クオリティーの高いサウンドとこだわり抜いた映像美でJ-POPの名曲を届ける音楽番組「SONGS」。番組の魅力の1つとなっているのが、アーティストの楽曲やその世界観を表現した、スペシャルセットでのライブパフォーマンスだ。
6月23日、「SONGS」の美術デザインを手がけるNHKデザインセンターの山口高志チーフ・プロデューサーによる特別講義が多摩美術大学で実施された(その模様を紹介した記事はこちらから)。
今回は、その続編。実際に学生たちが挑戦しているスペシャルセットのデザインの途中経過を取材した。
自分の好きなアーティストを想定し、「SONGS」で披露する曲を選曲。ライブ映像を通して、アーティストの魅力を伝えるためのスペシャルセットをデザインし、模型を製作する。
デザインに挑んでいるのは、多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科で映像デザインや空間デザインを学ぶ学生15人。7月28日、中間報告となるスケッチプレゼンが行われた。
前回の山口さんによる講義で学んだのが、「何をテーマに置いてスペシャルセットをビジュアル化していくか」という“コンセプト”の重要性。それぞれの学生たちがデザインを手がけたいアーティストを選び、そのアーティストからどのようなコンセプトを導くのか。それには、アーティストのことを深く知り、何度も楽曲を聴き、彼らが表現する世界を理解しなければならない。
ある意味、正解のない答えを導き出す難しい作業ではあるが、学生たちは自分が感じたアーティストの魅力を、思い思いにスケッチに落とし込み、プレゼンを行った。
〇学生たちがスケッチデザインに込めた思いとは……
今回は、前回の講義終了後にお話を聞いた3人の学生が手がける、スペシャルセットのスケッチデザインを紹介。コンセプトを立てるうえで心がけた点やデザインで苦労した点などを聞いた。
★コンセプト:「ブルーハーツとの対話」
「SONGS」の視聴者の方に何を伝えるのかということを第一に考えながら、「THE BLUE HEARTS」の曲に込められたメッセージをどのようにセットでデザインするかを意識しました。
コンセプトを立てるうえでは、「時代を超えて人々に響く」というところが彼らの魅力だと思うので、曲が発表された当時の年代のことを調べたり、その中で現代とつながる共通点を探したりという作業に力を注ぎました。見つけた共通点としては、どんなに苦しいときでも人々は夢を追い続けていろいろな発展を遂げてきたということ。また、同じ過ちや事件が繰り返されているということ。この2つが、時代が変わっても共通点だと言えるものではないかと感じました。
デザインで苦労したのは、曲を調べる中で、バスだったり電車だったり、具体的なモチーフが出てきても、単にそれを構成すると説明的なデザインになってしまう。なので、空間として面白いことが重要であるという大前提を見失わないようにすることが大変でしたね。
これから模型製作に移りますが、模型全体のクオリティーが高くても、カメラのレンズ越しに映ったものが全て。まさに、カメラのアングルであったり、照明の入れ方であったり、その辺も重要視しながら取り組んでいきたいと思います。
(2年生 久保田小春さん)
★コンセプト:「海」
ほかの音楽番組では見られない、「SONGS」だからこそできるデザインというものを念頭に置きながらデザインを考えました。私が選んだ「Aqours」は、アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の声優9人から結成されたアイドルユニットです。
デザインのコンセプトは、彼女たちのグループ自体のコンセプトである“海”。アニメの舞台が静岡県沼津市ということもあり、沼津の海についてたくさん調べましたし、私自身もこれまで沼津に何十回も行っているので、そこで見た風景や感じた空気感をデザインに落とし込んでいきました。
ただ、実際のセットにしたときのサイズ感というものを考えずに、デザインしたいようにデザインしてしまったという反省点もあります。これから模型を作っていくうえでは、現実味のあるものにしないといけないですし、苦労してたどりついたこのデザインを殺さないように表現したいと思っています。
(2年生 齋藤遥さん)
★コンセプト:「再会」
最初の山口さんの講義で印象に残ったのが、披露する3曲にストーリーを持たせることでした。私が選んだアーティストは「嵐」。今は活動休止していますが、活動を再開して「SONGS」に出演したら、どんな嵐のライブパフォーマンスを表現したいかを考えて、“再会”というコンセプトにしました。
嵐が歩んできた20年の中で、シングルの発売日や、5周年や10周年といった区切りごとにどんな曲を出していたのかなど、嵐の時間というものを調べつくしました。苦労したのは、1曲1曲に持たせたいメッセージ性を考えたときに出てきたモチーフを、直接的にセットに置くだけだとつまらなくなってしまう。例えば、船のセットは直線的ではなくて、ちょっと緩やかにデザインするなど、モチーフの形にどう変化をつけるかが難しかったですね。
これから模型のセットを作るうえでは、3曲のセット展開の中で同じモチーフをうまく活用しつつ、スタジオのサイズ感にこだわりながら完成させたいです。
(2年生 清水真心さん)
約1か月をかけて、セットデザインのベースとなるコンセプトを立て、スケッチデザインを完成させた学生たち。自身のアーティスト愛だけではなく、どうすれば視聴者の心に響くのかということを意識したデザインを、一人一人が創造し、スケッチに表現していた。
学生たちの中間報告を受けた山口さんは、想像以上の出来栄えにさらなる期待を寄せる。
「全体的に気合いの入った、高レベルな作品がそろっていると感じました。先日の講義でお伝えした大切なことを、多くの人がよく理解して、カタチにしてくれていると思います! 今のところ、ほぼ全ての作品が、セット全景の画でプレゼンされていますが、『SONGS』のスタジオには常時6~7台のカメラが入ってさまざまな位置から画を切り取っていきます。ここから先の更新においては、それぞれの曲の“キラーショット”(ここいちばん!の画の切り取り方)なども視野に入れて、画づくりしてくれると良いと思います」
課題演習の次のステップは、いよいよスペシャルセットの模型を製作する。今回、発表したスケッチデザインがどう立体的なセットに変化するのか、非常に楽しみだ。次回は、10月の模型完成取材の模様を紹介します。乞うご期待!