これまでに放送された「素朴なギモン」とその答えを、忘れないように復習しておきましょう。
菊といえば秋の花。スーパーなどでお刺身のパックを買うと、必ずと言っていいほど、一緒に添えられていますよね。確かに彩りはいいですが、それ以外に何か理由があるのでしょうか?


答え:お刺身をしょうゆで食べるようになったから

詳しく教えてくれたのは、食文化史研究家の永山久夫さん。
その昔(奈良時代ごろ)、日本で生の魚を食べるのに使われていたのは、酢だったと言います。酢は、魚の生臭みを消すのに役立つうえ、防腐・殺菌効果もあり重宝されました。

保存技術がない時代、魚の生臭さを消すためにも、においや味が強い酢はうってつけだった。ただし、酢自体が高級品だったため、まだまだ上流階級の食べものだった。

しょうゆで食べるようになったのは江戸時代から。漁業技術や流通の発達と、生魚に合う「濃い口しょうゆ」の登場がきっかけで、お刺身は庶民たちの間にも広まっていったのです。

高価な酢に代わり、しょうゆが登場。特に関東で造られる濃い口しょうゆは、においや味が強く、魚の生臭さを消し、おいしく食べられるとして庶民の間にも広まった。

ところが、そんな「刺身ブーム」の一方で、人々は生食による〝食中毒〟の問題に悩まされることに。

そこで注目されたのが、特に発生件数が増える夏から秋にかけて咲く菊でした。古来、菊は、体によいものと考えられ、漢方薬に使われたり、重陽の節句には、病気から身を守るために菊の花を酒に入れて飲む習慣があったりするほどでした。

実際、現在では、菊に多く含まれるビタミンEに免疫機能を高める効果があることや、菊エキスに解毒作用があることなどが明らかになっています。

まず、菊の花をちぎってしょうゆの中に散らす。そして、刺身にまんべんなく菊をつけて食べる。「魚の味がしっかりしたあとに、菊の香りがしてうまい!」と永山先生。さらに「菊をかじって、うまいと感じられたら、その人は大人ですよ」とのこと。あなたも試してみては?

もちろん、当時の人々が菊の効果をどこまで知っていたのかはわかりません。しかし、「体によい菊を一緒に食べれば食中毒を防げる」と信じたことから、(しょうゆで食べる)お刺身には菊がつきもの、という習慣が生まれたというわけです。

(NHKウイークリーステラ 2021年11月5日号より)