろいろとね。女房は健康管理を考えて食事とか用意してくれるんだけど、俺は羽が生えてあちこちで食べてきては体をこわして心配かけてという。
何より後悔してるのは、昨年、大動脈弁きょうさく症という心臓疾患で手術になったことです。郁恵の父は若くして心筋梗塞で亡くなり、大きなショックを受けたという話を聞いていたにもかかわらず、心配をかけました。気丈に支えてくれましたが、胸の内は大変だったろうと思います。それでも見捨てずに連れ添ってくれることに、いちばんの感謝ですね。

――徹さんの素直な気持ちを聞いて、郁恵さん、まんざらでもないご様子ですね。

榊原 ともに生活を送っていると、日々いろいろとありますし。二人とも完璧な人間じゃないから、お互い腹も立ちますし(笑)。だから改めてこういう言葉を聞くと、明日からまた頑張ろうと思いますね。

――お二人の雰囲気ではそうそうけんかにならないようにもお見受けしますが。

渡辺 いやいや、むしろ言い合いをすることでおなかにためない感じです。俺は思ったことを言っちゃう方なので。

榊原 私は結婚当時は不満があってもなかなか言えないこともありました。そんなころ裕太がすごく熱を出したことがありまして、渡辺が「子どもが熱を出すのは、両親に摩擦が起きていて、その摩擦熱が影響してるらしい」と言うんですよ。
私が気持ちを言えなくて、心がざらざらしてるから裕太が熱を出してるのかしらって真剣に考えて。それが心の声を表に出せるようになったきっかけですね。夫婦言い合いへの第一歩となりました(笑)。

渡辺 今度は俺が知恵熱を出すようになったという(笑)。ただ、言っちゃいけないこともありますからね。俺はついすぐに言っちゃうから反省もあります。後から指摘されて「あの言葉はいけなかったな」と。
けんかのときは心に余裕がなくなるんですよ。でもこれも感謝してることですが、けんかをしても朝起きると郁恵は「おはよう。ごはんよ」ってもう元に戻ってる。それに救われているところはありますね。

――すると郁恵さんが役者としては上、ということでしょうか。

渡辺 あれ、そういうことになっちゃうわけですか。おかしいな。

榊原 さすが後藤さん。

――最後にリスナーの方に、お二人のように元気が出るけつをお願いします。

渡辺 コロナ禍が続いて重苦しいこともありますが、上を向くか下を向くかは自分で決められる。なるべく上を向いて、いいことを想像して一日一日を過ごそうと思っています。

榊原 その日あったことはあんまり引きずらない。お日様が出てるときに悩んでも夜はやめにして、音楽でも聴いてぐっすり寝て、また新たな一日を送るよう心がけています。

渡辺 寝てから「あのさあ」って女房に起こされることもありますけどね(笑)。

インタビューを終えて 後藤繁榮アンカー
渡辺徹さんとご一緒した「ラジオ深夜便~ミッドナイトトーク」のコーナーで、しばしば登場した榊原郁恵さんにまつわる暴露エピソード。徹さんの一方的な発言でしたので、それを今回しっかりと検証しました。どうやらお二人に隠し事はないようです。家族の力がお二人のすばらしい仕事を生み出しているのですね。“おしどり”日本一を「深夜便」でも認定いたします!

※この記事は、2022年1月1・2日放送「ラジオ深夜便」の「家族の絆、輝く」を再構成したものです。

構成/小林麻子(トリア)
(月刊誌『ラジオ深夜便』2022年4月号より)

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