大小の島々を上空から望む美しい景観。山の頂にそびえ立つ異質な三本の塔から漂う近未来観。そして、主人公の若き総理、らん(神尾ふうじゅ)の透明感あふれる魅力が見る人を引きつける土曜ドラマ「17才の帝国」。(NHK総合で6/25(土)〈金曜深夜〉・26(日)〈土曜深夜〉で一挙再放送、BS4Kで6/12(日)より放送スタート!)

「私は、AIが総理に選んだ17才の青年を信じることができるのだろうか……」
放送を見ながら、ずっとそう考えていた。

実は、我が家にも17才になったばかりの青年がいる。
はたして息子は、真木亜蘭のように「この国を良くしたい、人々を幸せにしたい」と思っているだろうか。そして、彼のような行動力はあるだろうか——。
このような親目線でドラマをながめ、思いを巡らせていたのは私だけではないだろう。

ドラマ第1回で、「経験は人を臆病にしたり、人を腐らせることもある」と真木は語っていた。一方、最終回(第5回)では、大人である平(星野源)が総理大臣に就任したように、経験が新たな可能性や未来を拓くことを私たちは知っている。

17才の息子には、さまざまな経験をしてもらい、判断力や行動力を高めてほしい。そんな、勝手な親心も加わり、今回、息子をある場所へ連れ出すことにした。

「17才の帝国」の放送と時を同じくして、NHK放送技術研究所(東京・世田谷)では、「技研公開」が3年ぶりにリアルで開催された。(現地での一般公開は5月26~29日。6月30日までオンラインでも開催されている。https://www.nhk.or.jp/strl/open2022/index.html
ことしのテーマは、「技術が紡ぐ未来のメディア」。新たな視聴体験をもたらす3次元映像技術や、放送・通信などの伝送路を意識せずにコンテンツを楽しめる技術など、16件の研究開発成果を紹介する内容だ。

都内の高校に通う息子は、根っからのリケダン(理系男子)だ。ふだん、数学が得意なこと以外は、家族に多くを話さない。将来の夢も、大学ではどんな学部に進みたいのかも答えない。ところが……

LINE:「技研公開2022、興味ある?」
LINE:「行ってみる!」

返事は、秒でかえってきた。リケダンのアンテナに「技研公開」が引っかかった。
息子が「未来のメディア」に触れ、何をどう感じるのか知りたかった。(息子と2人での外出が楽しみでもあった)

会場入り口
会場内の様子

私と息子が訪れた公開最終日(29日)は小学生の親子連れも多く、「体験コーナー」は大盛況だった。
新しい技術の展示は全16件、加えてNHKの放送技術を一般活用する展示もあった。

人と人が近づくと円の色が変化し、ソーシャルディスタンスを表示する技術も。

私「これ、ちゃんと理解はできているの?」
息子「専門用語は分からないけれど、概要は理解できるよ」
なんとも、頼もしい返事。
私「いちばん興味が湧いたのは、何?」
息子「パーソナルデータとコンテンツデータの活用技術かな」

それは、こんな新技術だ↓
https://www.nhk.or.jp/strl/open2022/tenji/2/index.html

息子の興味の方向性が、少し意外に思えた。展示の中には3次元の映像技術や立体的な音響技術など、もっと17才の青年の興味を引くような「未来のメディア」があったからだ。

私「他にも、有機ELフィルムのディスプレーとか面白い技術があるのになぜ?」
息子「自分にいちばん関わりがあって、実用化もこれがいちばん早いでしょ」

思えば、息子は幼いころから映画はタブレット端末で視聴、今ではノート代わりにタブレットを活用している。NHK番組もオンタイムでテレビで見るのではなく、「NHKプラス」をスマホで見ている。まさに、ネットネイティブ世代のど真ん中を生きているのだ。

そんな息子が、テレビ視聴を前提にした技術よりも、ネットを介してパーソナルデータを扱う最新技術に興味が向くのもわかる気がした。パーソナルデータの技術は、これからテレビ放送にデジタル技術が深く関与してくると、さらに重要になってくるはずだ。

息子は、その後も一つひとつの展示を食い入るようながめ、研究員の説明を全て聴き、およそ2時間かけて「技研公開2022」を満喫した。見た技術が現実社会のどんなところで活用できるのか、珍しくじょう舌な息子と話しながら帰路についた。

17才の青年の理解力と発想は、母親の想像の域をはるかに超えていた。“知らぬは母親ばかりなり”。私の足取りが、来るときよりも軽くなったのは言うまでもない。

息子は技研公開の翌週、都内の大学へと講演会を聴きに出かけていった。
技研公開がもたらした高揚感が、“17才の帝国”の扉を開き、想像力と好奇心を刺激したのかもしれない。

私の身近にいる17才の青年は、あふれる情報の選択も巧みにできるうえ、メディアとの距離感も自在だった。私たち大人世代とは明らかに異なる経験をしてきている。そして未来に向け、新たな経験を重ねるべく歩み始めていた——。

「17才の帝国」の最終回。
真木亜蘭が思い描いた理想の世界は、幼く利己的な「青い夢」であったと分かった。そうであっても、AI・ソロンは、経験のない17才に社会を変える“種”を見つけ、再生を託したのだろう。

自分に関わるものの発展や変化を望む17才の「青い夢」は、利己的であってもかまわないと私も思う。それがきっと、「この国を良くし、人々を幸せにできる」アイデアや技術につながると信じているから。

新しい世界に必要な「変革と創作」の種は、誰もが持っている。それぞれの時代のなかで育まれ、やがて芽を出す。もし今、私が実験都市ウーアの住民ならば、17才の青年を信じて未来を託せると思った。

(取材・文/NHKサービスセンター 木村与志子)