○MC:田村淳
○ゲスト:河合郁人(A.B.C-Z)、森泉、サーヤ(ラランド)

○ナレーター:水瀬いのり

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芸者、ボールドヘアモデル(髪の毛がないモデル)に挑戦して人生を切り開き、頭髪に悩みのある仲間とNPO法人を立ち上げた土屋光子さん。彼女の33歳年上で、日本舞踊家として数多くの舞台に立ち、68年のキャリアを重ねてきた尾上菊紫郎さん。そんな2人の「なれそめ」から見えてくる、人生の楽しみ方とは?

まずは、ふたりの「なれそメモ」をチェック!


▶出会い>>秘密の恋

土屋光子さんは、毛を抜くことがやめられない“抜毛症”に長年悩み、それを隠すために10代のころからウィッグを使い続けてきた。20代の後半から東京の新橋で芸者をするようになった彼女は、踊りの師匠となった尾上菊紫郎さんと出会う。

田村「出会った時のこと、菊紫郎さん覚えていらっしゃいますか?」
菊紫郎「覚えてます。花柳界に入る方っていうのは、見るからに芸者さんっぽい人が不思議と多いんですよね。で、そのとき彼女はちょっと異質というか。『お~』、と思って」
田村「でもそれは、異性として恋心を抱くとか、そういうことではないですよね」
菊紫郎いや、これは男の性と申します
田村「(笑)光子さんはどうだったんですか?」
光子「トップクラスの先生で、もう恐れ多かったんですけど、この通りフラットな方で、いい先生だな、というふうに見ていました」
田村「どのあたりで恋心が?」

菊紫郎「そのころ、僕は違う方と交際をしておりましてですね、その方とだんだん距離ができてきて、ちょっと(心が)病んでいたんです」
光子「連絡が取れなくて傷ついている様子だったんですけれど、私はそのお話を聞いて、『そんなにウジウジしているんだったら、私でどうですか?』って
田村「おお、急展開!」

光子「私のほうからグイグイいったんですね、実は」
菊紫郎「そのときは、ちょっと『えぇ~っ!」と思いました」
田村「それ、ギアどこで入ったんですか?」
光子『先生なのにそういうところで悩むんだなぁ』って、キャップ萌えはあったと思います
河合「ちょっと弱みを見せてくれた、その瞬間にときめいたんですね」

交際をスタートさせた2人だが、その恋愛関係は周囲には秘密。師匠と弟子、ゆえに光子さんは「社内恋愛みたいなものだから、皆さんがザワつくと思うので」と、気を遣ったという。同時に、抜毛症のためにウィッグを使用していることも秘密にしていた。

田村「僕は、抜毛症という症状を知らなかったんですけれど」
光子「自分で自分の毛を、髪の毛や体毛を抜くことが習慣化してしまって、結果、なかなか生えてこないという症状になります」

田村「このタイミングでは、まだ菊紫郎さんにはおっしゃってないということですね」
光子「当時はやっぱり誰にも言えなくて、絶対外れないように細工をしていたんですね。地毛と絡めて、接着剤で止めて、みたいな。彼にも言わなかったんですよ。一切気づかれないように、さわられないように」

河合「その、取れちゃいそうな瞬間とか、シチュエーション的にはありますよね」
光子「なくはないんですけど、本当に長年隠し続けてきた技があったので」


▶妊娠>>隠し続けて…

交際を経て一緒に暮らす生活が始まり、光子さんは子どもを授かった。さすがに妊娠となると職場の先輩たちにも隠しきれなくなり、事実を明かすことになる。

田村「(子どもの)お父さんは、っていうこともですか? (みんな)ぶったまげなかったですか? 授かったことがびっくりなのに、それを上回る情報が入ってくるから」
光子「最初は怒っていただいたりしましたけれども。というのも(菊紫郎さんの)最初の奥様も新橋の方で、先輩たちはそのことも知っているので、『またか!』と(笑)」
田村「菊紫郎さん、秘密慣れしてますね」
菊紫郎「どこかで秘密を楽しんでいたのですが、楽しみすぎました(苦笑)」
田村「菊紫郎さんのほうから言うってことはないんですか?」
菊紫郎「ないです」
「怒られるのが怖い?」
菊紫郎「そういう男らしさはないです」
全員 (笑)

田村「その場合、菊紫郎さんはみんなに伝えた後の最初のお稽古のときに、どういう感じで入っていくんですか? 気持ちがこう……」
菊紫郎「ゆらぎません」
田村「何も触れることなく? 『はい、始めるよ』みたいな」
菊紫郎「はい」
田村「『始めるよじゃねーよ!!』って、なりそうだけど(笑)」
河合「そこまでいったら、『はい!子どもできましたー!!』っていうくらい開き直ったほうが楽かなって思うんですけれど、そこはぶれないんですね」

菊紫郎「ぶれないですね。僕は自分の持っているものを教えて、伝えていくだけなので
田村「そうありたいよね、なんかね」
サーヤ「ほんとですよね。よく考えたら別に言わなくてもいいですもんね」

田村「プライベートだし」
河合「そこまで隠し続けてないですよね」
光子「妊娠は、はい。でも髪の毛のことは、それでも誰にも言わなかったので」
河合「えっ、菊紫郎さんにも?」
光子「言ってないです」


▶結婚>>すでに数百万円かけて

2013年に長男が誕生し、その後、結婚式を挙げた2人。さらに次男も生まれたが、光子さんはまだ菊紫郎さんに抜毛症のことを打ち明けられず、一人で秘密を抱え続けていた。その時点で、出会いから出産を経て、5年の月日が流れていた——。

「5年も!?」

田村「隠し続けて5年って。苦しいよ、言いたくても言えないのは」
サーヤ「逆に5年隠せたら、もうそのままいくと思うんです。私だったら」

光子「いつか言わなきゃいけないなとは思っていて、例えば交通事故や災害に遭って、いつかバレてしまうんだったら先に言わないといけないと思いつつ、日常の中では怖くて言えない、というのがずっと続いていました

田村「ここで言わなきゃ、というのは何かあったんですか?」
光子「私が当時使っていたウィッグって、ひとつ50万円ほどしたんですね。だいたい2年に一度買うとなると、数百万円くらいかかっていて。子どもにもお金がかかる中で続けていけないな、って思ったのと、本当に頭(髪)に人生を左右されてきたので、いい加減にやめたい、どこかで決着をつけないといけないと思って、(打ち明けることを)ある日決意しました」

田村「どこで、どういうふうに伝えたんですか?」
光子「旅行先で『実は私、ウィッグをずっと使っていて、でももう買うのも嫌だし隠しているのも嫌だから、髪の毛を剃ろうと思うんだけど、いいかな?』って」

田村「僕たちは抜毛症の情報を聞いた上での今の言葉ですけれど、その時の菊紫郎さんは何も知らないですからね。何て答えられたんですか?」
菊紫郎「ちゃんと、こう、表現してくれましたから」
田村「ウィッグをとって?」
菊紫郎「はい、神々しかったですよ。ですから『いいね!』と、それだけです。尼さんみたいですね、と」

田村「どう感じました? 光子さんは」
光子「やっぱりほっとしたというか。正確には『結婚してるけど、尼さんみたいでいいね!』って言ってくれたんですよね」
田村「粋だね~。そんな急に出てこないよね」
光子否定でもなく、驚きでもなく、問い詰めでもなく、ユーモアで返ってきたのはとてもありがたかったですね

田村「そこからいろいろ話したんですか? 今まで言えなかったのは苦しかったんじゃないか、とか」
光子「しなかったですね」
菊紫郎「何と説明していいのかわからないけれども、この外見じゃなく、中で(心を)つかまれているから、外見はあんまり気にならなかったのは事実ですね
「運命だったんですよ。一緒にいることが」


▶現在>>自分らしく踊る

家族へのカミングアウトの後、光子さんはウィッグをとった姿をブログに掲載し、抜毛症であることを公表。頭髪に悩みのある仲間たちとNPO法人を立ち上げた。アーティストとのコラボイベントなどを企画し、ファッションやアートを通して、抜毛症や脱毛症などへの理解を広げる活動を行っている。

光子「団体を結成して3か月後ぐらいに、ニューヨークで国連の関係のチャリティーイベントに出ることができて、その振り付けを菊紫郎に相談したりしましたね」
田村「そういう姿を、菊紫郎さんはどんなふうに見守っていたんですか?」
菊紫郎「お仲間たちの中で、そこに浸透して一緒にいて……。僕といるときと、また共有するものが違うじゃないですか。そうすると彼女はもっと伸び伸びと、自由にいけるんじゃないか、と」
田村「この“自分らしく踊る”というのは、菊紫郎さんのことですかね」
菊紫郎「(踊りには)流儀があって、必ず頭ごなしに『これをやれ!』って、型にはめられるんですよ。だけど結局は自分がいちばん動きやすい(ものになっていく)。動きやすいっていうことは“自分らしく”あるのだろうと、60何年で……」
田村「たどり着くんですね」

菊紫郎たどり着いたかどうか、わからないですけど、人が生きていくうちに、やっぱり……。この“自分らしさ”っていうのは踊りだけじゃなくて、人が生きていく中でも、自分をわかって“らしく”生きるか。難しいですけどね

田村「“らしく”生きるって、本当に大切だなと思うし、光子さんはそれを近くにいて感じていらっしゃると思いますけれども、いかがでしょう?」
光子「いちばん“らしく”生きている、お手本なんですよね。私は、こうあらねばならない、例えば髪の毛がなきゃダメとか、いろんな制限をかけて生きていた時期があったので。それが自分にとって心地いい選択ならそれでいいと思うんですけれど、どこかに苦しさや窮屈さを感じるんだったら、本当は自分が何をしたいのかを見つめながら生きていきたいと思いますね」
田村「つながりますね、菊紫郎さんの“らしく”っていうところに」


▶▶2人にとって“超多様性”とは?

田村「最後に2人から『“超多様性”とは何か』を」

光子自分で自分の生き方を決めることかなって思います」

菊紫郎素直で、精神的財産を持つ、ということです」

田村「精神的財産?」
菊紫郎「どんどん積み重ねたものを財産として、素直に物事にあたっていくのが多様性ではないかなと思っています」


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