時は流れて、のぶも高等女学校の4年生となった。
石材店を営む朝田家では、父・結太郎(加瀬亮)の死、釜じいこと釜次(吉田鋼太郎)の骨折と不幸なことが続いたが、草吉(阿部サダヲ)の助けもあり、今では石材店にパン屋が併設され、順調に過ごしている。
そして幼少期ののぶを演じていた永瀬ゆずなから、いよいよ今田美桜にバトンタッチ。
のぶを演じる今田に、役への思いや、朝田家の三姉妹、そして家族に対する気持ちについて聞いた。

――「あんぱん」の台本を最初に読まれて、どんな感想を持ちましたか?
とにかく展開が早く、衝撃的で、驚くこともありましたが、なんだか「人間って、そうだよなー」と思わせられる瞬間がたくさんありました。人生の明るい部分じゃないところもかなり描かれているけれど、それでもみんなでどうやって前を向いて乗り越えていくのか、みたいものを教えられている気がして、すごく勇気をもらえますね。
――朝田のぶのモデルになった小松暢さんに対する印象を教えてください。
心の奥底から、やなせたかしという人を深く、深く信じていた方ですね。やなせスタジオにもお邪魔して、当時のお2人の話を聞かせていただいたのですが、完全に分業というか、やなせさんには絵に集中してもらって、そこには一切口出しをせず、事務作業などを暢さんがされていたそうです。
本当にやなせさんの絵が好きで、やなせさんのことをとにかく信じていた、と。それが台本を読んだときの印象と完全に一致して、話を聞いているだけで、ものすごく心地いい時間を過ごせました。
――暢さんはやなせさんの圧倒的な応援団、と中園ミホさんもおっしゃっていました。
そうなんですよ。いろいろなエピソードを聞くと、やなせさんに対して「顔は今ひとつだけれど、あなたはすごい才能を持っている」みたいなことを言ったりして(笑)。暢さん自身もすごくユニークな方だなと思うんですけれど、とにかくやなせさんを励まし続けていた、いちばんの味方だったと思います。
そういう暢さんの存在があって、アンパンマンなどを見た人が優しい気持ちになれる作品が生まれたんだと思うし、もちろんやなせさんの人柄もあるけれど、暢さんがいてこそなんだな、というのはすごく感じました。
のぶは「ハチキン」だけれど、素直で繊細な女の子

――のぶは「ハチキン」と呼ばれていて、勝ち気で元気な女性というイメージなのですが、演じている中でどんな感覚になっていますか?
クランクインしたのが高知県だったので、やなせたかし記念館に行き、暢さんの写真を見せてもらったり、やなせさんのお墓に行ったり、そうしながら徐々に撮影が進んでいくうちに、のぶはハチキンで男勝りな部分があって正義感も強いけれど、とても思いやりに溢れている繊細な女の子だなと考えるようになりました。
曲がったことが大嫌いで、その当時は男性と対等にやりあうこともなかなか難しい状況だったと思うし、みんなが普通に納得していることに納得できなかったりもするけれど、逆に言えば、自分の感情にとても敏感で素直に生きている、ということなんですよね。家族思いだし、快活だし、ほかの人の気持ちも理解できる女性なので、すごく魅力的だなと思いながら演じています。
――のぶに大きな影響を与えたのは、父・結太郎(加瀬亮)の「女子も大志を抱け」という言葉だったと思いますが、父との関係はどのように解釈しましたか? 実際は、加瀬さんとのお芝居はなかった?
そうなんですよ。一緒にお芝居できなかったので、台本を読みながら膨らませたのもありますし、本読みのときの加瀬さんや、子ども時代ののぶを演じている永瀬ゆずなちゃんのお芝居を見せてもらって、そこで得た感覚を大事にしたいと思いました。父の言葉は何度も回想で出てきますし、のぶが本当に大切にしていることなので、しっかりと胸に刻んで演じることを心がけています。

――子ども時代のエピソードが、成長したのぶに反映しているところもありそうですね。
これは、単純に高知ロケで「そのシーンを見たから」ということもあると思うのですが、ヤムおんちゃんという名前がつく日、草吉(阿部サダヲ)さんが「名前は、屋村だ」と言っているのに、のぶが「ヤムおんちゃん、ヤムおんちゃん」と呼びかけているシーンが、本当に忘れられなくて。
ちょっぴり強引な感じと自分の興味、好奇心がすごく溢れているシーンで、それを見て「ああ、これがのぶだな」と思ったんですよ。すごく印象に残っていて、その強引さと好奇心みたいなものは、ずっと大事にしていきたいと思いました。
――子ども時代で、ほかに印象的なシーンは?
やっぱり、少年時代の嵩(木村優来)を庇って、岩男(笹本旭)と対決するところじゃないですかね(笑)。私自身も見るのをすごく楽しみにしていたシーンの1つだし、その前に「うちが守っちゃる!」と言っているところも……。やっぱり、のぶが嵩に対してハチキンな部分を見せるというか、のぶらしさが溢れているシーンだと思いますね。
――のぶと今田さんで、通ずるところはありますか?
のぶもそうですが、暢さん自身が挑戦心を持っているというか、バイタリティーに溢れていて、何事も積極的に取り組まれていた方なので、演じながら「すごいなぁ!」と圧倒されることのほうが多いですね。とにかく前向きだし、私はネガティブなところもあるので。ただ、私も最終的にはポジティブなところに落ち着くので、のぶの気持ちもわかるな、と思いながらやっています。
朝田家の三姉妹、そして家族に対する気持ちは

――朝田家の三姉妹はそれぞれが魅力的で、印象的なシーンも多いのですが、今田さんはどう感じていますか?
女の子3人の姉妹だからこそ言えることもあり、家族みんなでいるときの明るくガヤガヤした雰囲気と少し違うトーンになる感じで、ジーンとくるシーンがたくさんありますね。
私も3人きょうだいの長女で、1つ年下の妹、その下に弟がいるので、共感できるところがあります。例えば、朝田家みんなでいるときののぶと、蘭子(河合優実)とメイコ(原菜乃華)の3人でいるときののぶはちょっと違っていて、その感覚ってすごくわかるな、と。3人でいるとき、蘭子・メイコそれぞれといるときもやっぱり違っていて、それも面白いなと思います。
特に、すぐ下の蘭子は、年の近い妹に感じる、わかり合っていながらも、どこかもどかしい気持ちが生まれますね。 そこにメイコが入ってくると2人で温かく見守っていたり。いろいろな関係性が面白いですね。本当に、「ああ、こういう気持ちになったことあるな」と思う瞬間があります。
――姉妹としてのコミュニケーションをとるために、心がけていることはありますか?
カメラが回っていないときは、食堂の献立を見ながら「きょう、何を食べるの?」「これとこれで迷っているんです」「あれも、これもいいよね」という、日常の何気ない会話をずっとしています。
そもそもは「きょうだいは、いるの?」とか、そういう話から始まりましたけれど、こう「話さなきゃいけない」みたいな空気は全くなくて、すごくナチュラルな状態で居させてもらっています。役柄の年齢も、それぞれの年齢と同じ順番なので、姉妹という感じはリアルに出ているんじゃないかなと思っています。

――のぶの母・羽多子役の江口のりこさんとは、以前別のドラマ(「悪女~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~」/日本テレビ系)でも共演されていましたよね。江口さんと何か話されましたか?
「いやー、懐かしいなぁ」と言ってもらって(笑)。あのドラマでは、私はちょっとポンコツちゃんで、江口さんは仕事ができるスーパーウーマンでしたけれど、また親子となると全然違っていて。もっと距離が近いシーンが多いので、すごく楽しいですね。
――お芝居のやりとりでわかっている部分もあるので、安心感もあったのでは?
そうですね。毎シーン毎シーン、撮影に入る前もそうですけれど、江口さんとのシーンは、いつも楽しみにしています。
――撮影現場で、朝田家のムードメーカーは?
それはもう、浅田美代子さん、くらばあです! 本当にチャーミングで、可愛らしくって、浅田さんが居てくださることで、朝田家はものすごく和んでいますね。ずっと共演者やスタッフさんに話しかけていらっしゃって。吉田鋼太郎さん、釜じいに、いつも「おはよう。ダーリン、おはよう」と話しかけていらっしゃるのが、すごく可愛いくて、ほのぼのしますね。

――吉田鋼太郎さんは、どんな感じですか? 割とアドリブを入れてくるとお聞きしましたが。
はい。すっごく面白いです。鋼太郎さんがやってくださることで、テンションがさらに上がって、盛り上がります。いつも笑いをこらえるのが大変で、思わずクスッとなってしまうから「危ない」と思う瞬間もあるくらいです(笑)。だからこそ朝田家は、すごく明るい空気になっているんじゃないかなと思いますね。
――今田さんから見て、朝田家はどんな家族だと思われましたか?
のぶの明るさとか、それこそハチキンと呼ばれている部分は、この家族だから、あんなふうにハツラツとして育ったのかな、と思います。のびのびとしていられるのも、「これはダメ、あれはダメ」じゃなくて、いろんなことをやらせてもらっている気がしていて、みんなのいいところを引き継いでいる部分がいっぱい見えますよね。
――それは、父・結太郎の「女子も大志を抱け」という言葉があって、羽多子がその言葉通りやらせてくれたからですよね。
そうです、そうです。それに釜じいと、くらばあがしっかり締めてくれる部分があって、そのバランスの中で育ったから、こんなふうに成長できたんだろうなと思っています。

――その家族と近いところにいる草吉は、のぶにとってはどんな存在ですか?
ヤムおんちゃんはいつもあんぱんを手に寄り添ってくれる、家族とはまたちょっと違う立ち位置で見守ってくれているので、なんだろう……。お兄ちゃん、という感じでしょうか。
――それを阿部サダヲさんが軽やかに演じていらっしゃるのではないかと想像しています。
そうですね。ちょっと気持ちが沈むようなシーンでも、阿部さん、ヤムおんちゃんがその場にいることで、ちょっと軽妙になったりもするので、そのあたりも見どころかな、と思います。
