江戸・吉原で生まれ育ち、後に“江戸のメディア王”となる主人公・つたじゅう三郎ざぶろうを、横浜流星が生き生きと演じている。ドラマが新たな章に入ろうとしている今、横浜は何を思い、作品と向き合っているのか。これまで蔦重として生きてきた日々と、今後の見どころについて語ってもらった。


蔦重として「生きる」なかで、自分と蔦重がお互いに背中を押しあっている感覚に

——放送が始まって、反響をどう受け止めていますか?

いちばんうれしく思うのは、これまで大河ドラマに親しんでこなかった方々から「見ているよ」という連絡が来ることです。

NHK作品に初めて出演させていただくにあたって、大河ドラマを昔から好んで見てくださっている方々はもちろん、普段は見ていない方々にも見ていただくことが自分の使命と考えていたので、それをかなえられていると実感しました。撮影は今もハードですけれど、楽しんでくださる方々にしっかりとこの作品を届けようと、その一心で撮影に臨んでいます。

——SNSでは絶賛の声が多いですが、視聴者から愛されている実感はありますか?

自分が「生きる」うえでも、客観的に見ても、蔦重という人物は愛されるだろうなと感じていました。SNSのご意見は一部しか見れられていませんが、評価をいただいているということで、まっすぐ走ってきたことは間違っていなかったと感じています。撮影はまだ半分ですけど、残りもこのまま突き進もうという気持ちになっています。

——クランクインしておよそ10か月、蔦重を演じてきて、今どんな心境ですか?

たまに自分自身とリンクすることがあります。ドラマのなかの蔦重は、次第に周囲の人から認められるようになってきましたが、それでも叶えられる望みと叶えられない望みがあります。自分もたくさんの方々に知ってもらえるようになりましたが、壁にぶつかることがあります。そうしたときに「蔦重だったら、どうするだろう?」と考えて、彼から学ぶことがある。そして、逆に「自分だったら、こうするけどな」と思うこともあって、お互いに背中を押し合っている感覚です。

——ご自身は蔦重のようなタイプではないと常々おっしゃっていますが、これだけ彼と接していると影響を受ける部分もあるのでは?

蔦重に限らず、作品に取り組んでいる間はそうなることが多いですけど、やはり蔦重を「生きている」今は、影響を受けることが大きいです。

——ドラマでは蔦重の商才が描かれていますが、彼の魅力については、どのように感じていますか?

周りを巻き込む力がすごいです。まだ、そこまで力があるわけじゃないのに、「蔦重なら成功できるかも」と希望を託せますし、みんなが光として見てくれます。そして完璧じゃないから、応援しようと思える。何よりも、彼は言葉だけではなく行動に移します。人間くさいところも含めて、すばらしいと思います。

——蔦重は計算して物事を進めていくタイプではないですね。

そうなんです。絵師や戯作者とは、彼らの作品を本当にいいと思って接しているんです。人と関わる仕事は、相手に対するリスペクト、敬意がないと成り立ちません。「親しき仲にも礼儀あり」と言いますが、蔦重は相手に失礼のないように「仲良くなってもここまで」という線引きも出来ていて、そういうところも素敵すてきです。


難しかった恋模様。鳥山検校に嫉妬を覚えたり、瀬川との足抜けを考えたりする心の動きがわからなかった……。

——共演者には、時代劇の大御所や個性豊かな先輩方が大勢いらっしゃいます。一緒に仕事をされる中で、影響を受けたことや学んだことはありますか?

先輩方の現場でのたたずまい、お芝居から学ぶことはたくさんあります。皆さんの着物の着こなしや動きも勉強になるし、セリフの発声など「どうやっているんだろう?」と思いながら見ています。皆さん撮影の合間はあいのない会話をされているので、それを聞いたり、たまに話に加わったり、という感じです。

中でも(片岡)愛之助さんは、何かと気にかけてくださって、気さくに話しかけてくださいます。「べらぼう」の撮影が長引いた日に、歌舞伎公演のため京都へ向かわれて、そのときにも「頑張ってね。行ってくるね」と声をかけてくださいました。その後ケガをされたのでとても心配していましたが、復帰されてホッとしました。

——渡辺謙さんとのお芝居で、印象に残っているシーンはどこですか?

第1回で田沼様の屋敷に行って「けいどう」をお願いするシーンです。実はあのシーン、クランクインしてまだ日も浅いうちに撮影したんです。吉原の女郎たちとも会っていないのに、吉原の女郎たちを救うよう田沼様にお願いする。「スタッフも忘八ぼうはちみたいなことをするなぁ」と思いました(笑)。でも、それが逆に未完成な蔦重でいさせてくれて、いい緊張感になったのかなとも思います。

——瀬川(小芝風花)との恋模様が切なかったですが、瀬川が蔦重のもとを去ったことについて、横浜さんはどう思いましたか?

ふたりの恋を応援してくださった方たちには残念な結果になったと思いますが、吉原のためにはこの結末で良かったんじゃないかな、と思います。

実は、そこに至るまでの第8回、第9回は、いちばん悩んだところで、森下(佳子)先生ともお話をさせていただきました。鳥山けんぎょう(市原隼人)に嫉妬を覚えたり、瀬川との足抜けを考えたりする心の動きがわからなくて……。

これが新さん(小田新之助/井之脇海)とうつせみ(小野花梨)だったらわかるんです。でも、瀬川とは10何年も一緒にいて、もう妹としてしか見ていなかったのに、そんな気持ちになれるのか、と。自分の恋心にパッと気づくというのが、なかなか難しかったです。

ようやく折り合いをつけられたと思ったら、第14回で瀬川がまた吉原に戻ってきて……。気持ちをどうしたらいいのか、本当に悩みました。

——小芝さんと話し合いをしながら作っていったのでしょうか?

彼女に大きな枠組みを相談することはありませんでしたが、1シーン1シーンを作るための話し合いをしました。結果的にたくさんの方に見ていただけて、好評だったようなので、それは良かったです。


成長する分、夢や目標のスケールが大きくなって、これからも失敗は続きます。それでもへこたれずに前に進んでいくのが蔦重 

——第17回から新しい展開に入りますが、蔦重はどう変化しますか?

根本は変わらないです。蔦重の明るさや、人を楽しませたいという気持ち、誰かを思う部分は変わりません。ただ、1年間にわたって蔦重の人生を「生きる」中で、第1回から第16回までは少年期という位置づけなので、重心を上げて、声も高くしていました。視聴者の方にもちょっと違和感を持たれるぐらい、自分の中で大げさにやりました。

これからは大人になって、徐々に重心が落ちて、声も低くなっていく。そして周りをより見るようになっていきます。蔦重は吸収力もすごいので、人と関わっていく中でいろいろなことを吸収し、会話の駆け引きも上手にできるようになってくると思います。

——蔦重は、これまで失敗もしていますね。

失敗から学んだことがいちばん大きいと思います。ただ、これからも失敗は続きます。成長する分、夢や目標のスケールが少年期より大きくなっていくので……。少年期と同じように失敗をして、それでもへこたれずに前に進んでいくのが蔦重らしさ。その生き方は変わらないです。

——今後の物語の注目点について教えてください。

商いの話がより本格的になって、それに従ってどんどん会話劇になっていきます。会話劇というのは技術が必要なので、ちゃんと皆様に楽しんでいただけるよう、技術を高めることを心がけています。

これから描かれる時代は、景気が低迷して米が値上がりするなど、今の時代と重なる部分があるんです。それでも蔦重は明るく、本で世の中を元気にしようと行動します。この作品を見ると、「明日が来るのが楽しみ」だと思ってもらえるように、蔦重を生きています。