毎週土曜 総合 午後10:00ほか
「NHKプラス」で1週間見逃し配信中!
第5回「ソロンの弾劾」6/4放送
平(星野源)は、7年前の献金事件の鍵を握る日記を手に入れる。そこには、鷲田(柄本明)政権を揺るがす重大な秘密が書かれていた。日記を携え、総理官邸を訪ねる平。一方の真木(神尾楓珠)は、事件に巻き込まれ亡くなった幼なじみのユキを、AI・スノウとしてよみがえらせていた。
自らに迫る危機を察知したスノウは、真木と平がいない間に、サチ(山田杏奈)を取り込み暴走を始める。はたして、真木、ウーアの行方は......。
最終回が放送された。無事終わった。最終回だもの、当たり前だ。
NHKプラスで1週間は配信しているので、まだの方は是非!
みなさんはこの作品をどう見ただろうか。TwitterなどSNSを眺めていると、だいたい7~8割が好意的な感想だ。
私自身、とても面白く、感銘さえ受けた。物語の随所に、現在の政治に対する提言・批判がちりばめられていたし(ある中学校では、公民の授業の教材にもなったそう)、何より、この独特な世界観を具現化するため、有能なクリエーターたちが関わり、クオリティーの高い映像作品に仕上げられていた。
これこそNHKの真骨頂。スタッフ・俳優の皆さんに敬意を表したい。
一方で、全5回という限られた話数だったこともあり、その中で描けることに絞らざるをえず、十分に描けないと判断したものはあっさり削ったような感も。SNSにおける不満や要望も、話数の少なさに起因するものが多かった。
私がいちばん残念だったのは、真木と鷲田照(染谷将太)以外の閣僚の人物像が掘り下げられなかったこと。
せっかくソロンが選んだ閣僚だもの。もっと雑賀すぐり(河合優実)や林完(望月歩)に寄った話が見たかった。たぶん全8~12回で設計されていたなら、この2人がメインキャラとなる回もあったはず。
ぜんぶ全5回のせいだ。
じつは第1回で、すぐりに同性パートナーがいることをほのめかすようなシーンがあった(官邸から出てきたすぐりと女性が親しそうに帰るシーン)。
最近、NHKのドラマではLGBTQのテーマやシーンが取り上げられることが多い。現在とても関心の高いテーマだから、公共放送としてちゃんと意識・配慮してますよ、という表明でもあるのだろうが、ちと多すぎないか?とも思う。
前述のシーンを見たときも、「NHK、ここでもかー」と思ったが、このテーマがいつクローズアップされるんだろうと、期待する思いもあった。
しかし、あっさりスルー。ぜんぶ全5回のせいだ。
すぐりといえば、最終回中盤のセリフがよかった。
スノウの暴走に加担してしまい、閣僚に謝るサチにすぐりが言う。
「私たちに懺悔しても意味はない......。
私17才のとき、学校を燃やそうと思った。あのころの私はすべてに怒ってばっかりだった。自分の怒りで窒息しそうだった。思い出したくもない。だけど17才の自分はずっとそこにいる。あんたもそんな自分をずっと抱えて生きていくんだよ」
心にぐさっと刺さった。全国のかつて17才だった人みんなに刺さったはず!
吉田玲子さん(の脚本)、すごすぎます!
河合さんのお芝居もインパクトがあり、終始目が離せなかった。こんなセリフをクールに言い放つ雑賀すぐりを、もっと知りたかった。
林完にしても、体が不自由な兄弟がいたことでデザインの道に入ったことに少し触れられていたが......。望月くんの癒やし系の笑顔は、このドラマの善意の象徴だったのに。残念——。ぜんぶ全5回のせいだ。
この物語で、もっとも宙ぶらりんの存在はサチだった。
ウーア政権にずっとつかずはなれずの状態だったので、どんな役回りなのかある意味疑問だった。
政権側と市民生活の両方が見られる立場なので、視聴者目線で動き回る狂言回し? それとも、単なる真木とスノウ、サチという三角関係要員かとも思いかけたが、最終的に、サチはスノウを暴走させるトリガーだったんだね(サチの「善意ポイント」が、ユキがソロンに侵入する窓口として使われるのは予想外だった!)。
サチとスノウの二役は見事だった。山田杏奈さんはエンディングでも毎回違う映像で登場していたから、このドラマでもっとも稼働時間が長かったのではないだろうか。すばらしい演技力を発揮していた山田さん、お疲れ様でした。これからも期待してます。
そして私がいちばん意外だったのは、真木があっさりスノウと断絶したこと(正確には、真木が自分を排除すると考えたスノウが、先回りして暴走しちゃったんだけど)。真木はもっとスノウに固執すると思っていたので、ある意味肩透かしだった。
ただよくよく考えてみれば、真木とスノウの断絶は不可避だった。
幼いころから友達がおらず、自作のAIとの関係を深めてきた真木。唯一無二のユキを失ったことで、社会の不条理や大人の所業を憎み、
「大人は汚い、大人がいない世界こそ理想」と思っていたのはスノウというより、じつは真木自身だったろう。
そのうえ若く、純粋であるがゆえの潔癖さや、きっぱり白黒つける容赦のなさもあった。デジタル的な“無菌状態”に長くいたからなのかもしれない。
そんな真木がウーアの総理に選ばれ、現実の政治の世界に放り込まれたことで、しがらみまみれのドロドロな人間関係や、どうしても白黒つけられない社会問題に直面する。
理想の国を目指し、誰かを幸せにすれば、誰かが不幸せになるというジレンマ。ただ、最初は「総理君」を信用していなかった商店街の人々と交流する中で、いつしか彼らから熱い支持を得るように。
そんな”生身の”経験が、これまで自分が信じていた価値観を変化させ、新しい境地へと向かわせることに。志半ばになってしまったが。
「どうしてソロンは、真木を(総理に)選んだのか 」
ドラマの中でずっと語られてきた問いの答えが、最終回でやっと見えたような気がする。
誰にも犯せない純粋さ、誰にも崩せない一途さ、誰にも曲げられない公明正大さを持つ真木(もしかすると、17才の平さんもそうであったかもしれない)。
そんな彼がウーアの総理としての経験を積み、人間の汚さやさまざまな矛盾に向き合うことで、現在の政治を変えるまったく新しい政治家に変貌する可能性がもっとも高い。そう判断したのだと。
ソロンは、真木に日本の救世主になることを期待したのではないだろうか。
それにしても、一介の高校生に一つの街の住民生活を賭するとは、考えてみればソロンも大胆なことをするなあ。人間には到底できない決断だよなあ。
ただ、ウーアの総理はやはり“17才”でなくてはならなかったのかも。それ以前は未成熟すぎる。それ以降だと汚れすぎている?(苦笑)最近、「18才から成人」となったことで、より17才って絶妙な年齢になっている。
2代目総理に就任した照も、真木イズムを継承。一皮むけていい感じになっていた。真木を補佐してきた平も、この半年で大きく変わった。
そして、ついに日本のトップに。平さんが総理大臣を務める国に住んでみたい、と思うのは私だけでしょうか。
それにしても鷲田総理、元秘書の日記を暴露されて、あっさり辞任したねえ。あれ?政治家ってこんなに潔く責任をとる人々だったっけ? そんな疑問が浮かぶほど、潔くない人々が実際に多いというのも悲しすぎるなぁ。
ウーアから離れた真木は、これから本当の救世主となれるのか? 続編があれば、それが描かれるかもしれない。もしかすると、悪に手を染めた総理・平さんと真木の闘いが見られるかもしれない。
長々と失礼しました。下記のサイトでは、ドラマのスタッフの舞台裏コラムが掲載中。ここでしか読めない内容も多いので、ぜひチェックしてみてほしい。
https://www.nhk.jp/p/ts/VNXRGXV8Q3/blog/bl/pJePOEwvmB/
こちらでは、かっこいいエンディング曲
「声よ-坂東祐大feat. 塩塚モエカ(羊文学)」のロングバージョンが!
https://www.youtube.com/watch?v=kabCBUpyFHs
(最後の蛇足)
前回のレビューで、最終回に紹介される政治家の名言を、バラク・オバマ元大統領のものと予想したが、見事外れました。
最終回「ソロンの弾劾」
「勇気を持った一人の人間は多数派である」
トーマス・ジェファーソン
とてもいい言葉です、はい。
後出しじゃんけんになるが、じつは前回の予想のときから、フランクリンの没年とリンカーンの生年の間に、19年の開きがあることは気になっていたんですよ(苦笑)。
(そのほかの政治家の生涯は、すべて重なっている)
でも今回、ジェファーソンが入ったことで、結果的にそこもしっかり埋められました。
ベンジャミン・フランクリン(1706年~1790年/アメリカ合衆国建国の父の一人)
トーマス・ジェファーソン(1743年~1826年/アメリカ合衆国建国の父の一人)
エイブラハム・リンカーン(1809年~1865年/共和党・大統領)
ウィリアム・ジェニングス・ブライアン(1860年~1925年/民主党・大統領候補)
ジョン・F・ケネディ(1917年~1963年/民主党・大統領)
??バラク・オバマ(1961年~/民主党・大統領)??
今回の名言たちは、何より言葉の持つ意味が重要視されて選ばれたのだろうし、私の予想もまあ余興であり、さすがに正しいとは思っていない。
ただ、もしも続編が放送されて、そこで引用される言葉がオバマさんのものだったら、アメリカの建国史を完全コンプリート! なんていう手前勝手な想像をしたりもしている。
(完)